
ひのき舞台は探偵と一緒に:13.本番#1
『 危険だわ。本当に二人きりって保障はないでしょう? あれだけのお屋敷なのよ、防犯カメラがあるだろうし、何なら隠し部屋とかがあって、いきなり用心棒登場! みたいなことになったらどうするの? 』
『 そうだよねえ確かに保障はないよねえ。用心棒登場もないだろうけど……防犯カメラならカーくんを大量生産して煙幕的に使うとか、何か対策がとれそうだけど 』
『 別に断る必要ねーじゃん。メシなら鉄子被ったまま食えばいいだろ? ちゃんと隙間があるだろーが! アイアン鉄子なんだからアイアン鉄子らしくメシ食えよ! 俺は付き人だからな。メシ食う場所には入れなくても屋敷には入れんだろ? うっかり鉄子が汚れてもいいように、代えの鉄子二号持ってくぜ。だから安心してメシ食え! 』
そんな感じの打ち合わせを幾度か経て、あれやこれや対策をし、食事会の日を迎えた。
今、彩菜の鼻を刺激しているのは、どこか懐かしさを覚える匂い。味噌に溶け込んだ砂糖が焦げつく匂いだ。グツグツと、まさにグツグツと煮込まれたおでん鍋の隣、小さな片手鍋の前には蛭田の姿。右手は休まず時計回りに動いている。
「私ね、上京して初めておでんを食べた時、とっても驚いたのよ。だって味噌だれがついていないんだもの」
蛭田は湯気の昇るおでん鍋に時折視線を移しながら、味噌だれを掻き混ぜ続ける。
調理の音が流れ続けるキッチン。否、厨房と呼ぶべきか。一体何人分の食事を作るつもりなんだ! と若干怒りに似た呆れを覚える広さ。そこにいるのは彩菜と蛭田。約束通り、二人だけ。
「あの……蛭田様。何か手伝わせて頂けませんか?」
「え? ああ、そうよね、待っているだけじゃ退屈よね……それじゃあ、お皿とお箸を、テーブルに運んでもらっても良いかしら?」
「はい」
広いキッチンには、当然のように大きな食器棚が設置されていた。しかし彩菜は食器の選定に迷わなかった。必要なものは全て、ワゴンに用意されていた。
(……元々こういうの好きなのかな。おでんって何気に手間かかるし……ご主人が生きてた頃は、作ってあげてたのかな)
蛭田の過ごした日々に思いを馳せながら、彩菜はワゴンを押してダイニングへ。ワゴンは大理石の床を滑るように進む。キャスターの奏でる音までが高級な音色に聞こえるから不思議。ゆったりとした通路を通り抜け、辿り着いた空間もこれまた広い。ため息。
部屋の中央、木製のテーブルは長方形。軽く二十人分の食事が乗りそうな大きさだが、椅子は長辺の真ん中で向かい合う二脚だけ。テーブルの脚には細やかな植物模様が彫り込まれ、厚みのある天板は、顔が映り込むほど磨かれている。
(こんな豪華なところで食事って……いつもは、独りで食べてるのかな?)