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ひのき舞台は探偵と一緒に:12.ロングラン#2
調査の依頼主であり元秘書の蕗島は、支持者達の声を今でも蛭田に届けている。蛭田が手紙を読み、覇気を取り戻せたらと考えているらしい。蕗島が蛭田の元を訪れるのは、数か月に一度と決して多くはない。しかし二人の関係は友好であると、クロガネは言う。蕗島自身も蛭田に手紙を書いているようで、それを読む時の蛭田の表情が、非常に柔らかいのだとか。
[ フキシマハ マジメデヨイニンゲンダ チュウイスベキハ アイツ ]
クロガネが最も警戒している人物。それは屋敷の管理人・町田航《まちだわたる》。
報告を受け、彩菜は鷹丸に航の情報を集めて欲しいと依頼。手にした情報によると、航は問題アリなボンボンだった。
蛭田にとって航は甥にあたる。航の父は、蛭田の夫・広海《ひろみ》の弟、町田大地《だいち》。大地は広海が継ぐはずだった貿易会社の社長として現役で活躍している。
大会社社長の末っ子として生まれた航は、金銭的な不自由なく育ち、一流の教育を受け、名門大学を卒業し、父の会社に入社。しかし使い物にならなかった。
甘えん坊でワガママ。人間関係を築けない。プライドが高く、先に入社した兄達の助言も聞き入れない。社内で孤立する息子を見かね、父親は航を、屋敷の管理人に据えた。
クロガネによると、町田と占い師は毎回封筒の受け渡しをしているのだとか。中身はわからないが、受け取った後、町田は嬉々とした表情になるらしい。異常なまでに。
[ アノオトコ ケッシテシンヨウスルナ ]
クロガネに忠告をもらうまで、彩菜はすっかり航を信用していた。否、疑ってもみなかった。初めて会った時、若干表情が気になる瞬間があったが、鉄仮面を被り占い師を名乗る女が現れたら、誰でも疑わしく感じるだろうと思った。むしろそれが普通である。
(疑わしい、確かに疑わしい……でも占い師じゃないってことはバレてない、よね……)
今日も航はエントランスで迎えてくれた。非常に物腰が柔らかく、紳士的。そんな男性が異常なほど喜ぶモノとは、何なのだろう。
(そもそも男性が喜ぶ物ってのがわかんないし……何だろ?)
鉄仮面の中。疑問を巡らせる彩菜。視線の先で蛭田が動きを見せる。窓を閉じ、風に遊んだ髪を手で整えながら、彩菜に視線を。
「貴方といると、時間がゆったり流れて行く気がするわ……もしかして、のんびりとした場所で育ったのかしら?」
ドクン。彩菜の心臓が大きく拍を打つ。まるで立場が逆転している。蛭田に自分の中身を見透かされたようで、彩菜の鼓動は走り出す。