![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/163060215/rectangle_large_type_2_d3e78ae7ca8b05c73bb6ed32f3941f91.png?width=1200)
ひのき舞台は探偵と一緒に:8.プロフェッショナル#4
ひとりでは広過ぎると感じる浴室。遠慮なく湯船に浸かる彩菜。意識しないようにしていても、やはり【誰かの痕跡】を探してしまう。全身洗ってすぐに上がるつもりが、気づけばノボセ気味。
(ホントにヤなヤツだね、私は)
拡張しきっているであろう毛細血管に気を配りながら、脱衣所で休憩。
(ヤバイ、マジでのぼせた……水……水)
バスタオルを体に巻きつけ、キッチンへ。冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを一気飲み。
「ああ……倒れるかと思った」
ひと息ついて失笑。それに重なったのは、インターホンの音。
桜の帰宅。急いで玄関へ。ドアチェーンを外しロック解除。途端、勢いよくドアが引かれる。反射で後ろに体重を。おかえり、と言うはずだった彩菜の口。中途半端に開いて固定。
「彩菜ちゃん!」
現れたのは、縦長のスリムなカタチ。ボサボサ頭に作務衣。ちょっとズレた黒縁メガネ。
「彩菜ちゃん……ぁぁあああ彩菜ちゃあん!!」
草履を履いたまま迫る紡。彩菜、とりあえず後退。ドアに後頭部がぶつかってストップ。何だ、この状況は。
タタタタタタタタタタっっ
軽快な足音。戸口に現れたのは、息を切らした桜。
「足速いなオッサンのくせに……あ! ちょっと土足禁止! 脱いで下さいよ!」
「桜!? え、何コレどーなってんの?」
「ゴメン何か大変なことに、って、ちょっと押さないで!」
桜の体が玄関に押し込まれる。
押し込んだ人物の両耳には、大量のピアス。耳たぶと口角を繋いだチェーンが揺れている。
「おいコラおタキ! てめぇは鉄子ほったらかして何やってんだ!」
「こら明! 大きな声出さない! ご近所迷惑でしょ」
明の後ろから現れたお団子ヘア。顔の前で、桜に両手を合わせている。
「ごめんなさいね、うるさくて……ハぁイ、タッキー。やっほう」
遠慮がちに、しかしバッチリと顔を覗かせ、緑子は両手を振った。
(は? え? 何……全員集合?)
シクシク涙しながら草履を脱ぐ紡。桜に睨まれスンマセンと頭を下げる明。その後ろでゴメンね、と再度両手を合わせる緑子。
(まさか、みんなで……迎えに?)
どうしたらいいんだろう。誰に、何を言えばいいんだろう。わからない。わからないのに涙腺がピリピリする。ダメ。ここで泣いてはダメだ。
「彩菜? 大丈夫?」
「桜、どうしよう……私、どうしよう」
「え? いや……とりあえず服、着るべ」
「……んだね」
【ひのき舞台は探偵と一緒に:9.舞台袖】に続く