LTR AIS 1-0「Real From Dream」
もし、この世界が1つでなければ、もう一人のあたしはどんなあたしなのだろう?
もし、その世界で何にでもなることができるなら、あたしは何になるのだろう?
目覚まし時計が夢の終演を告げるより5分だけ早く、少女の意識は現実に引き戻された。見ていたのは、深い海で水面から届く光に向かって泳ぐ夢。ただ、人魚になっていたワケでもない。
……整合性が無くても、何故か自然と受け入れるのが夢だ。あたかも、それこそが現実であるかのように。
夜中、寝る前に見たラッコの映像が原因だ。そう思った少女は、ボブカットを乱したままベッドから下りる。
視覚と聴覚が身体を支配する世界で見たラッコが、冬の冷たい海に潜らないと見ることができない光景を見せてきた。それがピクセルの集合体で成り立った存在でしかなくても、それが人々の長年の夢を一定レベルで叶えるようになった。
ただ、もしその仮想世界と現実が曖昧になるとすれば、今この場にいるあたしは、何なのだろう?
……哲学的な問いが頭に浮かぶが、それで時間を費やすワケにはいかない。少女は着替えるべく、ピンクのルームウェアの首元に手を掛けた。