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失語症とは?リハビリ教材と家庭での接し方を言語聴覚士が徹底解説!
この記事を読んでいる方は「失語症って何?」「失語症のためのリハビリは何をしたら良いの?」「家族はどう接すればいい?」などの悩みを抱えていらっしゃるでしょう。
失語症は、本人も家族も混乱する障害の一つです。
目に見えない障害であるため、理解するのも、理解されるのも、初めは困難です。
しかし、症状やリハビリ、コミュニケーション方法の正しい知識を知ることができれば、悩みやストレスを軽減できます。
努力すれば、少しずつ回復する可能性もあります。
この記事では、現役言語聴覚士である著者が、失語症の基礎から、リハビリ内容や教材、そして家庭の接し方まで徹底的にお伝えします。
ぜひ最後までご覧ください。
失語症とは?言語聴覚士が分かりやすく解説
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失語症は、脳の言語中枢の損傷によって引き起こされる複雑な言語障害の一つです。
失語症になると、言葉の「聴く」「話す」「読む」「書く」能力が著しく低下し、日常生活におけるコミュニケーションに大きな支障をきたします。
では、失語症は何が原因で、具体的にどのような症状が現れるのでしょうか?
失語症の患者と向き合う言語聴覚士が、失語症についてわかりやすく説明していきます。
失語症の原因とは?
失語症は、先天的な障害でも、精神的な問題でもありません。
脳卒中や外的要因(交通事故など)により、大脳がダメージを受けることが原因です。
主に、大脳の「言語野」が障害を受けて、症状が現れます。
失語症は「話せない」障害ではない!
「失語症」という名前から誤解されやすいのですが、決して「話せない」障害ではありません。
言葉が出しにくい方、話せるけれど意味が伴わない方、様々なタイプの方がいます。
では、どのようなタイプがあるのか、見ていきましょう。
失語症にはタイプがある
失語症は、タイプによって症状も様々です。
症状が混合されたタイプもあり、すべて述べると、混乱する方もいるでしょう。
ここでは、代表的な3タイプを紹介します。
運動性失語
ブローカ失語とも言われ、前頭葉が障害されると発症しやすくなります。
話の聞き取りはある程度可能ですが、言葉が表出しにくいタイプです。
なかなか単語が出なかったり、言い間違えたりすることが、多くみられます。
感覚性失語
ウェルニッケ失語とも言います。側頭葉が障害されることにより、みられやすい失語です。
流暢な話し方が可能な一方、聞き取りが苦手です。そのため、意味が伴わない会話になりやすい特徴があります。
全失語
会話も聞き取りも困難なタイプです。
しかし、話すことに比べ、聞き取りは多少可能です。
話せなくても、挨拶や歌だと表出しやすい方もいます。
失語症には個人差がある
失語症には個人差があります。
タイプによっても、症状の重さは、人それぞれです。
そのため、リハビリや接し方も、症状に合わせて行う必要があります。
失語症のリハビリとは?言葉の回復を目指す方法
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失語症のリハビリは、早ければ早いほど回復も早いと言われています。Samar M. Hatemが行った研究(2016年)によると、脳梗塞の後遺症は発症から6か月以内にリハビリの効果を得られやすいことが明らかになっています。
引用:https://nou-kousoku.com/rehabilitation/effect/
でも、具体的にどうすればリハビリを受けられるのか、分からない方もいるでしょう。
ここでは、具体的に「どこで」「どのような」リハビリが実施できるのか、紹介していきます。
失語症のリハビリはどこでできる?
リハビリを行う場所は、主に病院や施設です。訪問リハビリを使い、自宅で行う方法もあります。
理解しやすいように、ここで例を挙げて説明しましょう。
例えば、脳卒中などで急性期の病院に入院し、言語障害ありと診断されると、医師からリハビリの指示が出されます。
そして、主に言語聴覚士がリハビリを実施しますが、その後は、経過によって対応がさまざまです。
回復期病棟に移り、集中的にリハビリを実施
退院して自宅からリハビリに通う
自宅に訪問リハビリを手配する
施設に移ってリハビリを続行する
軽度の方の場合、リハビリが終了になる可能性もあります。
主治医から経過説明があり、意向を確かめますので、その際に遠慮せず希望を述べてください。
退院先や退院後のことは、支援相談員やケアマネとも相談しましょう。
失語症のリハビリはどんなことをするの?
失語症のリハビリは、症状や時期によって異なります。
また、「聴く」「話す」「読む」「書く」機能に対し、それぞれアプローチの仕方が違うのです。
具体的な方法を、一部ご紹介します。
聴く訓練
・単語や文章を聞いて、合っているものを選ぶ
・ニュースなどを聞いて、内容を答える
話す訓練
・挨拶する
・日付を声に出して言う
・物の名前を言う
・言われた言葉を復唱する
・漫画などのあらすじを説明する
読む訓練
・単語や文章を音読する
・文章を読み、合っているものを選ぶ(イラストなど)
書く訓練
・単語や文章を書く(模写でも可)
・メモを取る
・日記を書く
家庭でできる!失語症リハビリと接し方
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失語症のリハビリは、病院や施設や、訪問リハビリで行えると、お伝えしました。
しかし、家庭でもリハビリは実施できます。
教材を使うことも大事ですが、家庭の対応も立派なリハビリとなります。一番重要と言っても、過言ではありません。
主な方法を4点説明します。
焦らず待つ
失語症の方が話している時は、焦らず待ちましょう。
言葉が不自由なだけで、他は以前と変わりません。一番ジレンマを感じているのは本人です。
言葉が出ずに悩んだり、何度も言い換えたりしても、先を急かしてはいけません。
話すのを待って、じっくり聴いてください。
それでも話すのが難しい場合は、「はい」「いいえ」で答えられる質問をしたり、「〇〇ということ?」とヒントを投げかけたりすると良いでしょう。
「ゆっくりはっきり」「口を見せて」話す
話し手は「ゆっくりはっきり」「口を見せて」話すことが、必要です。
失語症の方は、言葉を聴くことも苦手です。
早口で話してしまうと、何を言われたか理解しにくくなります。例えるなら、外国語を聴いているような状態になります。
会話のストレスを軽減するために、話し方にも注意してください。
「実物」「写真」「イラスト」を使う
物事を伝えたり、意思を確かめたりする時は、「実物」「写真」「イラスト」を使うことも、円滑なコミュニケーションには必要です。
非言語的なツールを使用することで、言葉では表しにくいことも伝えられます。
例えば、特定の場所を地図で指さすこと、写真や絵カードで行動を示すこと、などが可能です。
何度も利用するイラストや写真は、コミュニケーションノートとしてまとめておくことをおすすめします。
イラストをダウンロードできるサイトは、後述するので、参考にしてください。
ジェスチャーを使う
ジェスチャーも、失語症の方には有効です。
動きを加えながら話すことによって、情報が伝わりやすくなります。
話し手だけでなく、本人もジェスチャーを練習しておくと、コミュニケーションが円滑になるでしょう。
家庭でもできる!リハビリ教材やアプリ
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家庭の接し方も、リハビリになりますが、もちろん、教材やアプリを使用することも大事です。
では、どのようなものを使えば良いのでしょうか? 用途と注意点もお伝えしていきます。
絵カード(高齢者向けプリントサイト)
サイト名:絵カード(高齢者向けプリントサイト)
対象者:単語が出にくい方
用途:物の名前を言う、コミュニケーションノートに使用する
注意点:他の教材も多いので、適切なものを選択する必要がある
漢字ドリル
対象者:簡単な単語なら書ける方、漢字を練習したい方
用途:漢字単語を書く
注意点:重症度によって、レベルを考慮する
歌詞カード
対象者:失語症者全般、歌が好きな方
用途:歌詞を見ながら歌う、曲をかけながら読む
注意点:特に好きな歌が有効
呼称リハ易・難(アプリ)
Android:易・難 / iPhone:易・難
対象者:(易)簡単な単語だと言える方、(難)使い慣れない単語は出にくい方
用途:物の名前を言う、答えで表示された単語を読む
注意点:言えたかどうかは自己判断なので、二人用がおすすめ。
単語の読解(アプリ)
iPhone:言語訓練(単語の読解)
対象者:失語症者全般
用途:6つの選択肢から合っている絵を選ぶ
注意点:重症の方には選択肢が多い可能性あり。答えられるか確かめる必要がある。
かな書字リハ(アプリ)
Android:かな書字リハ / iPhone:かな書字リハ
対象者:簡単な単語は書ける方
用途:単語を書きこむ
注意点:文字入力する必要あり。直接書きたい方は、ドリルの方が良い。
コミュニケーションカード(アプリ)
iPhone:コミュニケーションカード
対象者:失語症者全般
用途:伝えたいことを指さす
注意点:数が少ないので、追加したい場合は、他のイラストを探す
教材やアプリをお伝えしましたが、負担の大きい練習は、長続きしません。
リハビリで必要なのは、「楽しくやる」「継続する」ことです。
焦らず、やりすぎず、毎日コツコツ行うことが、機能回復につながります。
どのレベルの教材が適切か、可能であれば言語聴覚士にご確認ください。
まとめ
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失語症の基礎から、リハビリ内容や教材、家庭での接し方まで、お伝えしてきました。
ここで5つの要点を振り返ってみます。
失語症の原因は、大脳の損傷である
失語症にはタイプがある
リハビリは早ければ早いほど回復も早い
家庭では焦らず待つ、ゆっくり話す、ジェスチャーを使う、など対応する
個人のレベルに合わせたドリルやアプリで、リハビリ実施する
しかし、本人も家族も、対応が限界だと感じることもあるでしょう。
その場合は、遠慮せず、外部の集まりやサービスを使うことも重要です。
各地に、失語症友の会を開催している病院があります。
失語症友の会では、当事者や家族が集まり、話をしたり、イベントを実施したりしています。
また、各自治体で失語症サロンを開いたり、失語症者向け意志疎通支援者を派遣したりしています。
地域の方との交流を通じて、会話作りや支援を目指している活動です。
失語症はコミュニケーションに支障をきたすので、他者との交流を敬遠する方が多くみられます。
しかし、周囲との繋がりを持つことによって、悩みを共有したり、助け合ったりできます。
興味のある方は、ぜひ病院や市町村の自治体に問い合わせてみてください。
失語症者も家族も、前向きに明るく過ごすことが、一番のリハビリです。
【参考】厚生労働省 意思疎通支援