こちら、光学設計部_第八回【LUMIX S 18-40mm F4.5-6.3】
皆さん、こんにちは。
LUMIXのレンズについて深掘りしていく連載、「こちら、光学設計部」です。
「こちら、光学設計部」では、私たち光学設計部がレンズ設計の解説や特徴について、カタログやWebサイトでは読めないこだわりや想いについて紹介していきます。
これからレンズを検討される方には、ぜひLUMIXのレンズの設計思想を知っていただき、既にお持ちの方は、撮影で楽しんでいただいている優れた描写の裏側にある、知られざるこだわりや思いをお楽しみください。
開発者による専門用語が飛び交うレンズ解説記事です。
読めばあなたもレンズ沼の深淵を覗くことに。
第八回目は、2024年10月25日(金)に発売される「LUMIX S 18-40mm F4.5-6.3」、担当は北田と勝代です。
■はじめに
LUMIX S 18-40mm F4.5-6.3は、LUMIX S9のコンセプトを最大限に活かすレンズとして検討がスタートしました。
S9は、日常的にスマートフォンで写真・動画を撮影している方に向けた、「スマホカメラでは実現できない表現」を楽しむ為のカメラです。
多くの方に気軽に手に取っていただきやすい「小型軽量化」、それに伴う「デザイン性の追求」をコンセプトに開発が進められました。
そして、「S9のコンセプトを最大限に活かすための交換レンズは何か?」を商品企画部門と議論を重ね、次の3点をLUMIX S 18-40mm F4.5-6.3の開発のコンセプトとしました。
これらを実現することにより、超広角18mmを活かしたダイナミックな風景や建築物の撮影、標準40mmで見たままの自然な画角を活かしたスナップやポートレート、広角側で寄れることを活かし、背景を写し込んだ超広角マクロ的な撮影など、多様な撮影シーンに対応します。
焦点距離18mm~ですので、スマートフォンの撮影で広角に慣れた方でも違和感なくご使用いただけると思います。
長さは約40.9mm(収納時)、質量は約155gと、前回紹介したLUMIX S 20-60mm F3.5-5.6に対して長さ・質量ともに50%以下を実現しており、S9と組み合わせて、気軽に持ち出していただければと思います。
■1.超広角18mmから標準40mmまでズーム全域で優れた解像性能
下図は、LUMIX S 18-40mm F4.5-6.3のレンズ構成図です。
レンズ構成は7群8枚で非球面レンズ3枚、EDレンズ2枚、UHRレンズ1枚を適切に配置し、球面収差、色収差を始めとした諸収差を補正、優れた描写性能を実現しています。
特に、以前紹介したLUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACROと同様、前から2枚目に径が大きな非球面レンズを使用することで、超広角で発生しやすい歪曲収差を抑制しました。
ズーム時に移動する各レンズ群の屈折力は、前側から順番に、「負正負」の3群ズーム構成を採用し、ズーミング時の収差変動を高度に補正しています。
これらの工夫により、超広角18mm~標準40mmをカバーし、小型・軽量でありながら、ズーム全域において、高い描写性能を有するズームレンズを実現しました。
MTFチャートも載せていますが、WIDE端、TELE端ともに高い値となっています。
■2.世界最小・最軽量(※)を実現する光学設計
LUMIX S 18-40mm F4.5-6.3は鏡筒サイズ φ67.9×40.9mm(収納時)、質量 約155gで、世界最小・最軽量(※)を実現しています。
ここでは、それを実現した光学設計について解説します。
本レンズは、LUMIX G VARIO 12-32mm / F3.5-5.6 ASPH. / MEGA O.I.S.と同様、撮影しないときは収納することで長さが短くなる、沈胴機構を採用しています。
沈胴状態の長さを短くするには、【a】レンズ群(上図に示す1群、2群、3群それぞれをレンズ群と呼びます)の厚みの合計を小さくすること、【b】2群の移動量を小さくすること、【c】WIDE端の光学全長を小さくかつTELE端の光学全長より長くすること、が必要となります。
ここでは【a】について詳細を解説致します。
下図は、収納状態、WIDE端の断面図です。WIDE端からズームレンズを回すことで各レンズ群の間隔が縮まり収納状態となります。
最後尾にあるのは、フォーカス群を保護するための保護ガラスです。
1群と2群、3群と保護ガラスの間に隙間がありますが、これは、前者は絞りユニットを配置するため、後者はフォーカス群が移動するために必要な隙間です。したがって、レンズ群の厚みの合計が小さいほど、収納時の長さを短くすることができます。
レンズ群の厚みの合計を小さくするために、レンズ枚数を減らす、各レンズの厚みやレンズ間の間隔である空気間隔を薄くしていきましたが、世界最小(※)の実現には至りませんでした。
しかし、試行錯誤を繰り返し、ズーム構成を大きく見直すことで世界最小(※)を実現できることがわかりました。
これまでは、1群が負の屈折力を持つ「負リードタイプ」は、負正負正や負正負負の4成分ズーム構成が一般的でした(前回紹介したLUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACROやLUMIX S PRO 16-35mm F4は負正負負の4成分ズーム構成です)。
本レンズの光学設計では大きく発想を変え、負正負の3成分ズーム構成を導き出しました。4群が無くなりますので、レンズ群の厚みの合計が小さくなったことで、収納時40.9mmの世界最小(※)を実現することができました。
■3.世界最小・最軽量(※)を実現する機構設計
S9とマッチする小型なレンズを開発する方針が決まり、世界最小・最軽量(※)を目指す思いで構想設計をスタートしました。
■小型化を実現する二段沈胴
LUMIX S 18-40mm F4.5-6.3では、二段沈胴構成を採用しました。
二段沈胴構成は、沈胴時の鏡筒の長さを短くできる反面、径方向に大きくなる傾向があります。
各レンズ玉の寸法やマウント径、フィルター径の寸法関係に着目し、二段沈胴のための構造を工夫して収めることで、沈胴時に、後方から前方までほぼ外径の変化がない、円筒に近いフォルムを実現しました。
■操作性とデザインの統一性
LUMIX Sシリーズ(フルサイズ)の交換レンズでは、お客様の操作体験に直結する操作性や機能性に共通軸を持たせるため、外観デザインの統一性にこだわって開発を進めています。
そのため、LUMIX S 18-40mm F4.5-6.3でも、Sシリーズで積み重ねてきたデザイン・コンセプトを遵守したい、という要望が商品企画部門やデザイン部門から強く上がりました。
フィルター取付部やスイッチ類を廃止すると、小型化に有利です。が、交換レンズでは、シリーズとしての価値も重要です。
各要素を搭載することで、どの程度寸法やコストに影響があり、また他の部分の構成を見直すことでサイズ影響を吸収できないか、という構成検討を何度も繰り返しました。
結果、LUMIX S 18-40mm F4.5-6.3は、小型でありながら、LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6と変わらない操作機能を搭載することに、成功しています。
■交換レンズとしてのズーム操作性
ズームレンズでは、各移動群がカム溝に沿って動くことでズームします。
カム溝の設計はズーム操作の品位にも大きく影響します。カム溝の配置によっては内部の機構が段差を乗り越える際のショックが操作感触として伝わってしまいます。
LUMIX S 18-40mm F4.5-6.3は、手動で操作する交換レンズのため、操作感触の影響を考慮し、各カム溝が交差しないように拘って設計しています。
■過去機種で培われた技術
勿論、今回の小型化が突然実現できたわけではありません。
当社がコンパクトデジタルカメラのレンズや、交換レンズ(特にマイクロフォーサーズのLUMIX G VARIO 12-32mm / F3.5-5.6 ASPH. / MEGA O.I.S.)の開発を通じて培ってきた「技術の蓄積」を最大限に活用することで、今回の小型化を実現できています。
■最後に
LUMIX Sシリーズのズームレンズ LUMIX S 18-40mm F4.5-6.3の光学設計、機構設計についての解説でした。
本レンズは、超広角18mmスタートでありながら世界最小・最軽量(※)を実現した、S9にマッチしたズームレンズです。
気軽に持ち出していただき、超広角18mmを活かしたダイナミックな風景や建築物の撮影、標準40mmで見たままの自然な画角を活かしたスナップやポートレート、広角側で寄れることを活かし、背景を写し込んだ超広角マクロ的な撮影など、幅広いシチュエーションで撮影を楽しんでいただければ幸いです。
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