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【Vol.1】「マイクロフォーサーズ」を立ち上げ、LUMIXを「道具」として進化させた技術者の話

こんにちは。

LUMIXの機構設計チームです。

10月末、LUMIXのマイクロフォーサーズにおけるフラグシップモデル、G9PROIIが発売されました。

「世界で初めてミラーレス一眼カメラを開発したブランド」がLUMIXであることは、これまでの記事でもお話ししてきた通りです。そして、その時の規格がマイクロフォーサーズでした。

マイクロフォーサーズは、フォーサーズシステムをベースにLUMIXがミラーボックスを排除する仕組みに着想して実現されたシステムであり、それらを実現へと導いたのが私達「機構設計」になります。

そして、機構設計は現代にまで連なるLUMIXのカタチを生み出しただけでなく、操作性や外観、放熱、堅牢性など、ユーザーに一番近い視点で「道具としてのカメラ」を日々開発しています。

今回の記事では、機構設計から見たマイクロフォーサーズ誕生の歴史と、LUMIXの機構設計における技術やこだわりについて、お話しします。

左から、谷口・玉置・安田(部門長)・藤田・金田

実は、LUMIXにも一眼レフ機が存在した

安田:LUMIXの一眼レフ機L10からLUMIXの開発に参画。L10での体験を軸にミラーレス機構の開発に着手。G1、GF1、S1など、様々なモデルの立ち上げに携わる。

2005年、Panasonicは旧オリンパス社(映像事業は現OMデジタルソリューションズ株式会社に承継)が提唱するフォーサーズシステムで、一眼レフ事業へ参入しました。あまり知られていませんが、実はLUMIXにもデジタル一眼レフ機があったんです。それがL1、そしてL10です。

左:LUMIXシリーズ初の一眼レフ(2006年発売) L1
右:L1に続く2号機となる一眼レフ(2007年発売) L10

憧れの一眼レフ事業へ参入しましたが、この業界で戦っていくにはLUMIXにはまだ経験も知見も技術力もまるで足りておらず、さらにレンズ資産を豊富に有する老舗メーカーに太刀打ちもできず、言葉を選ばずに言うと全く売れなかったんです(笑)

それは、まさにボクシングの初心者が、チャンピオンに勝負を挑んでいるような状況でした。

フォーサーズはまだまだ生まれたてでレンズも少なく、結局は交換レンズが豊富で撮影領域も広い老舗メーカーに軍配が上がり、新規参入のPanasonicが戦っていくには、老舗メーカーにはない強みを持ち、老舗メーカーにはできない戦い方をする必要がありました。

そこで、私達が得意とするデジタル領域で戦っていくことにしたのです。

当時、デジタル一眼レフ機はコンパクトデジタルカメラの上位機と捉えられていました。

コンパクトデジタルカメラは記録メディアがフィルムからイメージセンサーに変革したことで、ライブビューや電子ファインダーを使用することができ、カメラの構造にも撮影スタイルにも劇的な進化を起こしていました。

フィルム時代には「ファインダーを覗くこと」が当たり前でしたが、デジタルになり、特にコンデジで「モニターを見ながら撮影する」スタイルに変化していったことは、当時大きな衝撃でした。

一方でデジタル一眼レフは、フィルム時代からのレンズ資産を流用するために、「カメラの構造はそのままで、フィルムをイメージセンサーへ​置き換えただけ」というものだったんです。

私たちは、ここに目をつけました。

​というのも、一眼レフには一般のカメラユーザーにとってハードルの高さを感じる3つの課題があると言われていたんです。

それが「大きい」「重い」「難しい」の3点でした。

当時主流となっていたデジタル一眼レフの形では、私たちが老舗メーカーに勝てる見込みはありません。

逆の視点から捉えると、Panasonicはレンズ資産が無いからこそ、何のしがらみもなくゼロからカメラを創ることができます。

一眼レフの3つの課題を解決できる、「デジタル時代に適合した新しいレンズ交換式一眼カメラ」を作り出すことで​、コンデジと同じ撮影スタイルを実現し、より多くのユーザーに使っていただけるのではないか?

これがPanasonicが、フォーサーズシステムの拡張規格である「マイクロフォーサーズ」、そして「ミラーレス一眼」を生み出すことになったキッカケのお話です。

過去の構造からの脱却、そしてミラーレスへ

デジタル一眼レフが抱える課題を解決するために着目したのが、フォーサーズシステムの構造でした。

前提として、デジタル一眼レフカメラには測距するための測距センサー、光を測るセンサー、そして一眼ですからレンズから入ってきた光を反射させるミラーやペンタプリズムなどが搭載されていました。

しかし、改めてフォーサーズの構造を見直した時に「イメージセンサーで測距できる・光の強さも測れる」にもかかわらず、フォーサーズシステムはフィルムをイメージセンサーに置き換えただけで、過去の技術資産である構造が残り続けていたのです。

これは、デジタル一眼レフがフィルム時代のレンズ資産を活用できるようフランジバックをキープするため、その名残をフォーサーズにそのまま取り入れてデジタル化したことが大きな要因です。

実質「なくても困らない」とも言えるクイックターンミラー、焦点板、プリズム、測距センサー、​AEセンサーが存在し続けていた結果、フランジバックの距離(約40mm)が長くなり、​カメラボディの厚みやサイズ、レンズの大きさに影響を与えていました。

内部資料

そこで、Panasonicはミラーを含む過去の構造を廃止し、カメラのシステム構造上必要な部品のみで構成した、フランジバック寸法をフォーサーズシステムの半分​である約20mmとした「薄型・小型化したカメラ」の実現へ挑みました。

これは、レンズ資産を持っていなかったPanasonicだからこそ思い切れた決断と言えるでしょう。当時、社内の非常に限られたメンバーで、フォーサーズのシステムを見直し、様々な検証をしたことを覚えています。

これがデジタルカメラにおける「ミラーレス構造」の始まりです。

ミラーレス実現への課題

内部資料

構想が進むミラーレスでしたが、もちろんそう簡単に実現できる訳はなく、構造上いくつかの課題が出てきました。

中でも大きな課題となったのが以下の2つです。

(1)ミラーボックスの廃止に伴う剛性の低下 ​
(2)センサーの連続駆動による放熱対応 ​

カメラを薄型・小型化するということは当然「剛性」が落ちてきます。

不要と判断したミラーボックスですが、カメラ全体の骨組みとしての役割も果たしていました。箱状の構造が、中で柱のような役割を果たしていたんです。ミラーボックスを廃止し、代わりとなる骨組みをどのように作っていくかが課題となりました。

それを解決するためには、ベースとなるフレームを作る必要があります。金属製のフレームを土台に起き、シャッターユニット、センサーユニットという形で層状に積み上げていく構想を練っていきました。

もう一つの課題が、「熱」です。

「ライブビューをする」ということは、センサーが連続駆動するということなので、センサーが発熱し続けます。ミラーレスでのライブビューは今では当たり前ですが、当時の一眼レフにはライブビューが無かったので、この熱をどう逃すかが課題となりました。

この熱の課題は、先ほど話した剛性を担保するための金属フレームに熱を伝え、放熱部材としても活用することで解決しました。

他にも、センサーとメイン基板の間に放熱板を入れる構造を作ったのもPanasonicが初めてであり、現在では多くのミラーレスカメラに取り入れられている構造になります。

他にも、三脚を使用するとピントがズレてしまったり、フランジバックを短くしたことでフレアが出てしまったり、生産時には外観の触感塗装でトラブルがあったりと、たくさんの課題を乗り越えてミラーレスを実現していきました。

このように、その後に続く「マイクロフォーサーズ」「ミラーレス」の基本的なカタチをつくったことは、LUMIXの機構設計の大きな功績だと自負しております。

以降、多くのユーザーからのボトムアップでいただくご意見に学ばせていただきながら、現在ではプロユースにおいても使用していただけるレベルのカメラを生み出しています。

(続きます)

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