動画撮影の現場が変わる、業務視点から見たGH7|Akiraxe
こんにちは、Akiraxeです。
GH7の登場はマイクロフォーサーズファンにとって待望だったと思います。
特に動画ユーザーに至ってはバランスのとれたセンサーサイズで、GH6の時点で業務シネマカメラ顔負けの性能で多くのビデオグラファーを魅了してきました。記録時間無制限でよほどの事がない限り熱停止しない、というのもGHシリーズが培ってきた部分。
そんな中、満を持していよいよ”セブン”の登場です。
前機種からのアップデートとして最も派手な所ではApple ProRes RAW内部収録が可能になった事や、音声の32bit float対応(DMW-XLR2経由)などが挙げられますが、自分にとってGHシリーズは業務用カムコーダーに変わる存在というのもあり、あくまで動画業務ユーザー視点で特に響いた箇所を最初に列挙したいと思います。
外観はGH6となにも変わらない
ボディ自体はGH6そのものと言ってよく、何も変わった部分はありません。これには賛否あるかもしれませんが、業務視点では「賛」です。
GH6で使用していたケージやアクセサリーがそのまま使えたので、いつものセットアップですぐに現場投入ができました。
新機種のために改めてアクセサリー類を買い替える必要もなく、バッテリーに関してはGH5時代のDMW-BLF19も一応使えます。(ただしGH6から消費電力がアップしているのでDMW-BLK22を推奨)
MOV 8bitモードの追加
MOVでの8bit 4:2:0モードが復活しました。派手なアップデートではありませんが個人的にかなり響いた部分。というのも最近の機種で8bitモードはMP4のみとなっており、音声もAACのみになり、FHD画質の場合は収録途中でファイルが分割されるなど編集に向いているフォーマットではありませんでした。(またMP4記録の場合はファイル破損の際に修繕できない、というリスクもありました。)
特筆すべきはMOV FHDの24pおよび30pに25Mbpsモードが追加された事。
正直なところ、業界ではまだ低ビットレートのMXFやAVCHD記録を使う現場もめずらしくありません。またLog撮影ではない通常ガンマでの撮って出しの場合は8bitで十分で、現場次第で容量を無駄に圧迫しない低ビットレートモードが追加された事は業務ユーザーにとって待望だったと思います。
さっそく直近の仕事現場に投入し、フォトスタイルは709ライクで4K30p 8bit 4:2:0で撮影してきましたが、GH7の画質や機能面はそのままに、撮って出しで非常に高品質な動画をクライアントにその場で渡す事が出来ました。
動く対象物に有利な像面位相差式AF搭載
GH6の時はコントラストAFだったので、個人的には概ね満足していたものの、苦手な場面はいくつかあったように思います。
今回GH7をとある施設紹介の番組に投入してみたのですが、施設内を子どもが遊び回る様子などを追いかけるシーンでは、人物認識AFや顔認識AFでの組み合わせで、ほぼAF任せでも安心感がありました。
また、GH7ではディープラーニングによるAF認識対象が拡張され、動物の瞳・体認識や飛行機、車、バイク、電車などの項目が増えています。試しに、動物の瞳・体を使い日中の動物園でいろんな動物を撮ってみましたが、その日に撮影したほぼ全ての動物でAFのトラッキング枠が有効でした。
自分は仕事で鉄道を撮影する機会が度々あるので、今回の「電車」は気になっていました。そこでさっそく近所の路線を撮影してみましたが、車両前面のガラス窓を認識しトラッキングしていました。その時のテスト動画をまとめたものが以下となります。
メーカーの公式見解では、動物認識の対象はあくまで、犬、ネコ科、鳥類らしいので、シロクマなどそれ以外の動物もトラッキングされたのは意外でした。ラーニングの影響でたまたまトラッキングが働くケースはあれど、すべての動物においては認識性能がきちんと働かない可能性はあるでしょう。奥から動物が比較的早く向かってくる場面や、周りに木や草などが密集している場面では、一瞬フォーカスが外れる場面がありましたが、犬、ネコ科、鳥類以外の動物だったのでなんとも言えません。
またAFカスタム設定の駆動速度と追随感度はそれぞれデフォルトの0だったので、場面により追い込む事で、もう少し精度は上がってくる気がします。(なお撮影時は試作機であり、ファームウェアも初期段階のものでした。)
なお鳥類など檻の中にいる動物は檻にフォーカスが引きずられないようにフォーカスリミッターを効かせました。
滑らかな移動ショットを可能にする手ブレ補正
自分の現場ではLUMIXの強力な手ブレ補正に何度も助けられてきました。特に三脚が設置できない場面や、時間制約があったりと、ハンディで立ち回らなければならない現場は実に多いのです。
そんな時「手ブレ補正ブースト」を使えば、まるで三脚で撮影したかのようなビタ止まりの画が撮れます。1時間与えられた現場が10分で終わった事さえありました。
構図やカットを決めていく際、ハンディで動き回りながら撮影するほうが圧倒的に早いのです。ここは適材適所だとは思いますが、三脚やジンバルを準備している段階で、撮らなければならなかった対象物を失うことも多々あります。
一方で、これまで広角レンズでは注意していないと周辺でプルプルと画面が歪むという副作用はありました。それに対して今回のGH7では電子的な補正が入ったのが嬉しいポイント。さらに電子手ブレ補正の「強」も加わり、まるでアクションカムで撮影しているかのような、滑らかな移動ショットも撮影できるように。三脚とスライダー、ジンバルを持って行かなくても、カメラ単体かつハンディで済んでしまう場面はかなり増えそうです。
ISOに悩まないダイナミックレンジブースト
GH6で搭載されたダイナミックレンジブーストは、低感度側と高感度側をリアルタイムで合成する事で4/3センサーでも13+ストップのダイナミックレンジを得られ、特にV-Log撮影時、フルサイズ機種にせまる諧調での撮影が可能でしたが、難点はスタートがISO2000だった事です。特に日中屋外では濃度の比較的濃いNDフィルターが数枚必要でした。
GH7では通常感度での利用が可能になり、一部のフレームレートを除いてダイナミックレンジブーストは常にON(自動)に。特にブーストのON/OFFを気にすることなくV-LogがISO500スタートから使えたのは現場で本当に楽でした。
単焦点レンズで威力を発揮するクロップズーム
古くからのLUMIXユーザーであればEXテレコン機能は慣れ親しんだものだと思います。最近の機種では「動画撮影範囲」というメニューになっていますが、いわゆる高画素を利用した画素クロップによるズーム機能。これにより画質劣化がほとんど無く焦点距離が実質1.5倍まで拡張されます。
GH6まではFull(1.0倍)/PIXEL BY PIXEL(1.5倍)の2択でしたが、GH7から搭載されたクロップズームを使えば1.0倍~1.5倍まで無段階で調整可能に。例えば明るめの50mm単焦点などを使っていた場合、4Kなら75mm相当、さらにFHDでよければ150mm相当の焦点距離まで任意で画角調整可能です。
さらにFnに機能をアサインしておけば、録画中にズーム操作も可能。またズーム速度は4段階で設定可能、ただしズーム始め/終わりのイージングはないのが若干惜しいところ。(さきほどのAFテストの動画で、クロップズームを利用している場面あり)
もちろん従来通りの「動画撮影範囲(旧:EXテレコン)」も残っているので、好みに合わせてFnにアサインすると良いと思います。
同時発売のDMW-XLR2で32bit float音声収録に対応
いよいよミラーレスカメラで32bit floatでの音声収録が可能になりました。
同時発売のDMW-XLR2が必要ですが、96kHz/48kHz 32bit floatでの収録が可能です。(ただし96kHzにする場合はメニュー内で4chレコーディング機能をOFFにする必要がある)
なお32bit floatにした場合、DMW-XLR2側のボリュームツマミは完全にしぼらない限り機能しなくなるので(ボリューム調整が必要なくなるので)ツマミ位置は基本的にセンターに合わせたままで使って問題ありません。
試しに、DMW-XLR2にゼンハイザーMKE600を接続し、48kHz 24bitと32bit floatで撮り比べてみました。なおリミッターは共にOFFの状態。マイクに向かって自宅にあったギターの弦をめいっぱい弾いてみた際の波形が以下になります。
24bitの場合、レベルオーバーとなった波形はボリュームを下げると真っ平のまま下がってくるのに対し、32bit floatは波形の山が綺麗に復活します。これは動画のRAWやLogでハイライトを戻してくる時の感覚に似ています。仮に映像がRAWやLogで音声が32bit floatの動画ファイルが出来あがったとしたら、画と音ともにポストにおけるリカバリ体制は十分です。
業務視点で言えば、音楽LIVE収録、演劇公演、祭り太鼓、モータースポーツなど、小さい音から大きな音まで音のダイナミックレンジが非常に広い現場はいくつか想定されます。特に自分は演劇公演でボリューム設定に頭を悩ませていました。これまでは24bit収録で、通常ボリュームと-10dBのバックアップゲインの2通り収録し、役者の叫び、カーテンコールの音楽など、どうしても音割れした際は、-10dB下げて収録した音声に切り替えるなど、編集時に苦労していました。
32bit float収録をしておく事で、かなり広いダイナミックレンジの音収録が可能になると同時に実質ボリューム調整が必要なくなり、ポストで小さな音からかなり大きい音までをノーマライズする事が可能になります。最近では32bit floatで収録できるレコーダーも増えてきましたが、別収録して互いのクリップを編集時に同期する手間を考えれば、これがカメラ内部にて1クリップで収録できる利点は大きいです。
オーディオ記録の柔軟性がさらに向上
さて、今回GH7と同時発売予定であるDMW-XLR2がなかなか興味深いです。前機種のDMW-XLR1との大きな違いは前述した32bit float対応の他に、ミニピンジャックによる入力3が増えた事。また入力1/2のXLRと入力3のミニピンジャックはそれぞれ排他にならず、設定次第ですべての音が入力され、さらにミニピンジャックに接続したマイクも、もちろん32bit floatで収録可能になります。
一方でGH6では4chマイク入力のON/OFFだったメニューが、GH7では「4chオーディオ記録のON/OFF」に変わりました。これには大きな意味があって、下記それぞれの設定もしくはOFFにする事で、動画ファイルの音声トラック自体も、モノ4トラック/ステレオ1トラックに切り替わります。GH6の時はMOV収録の場合どの設定であっても一律モノ4トラックになり、編集時に音声トラックが4本並ぶのが若干煩わしかったので、これは待望のアップデートと言ってよいでしょう。なお4chオーディオ記録は以下の3パターンで設定可能です。
1)XLR
DMW-XLR2の入力すべて(XLR1/XLR2/ミニピン入力L/ミニピン入力R)の全4chが記録される。→動画ファイルはモノ4トラックに
※この設定の場合、DMW-XLR2本体右側のSELECTスイッチは必然的に無効に
2)XLR+カメラ
DMW-XLR2本体右側SELECTスイッチで選択した音声と、カメラ本体の音声(カメラマイクもしくはMIC入力のL/R)の全4chが記録される→動画ファイルはモノ4トラックに
※この設定の場合はDMW-XLR2のXLRとミニピンジャックは排他仕様に
3)OFF
DMW-XLR2装着時は本体右側SELECTスイッチで選択した音声がステレオL/Rで記録される。カメラ単体の場合はカメラマイクもしくはカメラのMIC入力の音がステレオで記録される。→動画ファイル自体はステレオ1トラックに。
最近の自分の現場で言えば、2)のXLR+カメラの設定にし、DMW-XLR2のミニピンジャック入力と、カメラのMIC入力の4ch記録できるのは地味に便利だなと思っています。
B帯の業務用ワイヤレスをXLRで入力するほかに、最近ではミニピンケーブルで入力する小型デジタルワイヤレスを使うことが多く、概ね1つのレシーバーに対しトランスミッターは2波なので、4人程度のトークをフォローするのであれば気軽なセットアップができそうです。
なおDMW-XLR2にはデフォルトでマイクホルダーがあり、本体のホットシューも使えるので、前機種に比べて音声周りがスッキリとまとまりそうです。
さらに柔軟になったリアルタイムLUT機能
さて、自分の業務現場目線で特に響いた点を列挙してきましたが、他に個人的に気になったアップデートをいくつか紹介したいと思います。
S5IIから搭載されたリアルタイムLUTですが、LUTを当てた際の濃度を選びたいという要望は少なくありませんでした。
そこでGH7ではLUTの濃度が10段階で調整できるようになっています。さらにMY PHOTO STYLEを使えば、LUTが2つ選択でき、しかもそれぞれのLUTの濃度も自由に変更できたりします。
一方で、LUTを登録できるLUTライブラリですが、GH6の時は最大10個だったものがGH7では最大40個までカメラ内部に保有できるように。(うち1個はデフォルトのV-Log to 709のため、実質は39個を登録可能)
LUMIXが色に拘ってきた全てのフォトスタイルをベースに、LUTという独自のエッセンスを加え、世界で一つしかない色味で撮影する。カメラはただ目の前の情報をキャプチャするだけの道具ではない、心からカメラを楽しみたい人に向けた、唯一無二の本当に楽しい機能だと思います。
まだリアルタイムLUTを体感していない方は、ぜひ一度、この面白い機能を使ってみてほしいです!
Apple ProRes RAW内部収録の対応
いよいよLUMIXがRAW動画を内部収録できる機種を出してきました。
これにはビックリしたユーザーも多いと思います。これまでは外部機器を介してだったので悲願と言ってもいいかもしれません。ただし自分が普段使っている編集ソフトDaVinci Resolveでは読み込めないため、正直に言えば直近でメリットを感じていませんが、Final Cut ProやPremiere Pro、Ediusなどのユーザーにとっては、RAWがもっと身近になったと思います。
たとえばよりハイエンドの現場で投入される可能性はかなり広がりました。ポスト処理を前提にRAWで撮っておける、なおかつ小型のミラーレス内部で気軽に撮れる。マイクロフォーサーズの利点を活かした機動性の求められる現場でGH7は強力なウェポンになるかもしれません。
なおRAW記録のため、フル画角で撮影したい場合は基本的に5.7Kになり、C4K/4Kの場合はクロップされる結果になります。(少し画角が狭くなる)
画像処理が加わっていないため基本的にはドットバイドット読み出しになり当然と言えば当然です。また内部記録の場合はCFexpressカード側のシングル記録となります。
カメラ単体で可能なLIVE配信機能
カメラ単体でのLIVE配信機能はGH5M2で実現していました。ただGH6ではその機能は搭載されず、GH7で再び搭載されてきました。基本的な機能はGH5M2と変わらず、最高画質はスマホの有線テザリングで4K30pまでとなります。
個人的にはこのLIVE配信機能は気に入っていて、やはりミラーレスの画質で、好きなレンズやフォトスタイルでそのまま配信できる事が楽しいです。スマホと電波さえあれば、場所を選ばずどこからでも気軽に配信を始められる。
自分もこれまでGH5M2でいろんな屋外ライブ配信を行なってきたので、機会があればGH7でも試してみたいと思います。
総括
GH6では特に動画クリエイター向けに、とにかく高機能・高次元なスペックを突き詰めてきた感じがありましたが、GH7では一般的な動画制作業務の現場を見据えたアップデートもしっかり組み込まれている印象がありました。
特にMOVの8bitモード記録は、たとえば音楽LIVEや舞台のマルチカメラ編集、長尺のイベント記録などには本当に助かります。さらに別売のDMW-XLR2を使えばXLR入力に加え、ミニジャック入力含む全4ch記録でモノ4トラックの動画ファイルで記録されますし、2ch記録のみにした場合は、ちゃんと動画ファイルはステレオ1トラックになっています。個人的にはこういう部分こそ実に響くアップデートだったりします。
またあくまでスチル機のLUMIXですが、GH7に至っては32bit float音声やApple ProRes RAWのカメラ内部収録など、ハイエンドな映像制作の現場でも十分導入が期待できます。その上、強力な手ブレ補正があることで、従来のシネマカメラでは難しかった高い機動性を提供できます。ポスト前提でのリカバリ耐性という意味でもポスプロへ導入しやすいでしょう。
スチルに関しても、連写関連などのアップデートはもちろん、リアルタイムLUTの充実も見逃せません。特にSNSなど気軽にポストしたい場面で、あらかじめカメラ内部で自身の色味を追い込んでおき、撮って出しですぐ共有できる部分では、カメラ本来の楽しみ方を再確認できると思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。GH7は見た目は変わらずとも、業務の視点でもクリエイター視点でも、さらなるオールラウンダーのフラッグシップ機として昇華した機種であることは間違いないと思います。
レンズ含む全体のシステムがコンパクトになり、動画としてもさまざまな現場で使いやすいマイクロフォーサーズのGH7、ここに登場です!
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