【Vol.2】映像撮影技術の集大成。制作環境に変革をもたらす「GH7」、誕生。
LUMIX GH7の開発チームが語る開発裏話。本記事は「動画性能・画質」についてお話しするVol.2です。
▼前回の記事はこちらから!
苦労の末に実現した「Apple ProRes RAWの内部収録」
初めにApple ProRes RAWの内部収録をGH7より実現するという話を聞いた時は、「これは大変な開発になるぞ…」と感じたことを覚えています(笑)
Apple ProRes RAWの内部収録はLUMIXにおいて初となり、「従来、外部で記録していたものを内部で記録する」というのはソフト処理において非常に難易度が高いのですが、一方で、外部記録機器やケーブルという不安要因が排除できるという信頼性の高さにおいては非常にメリットがあると感じたため、開発を推進してきました。
ただ、開発中には非常にトラブルも多かったです。記録ビットレートが高いためファイルサイズも物凄く巨大になり、その大きなデータを書き込むとなると処理も重くなるため、「ある特定の機能と組み合わせて使うと処理が重くなりすぎて固まってしまう」といったケースが開発中には何度も起こりました。
後ほどご紹介する「プロキシ記録」を外さないと固まるのでは?いやApple ProRes RAWを扱うにはプロキシは外せない、といったような議論を、開発メンバーと時間を忘れて何度も重ねていき、検証を重ね、なんとかクリエイターの皆様のお手元に届けられる品質としてこの度実装に至りました。
これは本当に苦労しました(笑)が、映像クリエイターにとって非常に有用な機能となっていますので、ぜひ有効活用していただきたいです。
ワークフローを変える「プロキシ記録」
「プロキシ記録」自体は他社様でも搭載されている機能なので、時代的にそこまで新しいものではないんですが、GH7でようやくLUMIXでも対応できたのは嬉しく思っています。
映像クリエイターの皆様にはご存知の方も多いかと思いますが、プロキシの有用性は凄く高く、その場でクライアントに撮影データをお渡ししたり、編集するときも一度はプロキシを作る方が多いと思いますので、様々な場面においてワークフローに貢献できるでしょう。
今回LUMIXとして初めてプロキシ記録を搭載するにあたり、こだわった点があります。本モデルではご好評頂いているリアルタイムLUTも搭載されている訳ですが、これをプロキシにも適用したいと思い、メインとプロキシ両方にLUTをかけられることはもちろん、「メインはログのままで、プロキシだけにLUTをかける」こともできるよう開発しました。
これにより、メイン側は後でじっくりと編集してもらい、プロキシの方はすでに意図したLUTがかかっているので、すぐにクライアントに納品できたり、すぐにSNSにアップロードすることができます。使い勝手の良い機能として、日々の制作に貢献できるでしょう。
ただ、この機能を実現するのが本当に大変でした(笑)
プロキシはメインとサブで異なる解像度の映像を2つ記録しなければならず、かつ、片方にだけLUTをかけるのはシステム負荷が高いこともあり、開発当初から終盤まで不具合が多く出たんです。
正直、開発終盤まで「プロキシにだけLUTをかける機能はドロップするべきか」を相当悩みましたし、ソフト開発の責任者からも何度かその話は持ちかけられましたが、苦労して生み出すに相応しい価値、クリエイターにとってのメリットが大きい機能と感じていたので、これだけは意地でも実装したいと開発を続けて、なんとかGH7に搭載できたという背景があります。
クリエイターの皆様にはぜひ、有効活用していただきたいですね。
映像制作を進化させる「Frame.io」
こちらも非常に苦労しまして、酒井の「Apple ProRes RAWの内部収録」の話と被るのですが、初めに聞いた時は「これできるのか?」と思ったのが本音です(笑)
「Frame.io」とは、例えば映像制作のようなクリエイティブな活動をチームで行う場合、共同作業を効率化できるクラウドベースのプラットフォームです。
撮影したデータが即座にサーバーにアップロードされるため、データを共有する工数を削減しながら瞬時に多くの方がデータにアクセスできるようになり、チェックや編集作業に入る時間も早くなります。
この機能の実現には次のシーンの撮影を行いながら、同時に前に撮影したシーンの動画を転送することが求められます。もちろん、撮影中の動画に不具合が起きては全く使い物になりません。
動画を撮影しながら、画像を転送するというのは初めてのチャレンジで、この2つの動作を両立できるよう設計することは非常に苦労しましたね。
また、Frame.io機能を搭載するには、Frame.io社から承認をいただく必要があります。多くの要求項目をクリアする必要がありましたが、Frame.io社と連携して、なんとか認証を取得することができました。
マーケティングの皆さんにも迷惑をおかけしましたが、最終的に良い機能を提供できたと思います。ぜひ使っていただきたいです。
おそらくGH7は、これまでのLUMIX機の中で最も多くの連携が詰め込まれている機種になり、多くのクリエイターのワークフロー改善へ最大限貢献できているのではないかな、と思っていまして、 時代を先取りするというよりは、お客様がカメラを通じて行われる昨今の映像制作ワークフローでデファクト・スタンダードになりつつあるものをいかに敏感に把握できるかが重要だと考えています。
それは商品企画やマーケティング、開発、設計の皆さんも同様に、市場のトレンドに対してアンテナを張っていることが重要でして、GH7開発では、積極的に市場の動向をキャッチする取り組みを行ってきました。
この経験を活かして、これからも、次のカメラでやらなければならないトレンドの兆しに対して、みんなで意識を持って取り組んでいけるんじゃないかな、と思っています。
進化した「ダイナミックレンジブースト」
「GH7の画質」というテーマにおいて、GH6から最も大きく進化したのは「ダイナミックレンジブースト」です。これを全ISO感度(※)で使えるようにしました。
GH6でフルサイズに迫る画質を実現するために導入したダイナミックレンジブーストでしたが、当時は使用可能なISO感度が限定的でした。
そのため、ユーザーが使いたいISO感度でダイナミックレンジブーストをフルに提供できるようにしたかったというのは、開発メンバー一同の積年の思いだったのです。
GH7においては、像面位相差AFを搭載したセンサーを新規に開発し、イチから設計を見直すことで、イメージセンサー自身の特性改善と、制御が最適化され、「全ISO感度でのダイナミックレンジブースト」を実現できました。
多くの開発に携わるメンバーが「全ISO感度でのダイナミックレンジブースト」という一つの目標に向けて集結し、今回の達成に繋がっています。
自由な色表現を叶える「リアルタイムLUT」
LUMIXは「生命力・生命美」というテーマを掲げ、「フォトスタイル」としてこだわりの色表現を作り込んでいます。
これはカメラの特性を知り尽くした上で設計を行い、様々なシーンでも破綻を抑え安定して使っていただける絵作り表現として提供しているのですが、一方で、クリエイターの皆様には自分自身の自由な表現を追求したいという思いもあると考えています。
そのため、我々の絵作りを超えた自由度の高い表現ができるように、今回GH7においてもリアルタイムLUTを搭載しています。
リアルタイムLUTにより、撮影中にカスタマイズされた色調整をリアルタイムで適用でき、ユーザーは自分の好みやスタイルに応じた映像表現を簡単に実現できるでしょう。この機能を活用して、よりクリエイティブな撮影を楽しんでいただきたいと思います。
このリアルタイムLUTはS5IIおよびG9PROIIから導入した機能ですが、先日発表したLUMIX S9でさらに使いやすく進化しています。GH7ではLUTボタンこそありませんが、それ以外はS9と同等になっています。(なお、FnボタンにS9同等のLUT機能を割り当てることは可能です)
進化の詳細は、こちらの記事の「リアルタイムLUTの進化点」もご一読ください。
臨場感があるモノクロ「LEICAモノクローム」
LUMIXは兼ねてよりモノクロ表現には深くこだわりを持っており、フィルムや印画紙の特性も分析しながら、数種類のモノクロームを作り込んできました。
LEICA社とL²テクノロジーで協業していることから誕生した「LEICAモノクローム」というフォトスタイルはG9PROIIより搭載されたフォトスタイルですが、今回GH7においても搭載しております。
LEICA社が持つフィルムカメラ時代からの経験と、モノクロ写真への深い理解が反映されたLEICAモノクロームは、シャドウが引き締まり、ハイライトも非常に明るく表現されているため、力強くダイナミックなモノクロ表現を可能としています。
GHシリーズはどうしても動画系のカメラと思われがちですが、写真においても、LEICAモノクロームを使った幅広い表現を楽しんでいただきたいです。
ミラーレス一眼における革命「ARRI LogC3」
まずは「ARRI LogC3」搭載に至ったエピソードについてお話しします。
もともと2年ほど前に上司からARRI LogC3の規格書を共有され、「これ解析してくれない?」と言われたんです。最初は凄く軽いノリから始まりました(笑)
LUMIXに搭載しているV-Logとの特性を比較しながらレポートを作成し、解析結果をもとにLUMIXにLogC3を実装してみましたが、せっかくならARRI社に評価してもらいたい」とARRI社に伝えたことが、ARRI LogC3搭載に繋がる出来事だったように思います。
当時はまだGH7が開発途中だったので、よく似た特性を有するGH6にARRI LogC3を実装し、実際にARRI社に評価してもらいました。
ARRI社からの反応は予想以上に良く、そこから技術的な対話を週次ベースで進めながら、改善を繰り返していくことになります。
1年以上かけてきた検討でしたが、2023年末も近い開発の終盤、最終候補版の設計パラメータを用意してミュンヘンのARRI社を訪れて画質チェックを共同で行い、無事承認を得て、GH7およびGH6への搭載が決まった、というのがざっくりとした流れです。
たったひとつのホワイトペーパーから始まったドラマ
ARRI社のカメラは非常に高価で、簡単に入手して評価することができませんでした。なので、スタートは「ホワイトペーパー」と呼ばれるARRI LogC3のオープンな規格書を頼りに設計を進めました。
ARRI社のカメラとは分光感度特性が異なるイメージセンサーを使って、ARRI LogC3の特性を再現できるよう設計してきたわけですが、長きにわたって追求してきた結果、ARRI社からも「ARRI Wide Gamut 3」と呼ばれるガマットに非常に近く仕上げられているとお墨付きを頂戴できたことで、心の底から安堵したことを覚えています。
たったひとつのホワイトペーパーから始まったこのプロジェクトですが、最後、ARRI社にて実際にARRIのカメラとLUMIXを並べて比較撮影し、色味やトーンが合っていることが実感できた時は、本当に鳥肌が立ちました。
今回のプロジェクトを通じて、ARRI LogC3を搭載することができ、LUMIXに新たな可能性を見出すことができました。
ARRIという「映画界の神様」のような存在が作ったARRI LogC3をLUMIXに搭載できたことは、非常に意義深いと感じています。
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