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もっと、LUMIX 【第3回 ハイブリッドズーム編】
ソフトウェアエンジニアが語る
もっと、LUMIX。
こちらの連載では、LUMIXのソフトウェアエンジニアが、カタログやWebサイトでは語り切れなかった機能の魅力や開発の背景、開発者おすすめのTipsなど、こだわりや想いをフランクに文字数の限りなくお話していきます。
今回は「ハイブリッドズーム編」です。
■ハイブリッドズームとは?
まず「ハイブリッドズームとはどういう機能なのか」についてお話します。
ハイブリッドズームは、前回の本連載(第2回)でお話ししました「クロップズーム」と光学ズームを同時に動作させ、レンズのズームリングを回すだけで、よりズーム倍率を伸ばせる機能になります。
ただ、従来からクロップ機能は光学ズームと同時に設定することが可能ですので、「このハイブリッドズームは何が新しいの?」と思われる方もいらっしゃるかと思います。
確かに従来から、例えばLUMIX S 28-200mm F4-7.1 MACRO O.I.S.で、FHD動画時の動画撮影範囲をPIXEL/PIXELに設定する等して3倍クロップの状態にすると、望遠端では3倍の600mm相当のレンズとして使用できます。しかし、その場合、同時に広角端側でもクロップ機能が働きますので、広角側も3倍になってしまい、84-600mm相当の焦点距離となってしまいます。
つまり、広角側も3倍に伸びてしまうので、ズーム撮影後にまた広く撮りたい場合、都度クロップ機能を無効にする必要がありました。
しかし今回、LUMIX S9や1月にファームアップしたS5II/S5IIXにおいて、業界で初めて搭載したハイブリッドズームでは「光学ズームの広角端ではクロップはかけず、光学ズームの焦点距離を伸ばしていく(ズームをしていく)に伴い、徐々にクロップする倍率も伸ばしながらクロップをかけていき、光学ズームの望遠端に到達するときにクロップ倍率も最大にする」ことを実現しています。(最大クロップ倍率は機種により異なる場合もありますが、S9やS5Ⅱ/S5ⅡXでは約3.1倍になります。)
これにより、広角端の焦点距離は一切変わらず、望遠端のみ焦点距離を伸ばすことができますので、28-200mmのレンズが、S9/S5Ⅱ/S5ⅡXでは最大28-624mm相当のレンズとして使用できるんです。
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しかも、設定はメニューの「ハイブリッドズーム」をONにするだけ。実際のズーム操作もいつも通り、レンズのズームリングを回すだけです。
光学ズームの焦点距離に応じてクロップ倍率を細かく変化させるように制御していますので、ズームリングを回せば、まるで光学ズームだけでズームしているような感覚でご使用いただけます。
先に例として挙げたLUMIX S 28-200mm F4-7.1 MACRO O.I.S.は、非常にコンパクトなレンズでありながら、28mmから200mmまでズーム可能な高倍率ズームレンズとして大変ご好評を頂戴していますが、このハイブリッドズームをご使用いただくと、(当たり前ですが)レンズの大きさは変わらずコンパクトながら最大28-624mm相当の超高倍率レンズとしてご使用いただけます。
また、S5IIやS9のキットレンズとしてご好評を頂戴している「LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6」や、S9とベストマッチの非常にコンパクトな「LUMIX S 18-40mm F4.5-6.3」、超広角のS PROレンズとして人気の「LUMIX S PRO 16-35mm F4」等の広角ズームレンズは、少し望遠側が物足りないと思われる方もいらっしゃったかと思います。
S9/S5Ⅱ/S5ⅡXでハイブリッドズームをお使いいただくと、広角域はそのまま、
・LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6は、
最大187mm相当
・LUMIX S 18-40mm F4.5-6.3は、
最大125mm相当
・LUMIX S PRO 16-35mm F4は、
最大109mm相当
となり、超広角レンズでありながら望遠レンズの領域までご使用いただけるようになるんです。
その他、当社のSシリーズレンズのみならず、全てのL-mountレンズで本機能をご使用いただけます。ただし、当社製以外のレンズをご使用の場合、ズーム効果(画角変化)がスムーズにならない場合があります。
ハイブリッドズームは、クロップズームの技術を使っていますので、第2回のクロップズームでお話しした通り、最大倍率時は写真であればXSサイズになります。
しかし、XSサイズでも問題ないご用途であったり、また動画でフルHDの場合はそもそも画素数を下げることなく撮影できますので、1本のレンズでの撮影の幅が広がり、レンズ交換の頻度を下げることもできるでしょう。
お手持ちのズームレンズが高倍率ズームに生まれ変わったかのようにご使用いただける、このハイブリッドズーム、是非ご活用いただきたいと思います。
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ハイブリッドズームなしで撮影(Lサイズ)
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同じ場所から同じレンズ、同じ焦点距離にて、ハイブリッドズームをONにして撮影(XSサイズ)
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ハイブリッドズームなしで撮影(Lサイズ)
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同じ場所から同じレンズ、同じ焦点距離にて、ハイブリッドズームをONにして撮影(XSサイズ)
■ハイブリッドズームの使い方
では、ハイブリッドズームの使い方をご説明します。
冒頭でもお話ししましたが、設定は非常に簡単で、ズームレンズを装着し、メニューの「ハイブリッドズーム(写真)」/「ハイブリッドズーム(動画)」をONにするだけです。
あとは、いつも通りズームリングを回すだけで、望遠端が大きく伸びる世界をご体感いただけるでしょう。
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(左)写真
(右)動画
また、Fnボタンにこの機能を登録することもできます。その場合、メニューに入らずとも設定したFnボタンを押すだけで、機能のON/OFFが切り替え可能です。
ただし、動画撮影の場合、動画画質設定によってはこの機能が使えない条件もあります。具体的には30pを超えるフレームレートの動画画質やAPS-Cレンズ装着時(フルHD30p以下を除く)、一部機能のご使用時等ではご使用になれません。また、動画画質によって、最大のズーム倍率は異なります。
■ハイブリッドズーム使用時の画面表示について
次にハイブリッドズーム機能が働いている時の表示についてお話しします。
こちらも前回記事のクロップズームと同様ですが、このハイブリッドズームが動作しているかどうか(クロップされているかどうか)は、ライブビュー画面のアイコンを見ていただくと判断ができます。
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※画像は、はめ込み合成したものです
まず、ハイブリッドズームの設定がONになっている場合、アイコン内に「Hy」が白色で表示されます。この時はまだクロップはされておらず、Lサイズで撮影できます。
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※画像は、はめ込み合成したものです
そこから、ハイブリッドズームが動作して、実際にクロップされていると、その時のサイズ表記と共に、アイコン自体が黄色になります。
また、「今のズーム状態で撮影すると、どの画像サイズになるのか」も、アイコンを見ていただくと、クロップ範囲に応じて L/M/S/XSと表示されるので簡単に分かります。
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※画像は、はめ込み合成したものです
「ハイブリッドズーム」はクロップズームを活用した機能のため、どうしてもクロップされ、特に写真では画像サイズが小さな写真となってしまいます。ハイブリッドズームの戻し忘れ等がないよう、このアイコンの色にご着目ください。
また、撮影後に「この画像ってハイブリッドズームを使ったっけ?」と思い出せないこともあるかと思います。
そんな場合も、ご安心ください。
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※画像は、はめ込み合成したものです
再生画面で、Disp.ボタンを押していただくと、詳細情報表示が表示されます。そこで下ボタンを押すと、5ページ目の焦点距離が表示されます。
「焦点距離」に光学ズームの焦点距離が、「35㎜焦点距離」にハイブリッドズームを組み合わせた合成焦点距離が表示されますので、後からこの機能を使って撮影したかどうかも確認ができます。
ただし、この「35㎜焦点距離」は、撮影した写真の大きさに対する計算結果が表示されるので、同じ焦点距離で撮影しても写真のアスペクトによって表示される数値は変わります。
基本的な操作方法は以上ですが、ハイブリッドズームでも、多様なユースケースを想定していくつかのカスタマイズができますので、その内容をお話し致します。
このカスタマイズは、メニュー→ハイブリッドズームの「設定」にて変更が可能です。
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(左)写真
(右)動画
写真と動画で設定できる内容が少し異なりますが、設定できる項目は次の通りです。
■焦点距離表示設定 (写真/動画共通)
■広角端のクロップズーム(写真)/広角端のクロップズーム(動画)
■下限画像サイズ (写真のみ)
■記録画像サイズの固定 (写真のみ)
これらの項目のうち、「広角端のクロップズーム」以外の3つの設定は、クロップズームでの設定と同じになります。
設定内容のご説明は第2回クロップズームの記事をご覧ください。
ここでは、ハイブリッドズーム特有の設定である「■広角端のクロップズーム(写真)/広角端のクロップズーム(動画)」についてお話しします。
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この項目はONとOFFが設定できるのですが、それぞれ次のような動作となります。
・ON:光学ズームを広角端から少しでもズームすると、すぐにクロップズームが動作します。(お買い上げ時の設定)
・OFF:光学ズームを広角端からズームさせても、広角端付近(約20%)はクロップズームは動作せず、光学ズームのみ動作します。それ以上ズームを行うと、クロップズームも動作します。
この設定、「どういうケースで使ったらよいかわからない」とのご意見を伺うことがあります。この設定の目的は、写真撮影時と動画撮影時で少し異なります。
・写真撮影時
ハイブリッドズームはクロップズームの仕組みを使っているため、クロップされた画像サイズが小さくなります。広角端ではクロップされず、Lサイズで写真が撮れますが、少しでも光学ズームを動かすと、画像サイズはMになってしまいます。
つまり、「ズームなし・広角端(Lサイズ)」で撮っていたつもりでも、意図せずズームリングを少し触ってしまっただけで、Mサイズになってしまうこともあるということです。
そこで、この設定をOFFにすると、約20%まではクロップズームは動作せず、光学ズームのみでズームしますので、Lサイズのまま撮影できます。広角端に少し遊びを持たせるイメージです。
実際にクロップズームが動いたかどうかは、先ほどお話ししたアイコンの色を見てみてください。表示が黄色くなればクロップされていることになります。
・動画撮影時
本記事冒頭で、ハイブリッドズームは光学ズームの焦点距離により、クロップする倍率を細かく変化させるとお話ししました。
これにより、まるで光学ズームのように滑らかにズームしていくのですが、20mm程度以下の超広角域では光学ズームの焦点距離が少し変わっただけで画角が大きく変わるため、クロップズームを細かく制御しても、どうしてもズーム動作(画角変化)に若干のカクツキ感が出てきます。
写真撮影時は問題ないかと思いますが、動画撮影時、特に撮影中ではそのまま記録されてしまいますので、気になるケースが出てくることもあるでしょう。
そんな時に、この設定をOFFにしていただくと、カクツキ感が出る広角域は光学ズームのみでズームし、カクツキ感がほぼ出ない領域からクロップズームを併用する動作になり、スムーズなズーム動作(画角変化)ができるようになります。
ただし、その場合、光学ズームのみの領域からクロップズーム併用領域に入ったときに、少しズームの加速度が変わります。広角端から望遠端まで一定の速度でズームしたい場合は、ONのままでご使用ください。
LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACROや、LUMIX S PRO 16-35mm F4、LUMIX S 18-40mm F4.5-6.3といった超広角レンズを動画撮影でお使いの場合は、事前に試し撮りをしていただき、広角域でのカクツキ感が気になるようでしたら、この設定をOFFにしてみてください。
■画像サイズ「XS」について
ここまでハイブリッドズームについてお話ししました。
ここで、ハイブリッドズームと、前回お話ししたクロップズームで新たに追加した写真の「XSサイズ」について少しお話しします。
従来のLUMIXは写真の画像サイズは L / M / S の3種類でしたが、S9/GH7から新たに「XS」を追加しました。
ただ、クロップズームやハイブリッドズーム設定の「下限画像サイズ」の項目で、Mは「最大1.4倍まで」、Sは「最大2倍まで」と具体的な倍率が記載されていますが、XSでは「最大倍率まで」という記載になっており、具体的な倍率が記載されていないことにお気づきでしょうか?
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ちなみに、S9やGH7の取扱説明書には「最大約3倍」と記載していますが、ここもXSだけ「約」がついています。
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実はこの新しく追加したXSサイズは従来のMやSサイズとは少し異なる考え方をしています。
従来のMサイズは元のLサイズの半分の画素数、Sサイズはさらに半分の画素数(Lの1/4)になるような機種ごとにサイズを設定しています(機種によりLのサイズが変われば、MやSのサイズも変わることになります)。
ですので、ズーム倍率としてはMは√2で1.4倍、Sは√4で2倍になります。
しかし、今回追加したXSサイズは、動画のフルHDサイズ(1920×1080)に合わせたサイズとして定義しています。すなわち、機種によりLのサイズが変わってもXSは必ず同じサイズになります。
従って、必ずしも「ぴったり3倍」といった倍率にはならず、機種(センサー画素数)によっても変わることになりますので、このような表記にしています。
もし、今後、クロップズームやハイブリッドズームを搭載した高画素モデルがあれば、最大ズーム倍率はもっと高くなるかもしれませんね。
ちなみに、XSサイズをこのように定義したのは、動画を撮る場合と、写真を撮る場合で同じような感覚でズームができることを意図しています。
最後に、クロップズーム・ハイブリッドズーム共通ですが、写真を撮る場合の便利な使い方をお話しします。
クロップズームやハイブリッドズームを使って画像をクロップした場合でも、RAW+JPEGで撮影をした場合、実はRAWにはクロップした外側の領域の情報も残っています。
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クロップズームを使用して撮影した作例(XSサイズ)
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カメラではRAW現像も含めて、基本的にクロップした後の画像しか見えないのですが、PCのRAW現像ソフトでトリミング範囲を解除すると、クロップ前の画像を再生・編集することができます。
「クロップし過ぎた!」等、もしもの時にご活用いただければと思います。
ちなみに、先ほど、カメラでは基本的にクロップした後の画像しか見えないとお話ししましたが、ダブルスロットモデル限定にはなりますが、以下の設定をすると、実はカメラ内でもクロップ前の画像を再生することができるんです。
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まず、写真 - 写真画質 を RAW+FINE または RAW+STD に設定します。
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次に、セットアップ →カード/ファイル →ダブルスロット機能 →記録方法を「振り分け記録」に設定します。同じくダブルスロット機能の「JPEG記録先」と 「RAW記録先」を別のスロットに設定します。
この設定で、クロップズームまたはハイブリッドズームを使って撮影後にRAWが記録されたスロットを再生すると、カメラ内でもクロップ前の画像を再生することは可能です。
「クロップ前の画像をカメラで見たい!」という方はご活用ください。
ハイブリッドズームのご説明は以上になります。
前回の記事でお話ししたクロップズームと、今回のハイブリッドズーム。レンズの焦点距離が伸びることでお手持ちのレンズが生まれ変わり、撮影の幅が一気に広がります。
ぜひご活用ください!
次回もお楽しみに!