もっと、LUMIX 【第1回 リアルタイムLUT編】
ソフトウェアエンジニアが語る
もっと、LUMIX。
こちらの連載では、LUMIXのソフトウェアエンジニアが、カタログやWebサイトでは語り切れなかった機能の魅力や開発の背景、開発者おすすめのTipsなど、こだわりや想いをフランクに文字数の限りなくお話ししていきます。
今回は「リアルタイムLUT編」です。
■リアルタイムLUTとは?
まず「リアルタイムLUTとはどのような機能なのか」についてお話します。
「LUT」とは「Look Up Table」の略称で、データの変換テーブルを意味します。
動画撮影においては「カラーLUT」としてよく使用されており、Logで撮影した映像に対して色の変換ができるテーブルになります。
・・・と、いきなり難しい内容になってしまいましたが、要はカラープリセットのようなもので、「自分好みの色になるように設定したLUTを適用することで、簡単に色変換ができる」というものです。
従来このLUTは、動画撮影後の編集段階で適用することが主な使い方でしたが、これを「カメラの中で、撮影する時に適用しよう」というのが、LUMIXで搭載している「リアルタイムLUT」になります。
撮影時にLUTを適用するため、撮った画像がその段階でもう自分好みの色になっており、後から色の編集をする必要がなく、撮って出しや簡単なカット編集をするだけで、自分の色になった作品として出来上がるんです。
しかも、LUMIXでは動画だけでなく写真にもLUTを適用できるので、動画も写真も同じ色味に仕上げられます。
カメラ内に元々搭載されているプリセット(LUMIXではフォトスタイル)を超えた色表現が可能なことから、写真撮影でも人気の機能となっています。
LUTを使うだけで、モニターやファインダー内に広がる世界が変わり、見ているそのままの世界を動画や写真に記録できます。
一度体験すると、ハマること間違いなしです。
■リアルタイムLUTの進化
リアルタイムLUTはLUMIX S5II、S5IIX、G9PROIIから搭載された機能ですが、最新モデルであるS9やGH7ではより使いやすく、大幅に進化しました。
ここからは、その進化ポイントを中心にご紹介したいと思います。
■LUTボタンの追加
まず、最大の進化ポイントは、LUTボタンを配置したことになります。
従来は(10月ファームアップ適用以前のS5ⅡやG9PROⅡでは)、以下のような手順で操作しないと「LUTの選択・適用」ができませんでした。
リアルタイムLUTは「フォトスタイル」の一部であり、LUTもその中の調整パラメータの1つとなりますので、他のパラメータ変更時と同様に上記のような操作をお願いしていました。
しかし、S9ではショートカットとしてリアルタイムLUTをすぐに設定できる「LUTボタン」を設けたことにより、
という一つの操作だけでLUT選択画面に入ることができるようになりました。
LUTボタンを押して好きなLUTを選択するだけで、撮影準備は完了です。
■LUT選択画面
また、今回LUT選択画面も大きく進化しました。
従来はリスト形式でしか表示できませんでしたが、新モデルよりライブビューを表示しながら、LUT選択をできるようにしたんです。
こうすることで、LUT選択の際、実際にLUTの効果を画面で確認しながら、LUTを選ぶことができるようになりました。
選択中のLUTの効果がリアルタイムで見られるので、ダイヤルを回してLUTを選択している間に、「このシーンでこのLUTが合うんだ」といった意外な発見があるかもしれません。
一方、従来のリスト形式も搭載LUTが一覧で見られるので、場合によってはリスト形式の方が選びやすい場合もあると思います。
特に今回から、カメラに記憶できるLUTの数も従来の10個から39個に増加したので、たくさんのLUTを登録している場合や、選択したいLUTが決まっている場合は、リスト形式の方が選びやすい場面もあるでしょう。
そこで、リスト形式で表示したい場合は、先ほどのLUT選択画面でDisp.ボタンを押せば、表示の形式を切り替えることができるようにしました。
このリスト形式の画面では、前ダイヤルを回すとページが切り替わり、背面のコントロールダイヤルを回すと上下にカーソルが動くようにしています。39個のLUTが登録されていても、素早く設定したいLUTが選べるでしょう。
■LUTの登録数の追加
今回から登録できるLUTの数を39個に増やしたとお話しました。
が、39個って中途半端ですよね…。
しかも、よく見ると1ページ目に謎の空行があります。
「ここを使えば、ちょうど40個で切りの良い数字になるのに…」
と思われた方もおられるのではと思います。
実は、S9の開発当初はそうする予定だったのです…。
(当時の内部の資料には40個って書いていました…)
しかし、ここで少し想定外の事態が発生しました。
それはGH7の登場です。
GH7のLUT選択リスト画面も、お買い上げ時はS9と同じなのですが、別売のアップグレードソフトウェアキー「DMW-SFU3A」を適用すると、「ARRI 709」というLUTが1つ増えます。
これはARRI LogC3用のLUTになるのですが、このLUTが増えたことで、40個が実現できなくなったのです。
この機能はGH7の機能で、S9には搭載されないので、S9は40個でGH7は39個にするという案も考えましたが、両モデルとも39個で統一する決断をしました。
それは、このリスト画面で表示するページの概念を「すべてのモデル」で統一したかったからです。
39個ものLUTを登録すると、どこに何のLUTを登録したのかを覚えるのは大変ですよね?
ですので、今回のリスト画面ではページの概念を導入し、例えば「2ページ目には風景用のLUT」「3ページ目にはポートレート用のLUT」といったように、お客様自身で覚えやすいようにページ毎にLUTを管理できるようにしました。
その場合、機種ごとに登録個数を変えてしまうと1ページ目の登録可能個数が変わってしまい、同じ番号に同じLUTを登録しても2ページ目以降で表示されるLUTがずれてしまうため、そうならないように統一したのです。
たくさんのLUTを登録する際には、ぜひこのページという考え方も参考にして、皆様が覚えやすいように登録してください。
■登録できるLUTファイル
次に、登録できるLUTファイルについてお話します。
LUMIXでは33ポイント(grid)以下の3D LUTが読み込み可能です。
従来、LUTファイルはPCでダウンロードしたり、作成したLUTをSDカードに保存し、SDカードからカメラに取り込む必要がありました。
しかし、お客様からは「この手順は少し面倒」「もっと簡単にできないか?」といったご意見も頂戴していました。
そこで、S9の発売に合わせてLUMIX Labという新しいスマホアプリを開発しました。
このアプリでは、簡単にLUTをダウンロードしたり、作成したりできるんです。
もちろん、アプリ内のLUTはスマホとカメラを接続するだけで、簡単にカメラに送ることができます。
これまでとは違い、PCレスで本当に簡単に、カメラにLUTが転送できますので、ぜひお試しください。
■Sample LUTの追加
「リアルタイムLUTってどんな機能かを少し試したいな」という方に、S9とGH7からは「Sample LUT」というお試し版のLUTを3つ、あらかじめカメラにプリインストールしています。
初めてお使いの方は、このSample LUTでリアルタイムLUTの世界をお試しいただければと思います。
このSample LUTは3つありますが、Sample LUT1とSample LUT2は当社の社員が作成したLUTで、Sample LUT3はクリエイターのクマザワコータローさんからご提供をいただいています。
Sample LUTは非常に人気で、多くの方にご使用いただいており、とてもありがたく思っています。
SNSでの反響などを拝見すると、「Sample LUT」という名称ではなく、ちゃんとした名前を付ければ良いのに、というご意見も頂戴しています。
こちら、ちゃんとした名前を考えるのが面倒だった・・・というわけでは決してありません。
では、なぜあえてそのような名称にしたのか?
それは、この「リアルタイムLUT」という機能には、「皆さんお一人お一人でご自身の色を見つけ、それを表現していただきたい」という想いを込めているからです。
世の中には本当に多くのLUTファイルが公開されていて、その中から皆さん自身で「これだ!」と思う色を見つけていただいたり、あるいはご自身でLUTファイルを作成いただいて「自分だけの色」をぜひ表現していただきたいと思っています。
そのためには、カメラ内のLUTだけではなく、ぜひ外の世界に飛び出して色々なLUTを見ていただきたいと思っていて、その足掛かりとして、まずはリアルタイムLUTをお試しいただくという意味で、「Sample LUT」という名称にしました。
■画質調整パラメータの追加
次の進化ポイントは画質調整パラメータの追加です。
新モデルでは、LUTの「濃度」を調整できるようにしました。
従来、LUTは「かける(ON)」、もしくは「かけない(OFF)」しかなかったのですが、これを「少しだけ効果をかける」ということができるようになりました。
具体的には10~100%を10%刻みで、濃度の設定が可能になりました。
同じLUTでも、シチュエーションによっては、色の変化が大きすぎる場合もあるかと思います。
その場合、従来は同じような色変化で効果の薄いLUTを別途用意する必要がありましたが、新モデルではこの濃度を下げてもらうと効果を薄くできますので、ちょうどよい塩梅でLUTを適用することができます。
つまり、1つのLUTで様々なシチュエーションに対応できるようになりました。
また、「粒状」や「カラーノイズ」も付加できるようになりました。
従来はモノクロ系やL.クラッシクネオでしか適用ができなかった「粒状」が、写真限定にはなりますが、LUT適用時にどのフォトスタイルでも適用が可能になります。
LUMIXでの「粒状」はランダムノイズとなっていて、写真を撮るたびに異なるノイズが付加されるため、まさにフィルムライクな写真が撮影できます。
ノスタルジックなLUTに粒状を載せて撮ると、まさにフィルムカメラで撮影したような写真になります。
例として、クリエイターの照山明(Akiraxe)さんが作成された「Rusted Nega3」というLUTを適用し、さらに粒状(強)を付加した作例をご紹介します。
このように最新のデジタルカメラとは思えない絵作りも可能ですので、ぜひ色々な組み合わせを探ってみてください。
もうひとつ、これは少し高度な使い方なのですが、LUTを2つ重ねて撮ることもできるようになりました。
これはリアルタイムLUTではなく、フォトスタイルを「MY PHOTO STYLE」に設定すると可能な設定です。
「MY PHOTO STYLE」では、LUTの設定箇所が2つあります。
ここで2つのLUTを設定することで、2種類のLUTを重ねることができるんです。(もちろん設定するLUTを1つだけにすると、リアルタイムLUT同様に1種類だけかけることも可能です)
また、2つのLUTもそれぞれ濃度調整が可能なので、シチュエーションに合わせてかけ具合を細かく調整することも可能です。
■重ねがけの使用例
このLUTの重ね掛けですが、「どのように使ったらよいかわからない」というお声をお聞きすることがあります。
使用例としては、以下のような使い方をされている方が多いようです。
こちらでは、当社社員での実践例をご紹介します。
このLUTの重ね掛け、少し難しい使い方にはなりますが、LUTの効果を無限に引き出せますので、ぜひ色々と試していただき、他にはない自分だけの色の世界を作ってみてください。
■LUT作成時における進化
次にLUTを作成する際に便利な進化ポイントの紹介です。
これまでLUTを作成する際、V-Logで撮影された画像をベースにLUTファイルを作成されることが多かったようです。
ただ、V-LogベースからLUTを作成する場合、慣れていない人は少し大変かと思います。
というのも、V-Logで撮影された写真はコントラストが低い絵になっており、自分好みの色を出す前に、一度ベースとなる色味に持ち上げて、そこから自分の色付けを行うという手順が必要になるからです。
一方、スタンダードやヴィヴィッドといったLUMIXオリジナルのフォトスタイルをベースにすると、定評のあるLUMIXのフォトスタイルから自分好みの色調整を行うだけでLUTが出来上がるので、作成は簡単になります。
例えば、LUMIXのフォトスタイルの中でも特徴的な「L.クラッシクネオ」をベースに、さらに青みを少しだけ調整することで、LUMIXのフォトスタイルをベースとしたオリジナルのLUTが簡単に作成できます。
■フォトスタイルベースで作成されたLUTの有利な点
フォトスタイルベースで作成されたLUTを使うと有利な点が2つあります。
1つ目は「最低ISO感度を下げられる」ことです。
V-LogベースのLUTだと、最低ISO感度はV-Log時と同じ640となります。(S9時。以下同じ)
それに対し、フォトスタイルベースのLUTだとISO100から使用可能となります。
日中の屋外などでも明るいレンズを使用できるので、この差は大きいと思います。
2つ目はRAWの明るさです。
V-Logベースで撮影したRAWは、その性質上約2段暗い状態となりますが、フォトスタイルベースで撮影したRAWは通常の明るさとなります。
RAWを編集する際に、明るさが揃っているので大変便利です。
そのような背景もあり、フォトスタイルベースで作成されるLUTも増えてきています。
実際、当社のLUMIX Color Labでは、フォトスタイルベースのLUTも多数掲載していて、LUMIX Labからも簡単にダウンロードできます。
しかし、これまでこのフォトスタイルベースのLUTは使用時に少し注意が必要でした。
それは、LUTを適用する際は、必ずそのLUTを作成した時のフォトスタイルに設定しなければならないということです。
本記事の冒頭でもお話しましたが、LUTファイルは色の変換テーブルです。
ですので、変換する元の色が変わってしまうと、変換後の色は違う色になってしまいます。
LUTを適用するベース色が変わると、「LUTが意図した色」にはならないのです。
従って、V-Logベースで作成したLUTを使う時は、ベースのフォトスタイルはV-Logに、スタンダードベースのLUTならスタンダードに設定しないといけません。
急いでいる時などにはベースとなるフォトスタイルの設定を忘れがちで、そうなるとLUTが意図した色にはなりません。
そういった背景もあり、S9からはフォトスタイルベースのLUTを選択した場合、ベースとなるフォトスタイルを自動でカメラが判定し、設定する機能を追加しています。
具体的には、LUTファイル(cubeファイルのみ)にベースのフォトスタイル情報専用のタグを埋め込むことで、カメラがその情報を読み取り、自動でベースのフォトスタイルを設定するようにしています。
LUTのベースフォトスタイル情報はLUTライブラリやLUT設定画面でもアイコン表示されますので、どのようなLUTなのかもわかりやすいと思います。
このタグはLUMIX Color Labで配布しているLUTファイルには既に埋め込まれていますし、LUMIX LabでLUTを作成するとこのタグが自動で入るようになっています。
また、タグ仕様を取扱説明書内に公開していますので、もしPCの画像編集ソフトなどを使ってご自身でLUTを作成される場合は、その情報を参照していただければと思います。
■リアルタイムLUT撮影後の便利機能
リアルタイムLUTで撮影したあと、再生画面で撮った写真を見ている時に、「あれ?この写真はどのLUTで撮ったっけ?」と思い出せないこともあるかと思います。
そんな場合も、ご安心ください。
再生画面でも適用したLUT名は表示されます。
再生画面で、Disp.ボタンを押していただくと、詳細情報表示が表示されます。そこで下ボタンを押し、3ページ目に適用したLUT名が表示されるので、後からでも適用LUTが確認できますのでご活用ください。
なお、LUTを重ね掛けした場合は、1つ目のLUT名のみが表示されます。
再生機能でもう1つご紹介します。
LUTを適用して撮影した後、「やっぱりこっちのLUTの方が良かったかな…」と思うこともあるかと思います。
その場合も安心してください。
RAW+JPEGで撮影しておくと、後からカメラ内RAW現像機能で適用LUTを自由に変更できるんです。
撮影時にダウンロードしていなかったLUTも後から適用できますし、濃度や各パラメータ調整はもちろん、2つのLUTの重ね掛けもできます。
リアルタイムLUTのご紹介は以上になります。
リアルタイムLUTを使用することで、まるでフォトスタイルが無限に増えるかのように、色表現の幅が広がります。
「破綻しない絵作り」を目指している従来のフォトスタイルはもちろん、自由度が高い絵作りや撮影を楽しめる「リアルタイムLUT」での撮影も、ぜひお楽しみください!
次回の更新もお楽しみに!
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