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スターホーク『The Last Wild Witch』を訳してみた

※子どもたちへの読み聞かせに、どうぞ自由にお使いください。転載、コピー、配布する場合は必ず無料で。そして一言お声がけ下さい。


『さいごの魔女  
The Last Wild Witch 』



すべてがキチンと、ととのった、ある世界の片隅にキチント町がありました。

キチント町は、きめごとだらけ。
あらゆるどんなことだって、良いと悪いの、そのふたつ。
そしてだれもがきめごとを、疑うことなく従って、キチンと生きていたのです。

たぶんね。

さて、キチント町の端っこに、魔法の森がありました。
それも最後の魔法の森。
魔法の森は、ありのまま。
鳥、虫、獣、草木花、そして小川の魚たち。
みなそれぞれに、心の声にしたがって、
ありのままに生きていましたから、
きめごとなんて、ありません。


魔法の森の真ん中には、
ひとりの魔女が住んでいました。
最後の魔女です。
最後の魔女も、ありのまま。
見た目はあんまりふつうなもので、出会った人はみんな、自分のおばあちゃんと見間違えてしまうくらい。

魔女は毎日、大鍋コトコト。
鳥、虫、獣、草木花、そして小川の魚たちが
ちょっぴり元気がない時に、いつでも薬をあげられるよう、
ハーブに葉っぱに、木の実をまぜまぜ。


一晩中、魔女は歌う。
太鼓にあわせて、呪文の歌を。

ときどき西から吹く風は
魔法の薬のよい香りと
呪文の歌の調べとを
キチント町に運んでゆきます。

ときどき元気のない子らや
窓をあけはなっている子らが
耳をそばだて、鼻をひくひく。
そうすると
心の声が、目覚めます。
心の声は、ありのまま。

キチント町の学校は
名前の順に、まっすぐならび。
男はあっち!
女はこっち!と
キチンと分かれて座ります。
そしてだれもが間違わず、キチンと生きてゆくのです。

心の声が目覚めれば、
とてもまっすぐ歩けやしない。
すべすべ野原を転げ回って
走って踊って飛び跳ねて
だれになんと言われても
おりこうになんか、していられない。
おひさまと笑って、雨といっしょに水たまりに飛び込んで。
おうちになんか、かえらないよ。


夜遅くに、しのびでた子どもたちが
魔法の森をくぐり抜け
最後の魔女を尋ねたならば

彼女はきっと「スープをお飲み」とウインクひとつ。
これが魔女の、ありのままの、言葉のすべて。

みどりこちゃんと
ちゃたろうが
魔女のスープを飲みながら
うさぎと鹿と鳥たちと
おどりあかした夜なんか、
朝になっても、ちっとも疲れませんでした。

でも、みどりこちゃんと、ちゃたろうの
とうさん かあさんは違いました。
もう、へとへとのかんかんだったのです。

まるで誰かが寝てるみたいに
枕と毛布をもっこりつめた
空っぽベッドに気付いた時は、
生きてる心地がしませんでした。


「こいつはどうにかしなければ」
茶太郎とうさんそういうと
「このまがまがしきわがままを、許してなんておくものですか」緑子かあさんご立腹。
「なんとかして、やめさせなければ!」

あまりにはげしい
とうさんかあさんの抗議の声に、
とうとう市長は、役場の広間で会議を開くことにしました。

市長に高等裁判官、そしておえらい大人たちは、はてしなくながい会議を、
つづけにつづけ、つづけましたが、こどもたちはひと言だって、話させてはもらえません。


「かようなる、まがまがしきわがままは、森に暮らす魔女のせい。即刻、やめさせるべきです!」
裁判官はそういいました。

「けれどもいったいどうやって?」
茶太郎かあさんたずねれば

「答えはいともかんたんなこと」
「森の木々を切り倒し、魔女のすみかをあばいてやれば、よいのです!」

大人たちは大賛成。
子供たちは大反対です。

「そんなのひどいや!」
青助くんは声をあげ

「動物たちはどうなるの?」
緑子ちゃんはさめざめとなきます。

けれどもだれも、気にしません。


その夜西から吹く風に 
心の声をよびさまされた
緑子ちゃんと茶太郎と
青助くんはみんなして、
窓からこっそりすべりだし
森へと続く 暗い小道を、走って辿ってくだりました。


三人は、
鹿をも追い抜くすばやさで、
魔女のとこまでかけてゆきます。
うさぎのわきを、小鳥の巣を、魚の眠る小川のほとりをぬうようにして。
鍋をかき混ぜ太鼓を叩く、魔女のとこまでかけてゆきます。


「ねぇ魔女ねぇ魔女、大人たちがやってくるよ。
森の木を切って、魔女を追い出すって。
鳥も、鹿も、うさぎも虫も、ここには住めなくなってしまう。
木たちはみんな、死んでしまう。
なんとかしなきゃいけないよ」
緑子ちゃんは、息を切らしてさけびます。

「スープはいかが?」
魔女は笑って、こう言うだけ。
そしてほかにはなんにもなし。
だから子供たちはみな、魔女のスープをちびちびすすってお家に帰り、
ベッドにもぐるしかありませんでした。
枕をぬらしてねむった皆は、森をすくう夢をみました。


けれども次の日の朝には、大人たちはありったけの斧とチェーンソーの刃をピンピンに研いで、準備万端。
森のすぐそばまで運び出していました。
子供たちは、大人のむれを、おいかけることしかできません。

市長のスピーチがはじまります。
「きょうこのひこそ我らが町の、新しき夜明けとよぶに、ふさわしい。
我らは、まがまがしきわがままと、はちゃめちゃを、長きにわたり、許しすぎたのであります!
今日こそわれわれが、びしっとやってやるのであります!」

大人たちは大喝采。

裁判官はあしをひろげて、ふんとふんばり、一番おおきな木をめがけ、斧をふりおろしました。
「じゃっく!」
斧が木にめりこんだ、そのとたん
「きゃぁぁぁぁぁ」
木は悲鳴をあげました。

大人たちはおおあわて。
みなつぎつぎに手にもった、斧やのこぎりをほっぽりだして、走って町へ逃げました。


大人たちはまた、会議をひらきます。


「かのまがまがしきわがままを、我らの手で必ずや、終わらせなければなりません」と裁判官。
「でもどうやって?」ととうさん。
「あんなひどい叫び声、とてもじゃないけどたえられない」
「答えはいともかんたんなこと」と市長。
「明日はみんなで耳栓をすりゃ、森の叫びもきこえますまい」


その夜西から吹く風に、
心の声をよびさまされた
緑子ちゃんと茶太郎くんと、
青助くんはみんなして、
まどからするりとぬけだして、
森につづく暗い小道を
走って辿って、くだります。

三人は、
鹿をも追い抜くすばやさで、
魔女のとこまでかけてゆきます。
うさぎのわきを、小鳥の巣を、魚の眠る、小川のほとりをぬうようにして。
鍋をかき混ぜ太鼓を叩く、魔女のとこまでかけてゆきます。


「ねぇ魔女ねぇ魔女、大人たちがまたやってくるよ。
森の木を切って、魔女を追い出すつもりだよ。
耳栓をしたら、もう森の声はきこえない。
なんとかしなきゃいけないよ」
青助くんは叫びます。

「スープはいかが?」
魔女は笑って、こう言うだけ。
そしてほかには、なんにもなしです。

だから子供たちはみな、魔女のスープをちびちびすすってお家に帰り、
ベッドにもぐるしかありませんでした。
枕をぬらしてねむった皆は、森をすくう夢をみました。



次の日の朝、大人たちはまた、斧にノコギリ、チェーンソーを手に手に持って、森のはじっこにあつまりました。
市長の感動的なスピーチが、これっぽっちも聞こえなくなるくらい、耳にはたっぷり詰め物をして。

裁判官がふんとふんばり、いちばん大きな木の幹めがけて、斧を振り下ろすそのときを、子どもたちはただ、見守ることしかできません。

斧がたてる「ざっく」の音と、
悲しい木のさけび声を聞いたのは
子どもたちだけでした。


「やったぞ!」「ばんざーい!」
おたがいの声は聞こえないけれど、
大人たちは、みなくちぐちに、歓声をあげました。

でもそのとき突然に、
森の木々からつぎつぎに、
木の実や木苺、小枝の雨が、ざんざと降り注ぎました。

どんぐりは、
裁判官の頭めがけてコツンと跳ねて、
大枝は、
市長のおしりをバシンとやります。

大人たちは大絶叫。
みなつぎつぎに手にもった、斧やのこぎりほっぽりだして、走って町へ逃げました。

大人たちはまた、会議をひらきます。

「なんたる失態!」
と裁判官。
「こんどこそ、かのまがまがしきわがままを、私たちの手で終わらせなければ!」

「でもどうやって?」
と、青助くんのおじいさん。

「答えはいともかんたんなこと」
市長はお尻が痛くて座っていられず、立ち上がって言いました。
「明日はヘルメットに肘当て膝当て肩パッド、完全防備で参りましょう。そして木を切るのではなく、森を焼き払ってしまうのです。」

「そんなの、あぶないよ!」
茶太郎くんは抗議しました。
「間違って、魔女を燃やしてしまうかも!」

市長はギロリと睨みつけ
「子どもは口をつつしみたまえ」
そういったきり、会議を終わらせてしまいました。


その夜西から吹く風に、
心の声をよびさまされた
緑子ちゃんに茶太郎くん、
青助くんに、ちいさな紫子ちゃんは、
まどからするりとぬけだして、
森につづく暗い小道を
走って辿って、くだります。


四人は、
鹿をも追い抜くすばやさで、
魔女のとこまでかけてゆきます。
うさぎのわきを、小鳥の巣を、魚の眠る小川のほとりをぬうようにして。
鍋をかき混ぜ太鼓を叩く、魔女のとこまでかけてゆきます。

「ねぇ魔女ねぇ魔女、大人たちがまたやってくるよ。
こんどはヘルメットに肘当て膝当て肩パッド、完全防備でやってくる。
そして森を焼き払うんだ。
鳥も、鹿も、うさぎも、虫も、魔女も焼かれてしまうんだ。
なんとかしなきゃいけないよ」
みんなは息をするのも忘れて、声を合わせて叫びました。

それなのに
「スープはいかが?」
魔女は笑って、こう言っただけ。
そしてほかには、なんにもなし。
だから子供たちはみな、魔女のスープをただちびちびと、すするだけ。


「どうしてなにもいわないの?」
「どうして魔女は自分でなにもしようとしないの?」

魔女はただにっこり笑って、スープのおかわりよそいます。

緑子ちゃんは、ひとすすり。
そのとき、夢を思い出したのです。

「たぶん、わたしたちがなにかをするんだわ。きっと、わたしたちが森をすくうことになっているのよ」

「ぼくたちはただの子どもだよ。いったいなにができるってのさ?」
青助くんはいいました。
すると、
「いいことかんがえた」
と、緑子ちゃんがいいました。



次の朝、おもい上着と肘当て膝当てでぐるぐる巻きの大人たちは、手も足も曲げられず、カクカク歩きで森のはじっこに集まりました。
頭には思い思いのヘルメット。
手には松明を掲げています。
市長はまた、お得意のスピーチを披露していましたが、大人たちの耳には耳栓がはまっていますから、聞こえるはずもありません。

子供たちだって聞いてない。
子供たちは、ただ待っていたのです。
裁判官が、とびきり大きな松明を、近くの木の枝めがけて振り上げる、そのときを。

裁判官が火を放とうとした、まさにそのとき。
子供たちは走りだしました。
一人残らず走りました。
力いっぱい、森の中へ。


「戻ってらっしゃい!戻ってらっしゃい!」
裁判官は叫びます。
「そんなことをしたら、森を燃やせないでしょ!」


でも子供たちは、聞きません。
いちもくさんに、森の一番奥まで駆け込むと、鳥虫獣たちといっしょに、木の影に隠れました。

お母さんも、お父さんも、おばあちゃんも、おじいちゃんも必死です。
みんな子供たちの後を追い、森の中に分け入ります。松明は、さっさと消してしまいました。


市長と裁判官、そして他のみんなも追いかけます。
「戻ってらっしゃい!戻ってらっしゃい!」
みんなが叫びます。

でも、子供たちはでてきません。

大人たちの完全防備は、すぐに邪魔になりました。
上着も肘当ても膝当ても、動きにくいったらありゃしない。
ひとり、またひとりと、
脱ぎ始める大人たち。

緑子!茶太郎!青すけ!紫子!

お母さんお父さん、おばあちゃんおじいちゃんも、子どもたちを呼びますが、
耳栓付きじゃぁいつまでたっても、子どもたちの返事が聞こえるはずもありません。
ひとり、またひとりと、
耳栓をはずす大人たち。


すずやかな風がうでをなで、ポカポカ陽気は背中をほっこりさせました。ヘルメットと上着を脱いだからです。

風にそよぐ葉っぱと、小鳥たちの歌声が聞こえます。耳栓をはずしたからです。

「この森、ちょっと素敵だわ」
緑子かあさんがそういうと、裁判官がギロリと睨みつけました。


「この小川は、なかなかいいぞ。良く釣れそうだ。かけてもいい」
茶太郎とうさんがそういうと、市長が顔をしかめます。


でも、木の葉が青空めがけて踊るように吹き上がるさまをみた市長と裁判官も、あっという間にうっとりしてしまいました。
うさぎの家族にじゃれつかれた裁判官は「なんてかわいいの」とつぶやいて、
頭の上を悠々と飛ぶ鷹をみて、市長はうっかり「こりゃ見事だ」ともらしました。
まるで魔法にかかったようです。


大人たちはあつさとつかれでへとへとです。
たくさん歩いたものですから、お腹も空いたし、喉もカラカラ。
それでも子どもたちは出てきません。

ついに大人たちが森の一番奥深くにたどり着くと、そこには、魔女がいました。
大鍋かきまぜ歌っています。

なんだかちっとも悪いやつには見えないぞ。
大人たちは思いました。
だって、私たちのおばあちゃんに、そっくりじゃない?


魔女はにっこり笑ってウインクすると、こういいました。
「スープはいかが?」


「いただくと、いたしましょう」
市長がそういうと、大人たちはみんなで座り、魔女特製の癒しのスープをいただきました。ほんのすこしの「まがまがしきわがまま」を受け入れたのです。


「住人のみなさん。子どもたちのおかげで、私たちは大変な間違いをおかさずに済みました。この森は、なんというか、悪くない」
市長はそういうと、魔女の方をむいてこう言いました。
「そして、マダム。このスープは、とてもおいしい」

「私たち、間違っていたわ」
裁判官も認めます。
「きっと私たちには、すこしわがままが必要なのよね」


子どもたちは「やったー!」と大声あげて
木陰から飛び出しました。

みんな笑って、抱きしめあって。
その夜は、魔女の歌と太鼓にあわせ、みなで踊って過ごしました。
鹿に小鳥、うさぎたちも一緒です。




その日から、キチント町は変わりました。
大人も子どもも、なんやかんやと森にはいります。
町の誰かが魔女特製の癒しスープを欲しがれば、魔女のほうからやってきます。

子どもたちは今でも学校で勉強は続けているけれど、森の中では踊って歌って歩き回っています。
ピシッと立ってまっすぐ並ぶなんてこと、もう誰もしていません。

庭の草木はぐんぐん育ち、果物はたわわに枝をたゆませます。
タンポポにひなぎく、名前もない野の草花が、そこらじゅういっぱいに咲きみだれています。


そして西からふく風が、
心の声を呼び覚ます、
ありのままの夜はみんなして
つかれ知らずに朝まで歌って、
踊りあかして過ごします。
鹿も、うさぎも、鳥たちも。


キチント町は、すべてがキチンとととのった町ではなくなってしまいました。

でも、前よりずっと、いい場所になりました。


おしまい

翻訳してみて

根拠なき使命感に燃えて「ぜったい私が翻訳しなければ!」と心に決めたはずのあの日から、気付けばあっというまに三、四年の月日が流れてしまいました。ず〜っとキッチンの本棚に立てっぱなしになっていたこの絵本。その間に環境保護系のブックアワードも受賞したようです。
さすが!

対象年齢は、小学校中高学年〜大人までってかんじだと思います。低学年には少し長いので、端折ったり声をコミカルにして楽しませてあげる必要があるかも。

それにしても、チャントの意訳程度はやったことがあるけど、絵本といえどそれなりのボリューム。うーん難しかったです。

出来上がった訳文は、多分ちっともキチンとしてないですけど、これも私のありのままの姿ってことで、どうぞご容赦ください。(変なところあったら教えてくださいね)

Wemoon

Wemoonは現代魔女向けに毎年カレンダー&ジャーナルを発行している最高の出版社です。絵本注文するついでに是非ジャーナルも手に取って!

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