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【読了】吉村萬壱「臣女」

吉村萬壱「臣女」
著者名に目が留まった本


主人公は仕事と家事と妻の介護に明け暮れていた。苦しむ妻の頭を抱えて「愛しているよ」と言い聞かせるその言葉は、平素一度としてかけたことのない言葉でもあった。


連続してハートフルな本を読んだからか、ちょっとアクの強いものが読みたくなっていた折、TLに御本人様のツイートが流れてきたので、運命かなと思って順番を繰り上げて読むことに。

タイトルは謎だし装丁も少なからぬ不気味さがあり、見るからになにかあるぞと思っていましたが、期待を裏切らない内容でありました。
詳しくなくてわからないけど、ジャンルで言ったら不条理系になるんだろうか?

主人公は自分に都合よく考えがちだったりで所謂善人ではないし、彼が妻と向き合うのも誠実さや愛情からだけではない気がするが、外からは何事もないように見せ続けようとするある種執着めいた努力はすごいと思った。

何かで読んだのだけど、山にいる神は人と交流することができて、海の神はそれができない、同じ異界でも中身が違うというのがあって。
同じ名前を付けられた山から海への移動はそういうものもあるのかなと思ったりした。

よくわからないなかで、わからなくていいと思えたのは収穫なのか退化なのか。
最後の言葉に人間のどうしようもないさが強く印象に残りました。
美しさとグロテスクさが入り混じる、他のなににも似ていない作品でした。

(20240812投稿文の再掲)

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