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【読了】ブラム・ストーカー「ドラキュラ」 訳: 唐戸信嘉

ブラム・ストーカー「ドラキュラ」訳: 唐戸信嘉
新装版表紙のあまりのゆるさに手に取って、そういえば未読だった気がして読むことにした本


ロンドンの弁護士事務所から東欧に派遣された主人公は、目的地を知った現地人が自分に十字を切ったり魔除けの仕草をしてくることに辟易していた。街に残した恋人に見せるための日記は、自分の置かれた状況の危険さに気づいてからは読まれるあてもない遺言と警告へと変わっていく。


有名すぎて読むのに今更感を覚えてしまっていましたが、やはり名作と呼ばれるものは読むべきなのだな〜。

この作品は主人公の書いた日記や手紙を日付の順に並べ直した、という構成で日付と書き手の名前が記されています。
冒頭は弁護士が伯爵に招かれて東欧にある城を訪れ、そして城内で直面する危機についての日記。
次いで彼を心配する恋人がその友人と交わした書簡、その友人が静養先で出会った医師の日記…といった具合に、様々な人がその関係性のなかで綴っていくのですが、これが本当に面白くて!

読み手である私は吸血鬼のことを知っているけど、作品世界にはまだ吸血鬼という概念がなく、目の前に現れた事象を解読していくことしかできない上に、それを正しく読み取ることのできる人物は限られていて、彼自身も「到底受け入れられない」ことがわかっているんです。
吸血鬼という未知の存在に対する恐怖よりも、未知に立ち向かおうとする人々の知恵や工夫、連帯しようとする心、そういったものの記録を読むことで、今まさにそこで起こっているのだというリアルさを強く感じたのもとても面白かった。

あとはやっぱり当時の世相なのか、プロテスタントのイギリス人が十字架すらも偶像崇拝の道具のように感じて迷信くささを揶揄すような記述があったり、協力者の貴族のおかげで富と権力を使いたい放題だったりするのも面白かったし、キーパーソンの名前で原点が知れたのもよかった

解説や注釈も含めてとても楽しめました
想像していたものとは違ったけれど、だからこそ読んでみて良かったです

(20231126投稿文の再掲)


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