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【読了】遠田潤子「人でなしの櫻」

遠田潤子「人でなしの櫻」
タイトルと装丁に惹かれた本


懇願に負けて主人公が部屋を訪れると、絶縁した父が死んでいた。全てを知る使用人は自死を選び、隠し部屋にいた身元不明の少女は怯えながら父の名を呼んだ。


「人でなし」と「櫻」という取り合わせが珍しく、表紙の鮮やかすぎる桜がとても印象的。

厭世的で人嫌いの主人公は、山あいの家で日本画を描く生活をしており、人付き合いというものもほとんどない。
母親とは死に別れ父とは絶縁、妻子も失い、自分もまた病に冒されている。
妻というミューズを失い人間が描けなくなった彼は、父の死にも関わっていた少女と出会ってしまう。
父の影を嫌悪しながらも父と同じ相手を求めてしまう自分を呪いながら、彼はそれでも描くことを選ぶ。

時折少女の視点や、作中の創作物を織り交ぜながら進む物語は人として受け容れられないものや、卑しさ浅ましさに満ちていながらも、それでも求めてしまう切実さが感じられました。
取り返しのつかないことを幾つも抱えて後悔や自己嫌悪に苛まれながら、それでも描くことを選んでしまう業ともいうべき情念の強さが印象に残ります。
日本画特有の技法もあってか、重くかさねられていく圧のある迫力が圧巻でした。

(20240609投稿文の再掲)

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