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【読了】川上未映子「黄色い家」
川上未映子「黄色い家」
「ダヴィンチ」で見た本
惣菜屋で働く主人公は、小さなネット記事で見た名前に衝撃を受ける。彼女とは20年ほど前一緒に暮らしたことがあったのに、名前もその時の出来事も全て、今まで忘れていたことに気がついたのだ。
表紙のパキッとした黄色に目を奪われますが、読んだ後だと英字で書かれたタイトルの方がしっくりきました。
主人公が母とふたりで暮らす長屋にやってきたその人は、幼かった主人公に初めて家庭的な温かさをもたらした人でもあった。
不安定な暮らしのなかで自立心を強くしていた主人公は、母親の恋人によって心を折られ、たまたま再会した彼女について家を出る。
彼女とともにいることで心から笑うことを知った主人公が、それを守りたいと思ってしまうのは自然なことかもしれない。
現実問題として、生きていくことにはお金がかかる。
食費や光熱費、水道代に通信費用、親元を離れていれば居住費も。
それらを解決するために主人公が頼ることのできた大人が限られていたことが本当に残念というか無念というか。
目標に向かって一生懸命になってしまうからこそ自分も周囲も追い詰めていくような選択をしていってしまうのが苦しかったです。
膨らみきった風船が徐々に萎むように、仕事が減り人が離れてそしてまたひとりに戻る。
すごいものを読んだと感じた
(20240713投稿文の再掲)
・第75回 読売文学賞