【読了】西加奈子「ふくわらい」
西加奈子「ふくわらい」
読んだことはないけど作家さんのお名前は知っている気がして手に取った本。
幼い頃に母を失い、作家である父の取材旅行に長く同行していた主人公は、感情の機微がわからない。淡々と働く彼女の次の仕事相手は、その人自身でしかあり得ない「顔」のプロレスラーだった。
表紙を見た時に感じた不気味さと毒々しさは、読んでみると全然甘くて、文章の持つ重みに驚かされました。
主人公を取り巻く環境がまず重い。
気の毒だとか不幸だとか一言で表せるような感じではなく、空気の重さとでもいうのか、トリッキーなのにずっしりと心に根を張るような重さなのです。
それは恐らく愚直であるという彼女の性質にも関わっていそうに思うのですが、彼女自身は「愚直」とか「ストイック」という概念を知らないため、全てが「仕事だから」に帰結しているわけです。
ある意味ロボットめいた雰囲気を纏っている彼女の趣味が表題になっているふくわらいで、相対している人間の顔を自在に操れるというのがやけに生々しくてグロテスクでもあって。
何を読んでいるのだろうと思いながらもアンバランスな世界を生きる彼女から目が離せませんでした。
私たちは肉体を通じて世界をそして自分が在ることを知り、言葉によって定義することでそれと知ることができる。
そんなことを思いました。
(20231203投稿文の再掲)
・第1回 河合隼雄物語賞