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バイクには、缶コーヒー

12月の空の下、遮るもの無い田舎道を、バイクでひた走る。
フルヘル越しに聞こえるのは風の音。
ヒュウヒュウと風が吹き抜けていく。

小さいなりに単気筒らしい排気音を響かせて、250ccのエンジンが回る。
時に北風に向かいながら、時には流されながらも進んでいく。

手はまるで氷のようで、厚いグローブを着けてるはずなのに、まるで効果がない。
信号待ちで止まる度に、エンジンに触れるようにして暖を取る。
赤信号の時間が長い方が良いなんて、冬ならではだと思う。

シートは少し細めのデザインなものだから、何十kmも走り続けていられない。
腰も強張り、手を上げて「伸び」をしたくなりそうだ。
…勿論、そんなことをしたら即転倒だが。

小さな駐車スペースが見えた。
あそこで休憩にしよう。
自販機もある。
熱いコーヒーが飲みたい!。

滑り込むようにスペースへと入る。
周囲には何もない…人家も、ビルも。
ただ北風に吹き晒されるだけの麦畑が広がっている。

グローブを外し、悴んだ手で自販機にコインを入れる。
もどかしいほどに、手が震えて投入口に入ってくれない。
ようやく数枚のコインを入れると、ホットの缶コーヒーのボタンを押した。

ゴトン、と音を鳴らして、コーヒーが
現れる。
プルタブを引き上げて、注意深く口に運ぶ。
寒さではがんだ口には、熱い飲み物はちょっとした危険物だ。

両手で包み込むように缶を抱く。
白い息を吹きかけながら、一口飲み込む。
喉を落ちていく熱い塊。
全身に小さいながらも伝わる熱気。

しかし、わずかの時間で熱は急速に奪われていく。
小さな缶の中身が、冷たい液体になる前に飲みきってしまう。
そしてその後に残るものは、わずかな温もりの残渣…。

トントン…と同じテンポを刻むエンジンに、一度、二度とガスを入れる。
タコメーターの針が躍り、車体が軽く身震いをする。

さあ…日没までには宿に入ろう。
熱い風呂に浸かり、旅の疲れを癒そう。
スタンドを跳ね上げ、クラッチレバーを握る。
左足にコツン、と小さなショックを感じたなら、走り始めよう。


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