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2024/6/9 ソファわらしべ
・購入して二か月ほどしか経っていない合皮カウチソファが壊れた。背もたれの板が中で外れているようで、もたれかかるとぐにゃりと潰れる。
・ええ、もう?と思いながらひょっとして他もダメなんじゃないかと思って端っこのひじ掛け部分のクッションをめくってみると見事に裂け始めていた。
・面倒だなあ。このソファは格安店のアウトレット品で合皮、カウチソファの中ではごく安物のたぐいだ。とはいえ十万はした。保証期間内なのでとりあえず購入した家具屋に電話を掛けてみた。
・丁寧な謝罪の後、背もたれに関しては修理できるかどうかも現物を見なければ判断しかねるので、まずは知識のある業者を派遣するので回収させてくださいとのことだ。
・裂けた部分に関しては手当て的なことは出来るがおそらく元通りには直らない、なので納得いかなければ同価格帯のものと交換することも可能らしい。
・数日後、おじさんが二人やってきた。おじさんは背もたれを掴みこう言った。「こりゃあ直らんと思うよ…どないします?」
・どないします?
・どないしますとは??
・その辺も含めてまずはお店が判断するっておっしゃったので…と返すほかない。おじさんは「ふう…ん、はい。じゃあ、運ぼか」とあいまいに返事をしてソファを運び出していった。別になげやりでもなければ、不満げでも態度が悪いでもない。感情がないというか、泰然としている。おっさんのSiriがいたらこんな感じだろうな。
・おそらく店から「回収行ってきて、今回は…」の「回収」の部分だけ聞いて「ハイヨ…」と生返事をしつつ全部聞き流したのだろう。そしておそらくお店とは付き合いも長い。こういう業者の温度感にはすごく覚えがある。数年前まで自分の職場の専属だった運送業者が似たような雰囲気だったからだ。
・こういう業者は仕事は一応やりおおせるが怖いもの知らずというか、距離を測ることを完全に投げ捨てているので最悪の場合取引先の店で「トイレ貸してくれへん?」とか言ってクレームの電話がかかってきたりする。
・敬語も特に謝罪の時だけはわざとらしく過剰に訛っており、敬語を使うことを負けとすら思っているフシがある。クレームが入ったことを知らせると「すみません」と言えず「すんまへん」「すまんこって」とか言うんだ。腹立ってきたな。
・そして今日、おそらく交換になるだろうなと予想できていたので店からの返事を待つ前に出向くことにした。新品と替えてくれるならまあ諦めもつく。
・店に行くと六十代くらいの、白髪の角刈りでワイシャツに黒スラックスというビートたけしみたいなおっさんがやってきて、名前と用件を伝えると「こっちや」と店の奥の倉庫らしき場所まで連れていかれた。倉庫は真っ暗だった。
・おっさんは天井からぶら下がったオレンジ色のコードにコンセントを挿す。明かりがついた。ビニールシートや梱包材に包まているが、破損しているであろうローテーブルやソファが所狭しと並べられていることがわかる。
・そのうちのひとつに見覚えのあるシルエットがあった。おっさんは「確かに背もたれが壊れとった。ワシが直したんや」と誇らしげに分厚いシートをはぎ取った。金田のバイクみたいでかっこいいな。ソファだけど。
・背もたれの部分を押してみると確かに直っている。
・でもここにはカウチの部分しかない。カウチソファというものは二つのソファが連結して出来ており、今回背もたれが壊れ、生地が裂けていたのはいたのはそれぞれ片方ずつだった。
・裂けてしまっている部分はどうですか?と尋ねた。
・「それは知らへんなあ」
・知らへんことないやろ、と喉まで出かかったがやめた。
・なぜか怒る気にもならなかったので、なんとなくあたりを見回すと片割れをらしきものを発見。「アッこれですわ!これです」と自分でシートをはがし、改めて裂けた部分を見せてみる。
・「こら無理や。無理無理」
・ほな交換の方向で頼みますと言うと、おっさんは若干さみしそうな表情をしながら「せやったらあとは女の社員と相談してもろて…呼んで来るわ」と言いながら立ち去った。女の社員て。この家具屋絶対一族経営だわ 絶対そう
・濃紺にベージュの差し色、シルバーの金属脚がついててかっこいいソファだった。結構気に入ってたのにな。ほどなくして女の社員が来た。「似たようなやつと交換さしてもらいます~。色違いでからし色のやつならちょっと前まであったんですけどね」とのこと。
・からし色て。ほんで無いんかい!何なんだ
・壊れたソファがあった場所には同じサイズのグレーのソファが鎮座していた。三万円ほど差額持ち出しになるが、同じサイズ同じ価格帯のものは他になかったので仕方ない。「これにします。せやけど前回のも凄い愛着わいてて~」的な通り一遍の「勉強しとくんなはれ」感を一応出しておく。
・一万五千円になった。ほんとかおい。
・前回買った十万のソファが一万五千円払って十三万のソファに変わった。何か騙されているような気がしないでもないが、そのことについて考える体力は週休一日の自分には残されていなかった。