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朗読劇「湯布院奇行」。二つの色気が交錯する世界

地方に住んでいると、劇場に足を運んで生の舞台を見る、という機会がなかなかないのだけれど、気になる舞台のお知らせがSNSで流れてきた。

新国立劇場で、三日間だけ開催された朗読劇「湯布院奇行」


出演が成田凌と黒木華、そしてコムアイと名前の並びを見ただけでワクワクするラインナップ。こんな時期だからこそ、もしかしてと確認すると配信チケットが販売中(10月6日までアーカイブ配信あり)。LIVEでの鑑賞は叶わなかったが、アーカイブ配信の方が落ち着いてゆっくり向き合えると思い後日鑑賞した。

朗読劇、というと何もないセットの上、2人くらいの出演者が本を持って交互に読み合う、といったものを想像していたけれど、この作品はそれよりも舞台寄り、ステージには楽器を演奏する方が控え、主に成田凌と黒木華の掛け合いで進んでいく。その中で歌唱担当としてコムアイが絡む。後半ではこのコムアイも重要な登場人物としてストーリーに参加する。

ボクは湯布院に降り立っている。そこで出会ったのはしのぶという女。敬愛する芸術家から勧められたボクは手紙を渡され、言われるがままに湯布院に辿り着いた。その手紙にはこう書かれている。
「今、君の目の前に立っている女を私たちで共有しないか」
しのぶという女と、かたぎりという女。そっくりなのにどことなく雰囲気が違う女に翻弄され、時間軸の歪んだ宿に辿り着いたボクは現実とも虚構とも言えない世界に疲れた体を委ねるのだった。

男は小説家で、放送業界にも身を置く。仕事で疲弊し、評価された小説は二作目が進まずに焦っている。

男は現実から遠く離れた場所に行きたいと願っている。それゆえなのか、湯布院という場所は彼に現実を突きつけたり、引き離したり、「遠い場所」という願いを叶えながら、心の整理を促しているようにも思える。

眠りと現実、失った愛と予感する愛、これは人間が時折出会うと言われている、転機というもののようでもあるし、空想に身を委ねた男が束の間の休息をと強引な策を練ったようにも見える。

男の悩みは実はさほど珍しいものでも、突飛なものでもない。誰しもが、もしかして今多くの人たちが大なり小なり抱えているものかもしれない。

閉塞的な今だからこそ、「遠く」に意識を追い詰めることで、主人公は救われたのか。結末を知るにつれ、現実とはリアルとは、そして体と意識の関係は何なのか、考えさせられる。

アーカイブ配信は、9月29日の公演を収めたもの。

黒木華さんのしっとりした粘着性の高い色気と狂気、そしてコムアイさんの鈴が鳴るようなサラッとした色気。二つの、質の高い愛に惑わされる二時間、翻弄され正気を失う成田凌演じるボクのように、ひととき、我を失うのも快感、かもしれない。そこで目覚めるのか、虚構に沈むのか、彼らが共有したものは彼らの行く末を左右する。

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玉置ゆう
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