【小説】それぞれのカタチ〜ミントと恋EP7〜
連作小説「ミントと恋」のEP7。EP1〜6はマガジン「ミントと恋」にまとめてあります。
最新EPを一週間の限定無料公開。一週間後に次のEPが発表になります。
【これまでのEP】
1.ミントと毒薬
2.天使のナリワイ
3.スキの幻想
4.すぐトナリの境界
5.温かなカジツ
6.たおやかな窓辺
彼女の事情
五つ下の妹は生まれつき体が弱かった。
すごく小さく生まれてしばらく入院、それからも同い年の子と比べて常に小ぶりで、入退院を繰り返す日々。幼稚園も小学校もまともに通ったことなどなく、両親ともいつも妹にかかりきりだった。
思えば自分は寂しい幼少期を過ごしたと思う。
周りからは「お姉ちゃんだから」と言われ「えらいね」「しっかりしてるね」「いい子だね」と暗示をかけられて育った。
そのせいで私は、どの同い年の子たちより、大人しくて大人びて見えただろう。
両親から構われなくて、妹がうらやましかったこともあった。ただそれはほんのいっときのことで、色々わかってくるようになると、どこに行くにも両親がついてきて、絶えず心配され、少しでも体調が悪くなるとしばらくは外出すらできないのは不自由だし嫌だと思うようになった。
妹は小さくて細くて、好き嫌いが多く、いつも布団に寝ているか、病室にいるか、と言うイメージだ。快活に外を走り回ったりしないし、縄跳びやボール投げもうまくできない。
そんなかわいそうな子にパパとママが付きっきりなのは仕方がない。だから貸してあげる、そんな風に考えていた。
周りから大人びた落ち着いた子として見られるのにすっかり慣れた頃から、いくつも歳の離れた男の人から声をかけられるようになった。
ただ、私はそれほど年上の人に興味がないし、本当はもっと同級生の子たちと同じように大声で笑って、きゃあきゃあ言いたい。
でも私にはそのやり方が良くわからなかった。
昔から「静かにしてね」と言われ続けて育ったし、妹と遊ぶときにはいろんな注意事項があった。そのうち小さな声で静かに過ごすことが当たり前になって、弾けるみたいに転がったり声を出したりすることが良くわからなくなったのだ。
何を話しても楽しそうに大きく笑ったり、手を叩いたりするみんなを見ていると、どうやったらあんな風になれるのか、と考える。そうやってじっと考えたりしていると、また「落ち着いてるね」「大人びてるね」「しっかりしてるね」と言われてしまう。
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