お腹の中の赤ちゃんが自分の名前を決めたので。
お腹の中の赤ちゃんはその時、私の夢の中で言った。
「なに言ってるの、僕の名前は【てん】だよ」と。
それは出産がいよいよ近くなった12年前のちょうど今頃のこと。
4月に生まれてくるお腹の赤ちゃんの名前がどうしても決まらない。
はると・ゆうた・げんき・とら・ゆうき・・・・思いつく度にメモを取ってリストにしていたがどれもしっくり来ない。
人生の大切な決め事はだいたい直感で降りてくる。
いつだってそんな風に生きてきた私は、悩むということはきっと赤ちゃんの名前はこのリストの中に無いんだろうと、わかっていた。
そんな時だ。
今でも怖いぐらいはっきりと覚えている。
私は夢を見た。
夢の中でお腹の赤ちゃんと会ったのだ。
そして私のところにやって来るまでのことを教えてもらった。
教えてもらったというか紙芝居の様にビジュアルで見たのだが。
最初のシーンは雪景色。 ひどく吹雪いていた。 時間は明け方だろうか。 薄暗く、辺りに人は誰も歩いていない。
そこに年齢16歳くらいの若い女の子が大きなカバンを持っている。
なぜだか私にはすぐにわかってしまった。
「あ、カバンの中に赤ちゃんがいる」と。
女の子の顔に表情は無い。 そして病院だろうか? 施設だろうか? 灰色のビルの前に赤ちゃんが入ったかばんを置いて静かに立ち去った。
お父さんは誰だかわからない。 その女の子自身もきっとわかっていない。
カバンの中の赤ちゃんは一旦は保護された。
でも赤ちゃんは間もなくしてこの世を去った。
そのビジュアルを見た後、夢の中で赤ちゃんは静かに微笑んでいる。
スカっと突き抜けた様な明るさとその存在から溢れる様な幸福感をビシバシ感じる。 私の常識からすると、とんでもなく辛いことを経験してきたのに、である。
「赤ちゃん。 あなた大変だったんだね〜。 悲しかったねぇ」と映画を見終わった後の感想の様にそう伝えた。
すると、赤ちゃんは言った。
「全然だよ。 全く辛くなんてないんだよ。 だって今度はお父さんとお母さんが僕を待ってくれてる所に生まれてくるんだから。 それにね、お家がこんなに明るいんだ。 光がいっぱいなんだよ。 だから僕は今とても嬉しい」とはっきりと言った。
「ふ〜ん、そんなもんか。 うんうん、まぁ、引っ越したてのお家のリビングは窓がいっぱいあってとても明るいし、お父さんも私も楽しみにしているよ」と伝えた。
そして夢の中で私はハッと思いついた。
「そうだ! 名前の事を相談してみよう」と、とても自然な流れで聞いてみることになった。
「あのね、赤ちゃん。 どうしてもあなたの名前が決まらなくって。 ねぇ、どうしたらいいと思う?」と。
すると赤ちゃんはキョトンとして私を見た。
「え、なに言ってるの? 僕の名前は【てん】だよ」と。
そこで私の夢はおしまい。バチっと目が覚めた。
私はむくっと起き上がり、隣で寝ている夫に向かって叫ぶように言った。
「ねえ、今、赤ちゃんが私のお腹に入ったよ」と。
実は私は妊娠してからこの夢を見るまで、どうも自分のお腹に赤ちゃんがいることが信じられなかった。
エコー写真や胎動、そしてどんどん大きくなるお腹。 間違いなく私の中にいるのに実感がない。
いつもどこかで「本当に赤ちゃん、お腹にいるのかな?」と思っていた。
それがこの夢の日以降、「ここに、命がある」と強烈な実感が湧いてきた。
生物学的にはおかしなことであるのはわかっている。
でも私はまさにあのタイミングで赤ちゃんが私のお腹に入ったのだと思えた。
私は夫に夢で見た景色と赤ちゃんが自分の名前を【てん】だと言ったことを伝えた。
私は夫の事を出会ってから今までずっと「てんちゃん」と呼んでいる。
夫は寝ぼけた声で「え〜、赤ちゃんはひろさん(私)が僕の名前を呼んでるのを聞いて間違えてそんな事、言ったんじゃないの〜?」なんて言ってる。
いやいや、全然そうじゃない、と思った。
あの赤ちゃんはしっかり意思を持って自己紹介をしていた。
夢を見た日以来、今までリストに書いてきた全ての名前があり得なくなってしまった。
自分は【てん】だと、あんなにはっきり自己紹介したので【てん】が付く名前以外は考えられなかった。
てんと、てんた、てんや・・・
そしてその夢を見た日にすんなりと赤ちゃんの名前は決まった。
名前は【てんま】になった。
私には霊感などの類は備わっていないしスピリチュアルな要素も無い。
これはあくまでもただの夢の中の話だ。
だけど、単なる夢であったとしても彼の人生がまだ始まってないうちに私の夢に出てきた事、名前を教えてくれたこと。
そしてこれから始まる人生をとても楽しみにしている様子を肌で感じれた事はよかったと思う。
今でも子育てや夫婦関係につまずいた時は、いつもあの夢に立ち返る。
あの生まれてくるのを楽しみにしていた息子のわくわくを可能な限り実現させよう。
それと、夫婦はできるだけ仲良くいよう。
12年前に見た、たったひとつの夢がその後の子育てにおいて大事なお守りになることもある。
それはきっと神様が息子に持たせてくれた、お守りでもあるのかもしれない。
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