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【5分で読める#01】おれと結婚してくれませんか

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2014年2月1日(土) 19時47分

 土曜出勤を終えて家に帰るおれは、ガチガチに緊張していた。なぜなら、明日プロポーズするからだ。家に着いてすぐ、明日のシナリオを入念にチェックする。

 1・彼女を家まで迎えに行く
 2・目的地へ車で行く
 3・目的地を適当に散策する
 4・頃合いを見計らってプロポーズする

 よし。我ながら完璧すぎるシナリオだ。念のため、持ち物もチェックしておこう。指輪は9号がいいのか10号がいいのか、グーグル先生に聞いてもサイズが分からなかったから「指輪を一緒に買いに行く券」を作った。こんなの作ったのは、小学生の頃にマザーに渡した「かたたたき券」以来だ。あの頃は「かたたき券」と書いて、笑われてしまった思い出があるが、今回は大丈夫。何回読み直してもちゃんと「指輪を一緒に買いに行く券」と書いてある。

 この「買いに行く券」をプロポーズとともに渡せばオーケーのはずだ。多分。ん?いや待てよ。さすがにチープ過ぎないか。プロポーズして渡すのが、おれが適当に作った(とは言っても気持ちは込めた)カード一枚じゃ締まらない気がする。というか、絶対に締まらない。これまでの感じからして、明日のプロポーズはきっと成功するはずだけど、人生に一度のメモリアルデーにもらうのがカード一枚じゃマズイ。きっと。

 おれは急にソワソワし始めた。どうする。どうすればいい。…そうだ、花だ!花と一緒に渡すのが一番自然ではなかろうか!むしろ「買いに行く券」を花に忍ばせて渡せば、雰囲気が増す気がする!よし、そうしよう!とはいえ、花屋ってこんな時間までやってるのだろうか。慌てて時間を確認すると、すでに20時を回っていた。


2014年2月1日(土) 20時13分

 都会なら20時以降もやっている花屋はゴロゴロあるのかもしれないが、おれの住んでいるところは最寄りのコンビニまで車で20分。世間では間違いなく田舎に分類されるはずだ。ダメもとで行ってみるしかなかった。

 近所に唯一ある花屋は、もちろん閉まっていた。路地裏にひっそりとたつ松田生花店の看板は、夜の暗闇でもうほとんど読めない。状況は絶望的だったが、とりあえずシャッターの前まで行ってみる。開く気配は無い。というか、開いていたかどうかすら怪しいと思うのはおれだけだろうか。腰の曲がった散歩中のおばあちゃんを見かけたので挨拶し、家に帰ろうとする。「いらっしゃい」と言われた。散歩中のおばあちゃんじゃなくて、店の人だった。

 腰の曲がった散歩中のおばあちゃん、もとい花屋のおばあちゃんに事情を説明すると、なんと店を開けてくれた。感激だ。ちなみに、おれの無理なお願いを嫌な顔一つせずに聞き入れてくれたおばあちゃんは、なんと92歳だった。驚愕だ。

「何にします?」
「えっと…何がイイすかね?」
「お相手さんは何色が好きね」
「うーん。赤系?かな。多分」
「はいよ。じゃぁ待っててね」

 おばあちゃんの作業は、流れるようだった。お花がたくさん置いてある、でっかい透明な部屋から迷うことなくいくつかの花を選んでくる。一本一本余分な葉をとり、少し切り詰め、それらを無造作に束ねて、濡れティッシュで茎元を被う。花たちは薄く綺麗な和紙と透明なラッピングペーパーでやさしく包まれ、無数にある中から選ばれたシックなリボンで丁寧に結ばれた。さっきまで無造作に束ねられていた様に見えた花たちは、今ではすべてが生き生きとしていた。

「赤いチューリップが、すごくきれいですね」
「花言葉はね、愛の告白。12本だと「わたしの妻になってください」という意味になるのよ。ピッタリでしょ」

おばあちゃんはイタズラっぽく笑った。


2015年2月2日(月) 10時31分

 「へぇ。ここが例のお花屋さん?」

 この日に、この店に、妻と一緒に花を買いに行くことは、ずいぶん前から決めていた。ちょうど一年前の今日、おれは無事プロポーズを成功させた。多少のトラブルというか、シナリオ通りじゃないことはあったけれど、結果オーライだ。指輪を買いに行く券も花束も、とても喜んでもらえた。

 花屋のおばあちゃんは、おれが花を買った数ヶ月後に亡くなったそうだ。あの時のおばあちゃんの花束は、おれの中で一生忘れられない花束になった。妻にとってもそれは同じだろう。花屋は、おばあちゃんのお孫さんが後を継いでいるそうだ。

「いらっしゃいませ」
「花束をつくって欲しいんですけど」おれが言う。
「はい、どんな風にしましょうか?」
「赤いリューリップを12本ください」妻が言う。

 いつまで続くか分からないが、毎年2月2日はお互いのために花を買う日にしようということになった。あの日のことを忘れないように、そしてこれからも素敵な毎日を過ごせるように。

 花屋の前で妻にチューリップの花束を渡す。おれは心の中でつぶやいた。


「おれと、結婚してくませんか」



ーーおわりーー


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ぢぇぃ
100円→今日のコーヒーを買う。 500円→1時間仕事を休んで何か書く。 1,000円→もの書きへの転職をマジで考える。