伸びない原因を正しく理解する
英語の指導をしていて一番ヤキモキするのが「リスニングのスコアが伸びない」という課題です。
これは繰り返し述べていることなのだけど、リスニング力は運動能力と近しいものである。
これに関して、神経学の権威であるSteven L. Smallも、音声の認識と運動に関連する脳領域が相互作用する可能性が示している。
音声情報に対してどう身体が反応するかは、勉強を積み重ねたからどうにかなるものではなく、学習した内容を自分事化して感覚の一部として昇華しなくてはいけない。
にもかかわらず、ブログやYoutubeで「リスニングの勉強法」と調べてみると…、
海外ドラマを一気見しまくる!
とりあえず留学して英語環境に浸る!
シャドーイングを1日3時間!
発音記号は意味がない!
といった、自分の一次体験を根拠とした学習方法があたかも "正解" のように書かれている。
確かにこれらの勉強で課題を解決する人はいるっちゃいる。しかし、彼らは総じて運動のセンスがある人たちだ。
センスがいい人は一つの情報から "何となく・感覚的に" そのエッセンスを理解し、自分の身体にフィットさせてそれを再現することができる。
これが無意識にできてしまうから頭があがらない。
無意識にできてるから、ひたすらに勉強していたらいつのまにか "英語の人" になっている。
ふと自分の学習体験を言語化してみた時に、先ほどあげたような勉強方法があたかも「正解だ!」と結論付けてしまうのではないかと思う。
しかし、これらの勉強方法はあくまで運動のセンスがある人たちの考え。
運動センスがほぼない私たち一般人にとっては実はあまり効果がないことが多いのだ。
私は英語と日本語が話せるので言語のセンスが良いと思われがちだが、全くもってセンスがない。
中国語を学ぶために台湾に住んでいた時は、中国語の習得に非常に苦労した。
中国語は同じ音でもイントネーションが4通りあり、イントネーションによってその意味が全く変わる「拼音(ピンイン)」という特徴がある。
例えば、同じ「マー」という音でも語尾をあげれば「麻」という意味になり、語尾を下げれば「罵る」というような意味になります。
これが非常に難しい。
自分一人ではどうにもならないので、毎日マンツーマンで台湾人の先生に指導してもらって何とかこの問題を解決できた。(つもり)
感覚的に理解できない人は、とことん文字(論理)で理解することが大切だ。
頭で理解して初めて「身体をどう動かすか?」という問いに集中できる。これらを同時にはできない。
もう一つ大切なのが軌道修正してくれるフィードバック。
自分では「できている!」と思っていることも、客観的にみると全く違うということはよくある話だ。
繰り返し何度もフォームを修正することで、本当に少しずつ正しい再現ができるようになってくる。
運動だったら当たり前なこのような考え方は、「英語=勉強」と捉えていると意外と忘れがちである。
昔、リスニングの学習方法に関して記事を書いていた時に、こんな分析チャートを作っていたらしい:
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何か課題に直面した時は、その原因をブレイクダウンして "ボトルネック(本質的な課題)" を解決することが最も重要である。
「リスニングが伸びない!」と感じている人は、根本の課題を正しく認識できていない場合が多い。
この図は課題を認識する上で少しは役に立ちそうだと感じた。
ただ、やはり数年前に作ったものなので少し修正を加えたいと思う。大きく分けて原因は、
基礎力(原因A+原因B)
認識の癖(原因C)
発音(原因D)
大局を掴む力(原因E)
の4つに再分類できるというのが今の考えだ。
基礎力は語彙・文法・発音といった言語の基盤となる能力。これが低い場合、いくら量をこなしても一向に問題は解決しない。
いつも自動翻訳やChat GPTに頼って英文を理解し直す癖がついている人は要注意だ。
特にテストとなると最後は地頭の筋力である。補助付きのトレーニングばかりでは、自分一人で問題解決する力は一向に育まれない。
認識の癖は英文和訳が癖になっている人が陥りやすい。
ここに問題がある人は、英語を後ろから訳して "綺麗な日本語" に翻訳し直して理解する。
リーディングに関して言えばこの読み方で問題ないが、リスニングになると情報量とスピードに翻訳が追いつかなくなる。
英語と日本語の言語性質が180度違うことを理解し、英語の語順で理解することが大切なのだ。
発音は音声知覚に関する能力。
再現が上手くなれば細かい音声に対しても敏感になるし、英語のリズムから次の内容が推測しやすくなる。
発音と聞くとフォニックス(個々の発音記号)をイメージするかもしれないが、あまりDetailに捉われすぎない方が良いと思う。
英語はフレーズの中でリズムやイントネーションが決まってくるので、個々の音よりも全体の音の流れを再現することに意識を向けた方が現実世界で応用が効く。
例えば "assure" の発音を学ぶとして、
[ əʃˈʊɚ ]
Let me assure you [ lə(t)mi(;)əʃˈʊɚjʊ ]
こんな感じでその単語が含まれるフレーズやセンテンスが、そのセンテンスの中でどのように発話されるかを分解してみると良い。
英語は「続く音に前の音が飲み込まれやすい」という性質があるので、どこに消失が起こるか、音が変化するかなどにより敏感に反応できる。
変化しやすい性質をそのまま受け入れて解釈する癖をつけると柔軟性が身に付く。
最後に大局を掴む力。これは文章の中の要点とその要点がどのようにサポートされているかを判断できる力のこと。
英語の文章(音声情報も)は基本的に抽象的なアイデア・主張を述べたら、具体例的な事例や引用でその内容を繰り返し述べ直すという主張構成をしている。
このルールを無視して音声情報を聞き取ろうとすると、情報量が多すぎて強弱のメリハリがつきにくくなり、結局何が言いたいのか分からないということが起こる。
これを避けるためにはメモを取ること、または議事録を書いてみることが効果的だ。
メモ取りが上手い人は無駄な情報は省き、必要な情報とその情報の説得材料をシンプルにまとめることができる。
テストでは基本的に要点または要点をサポートするエビデンスのいずれかが設問になる。
メモ取りの精度が高くなれば、必要な情報とそうでない情報のメリハリをつけることができるようになり自然と点数に結びつく情報が頭に残りやすくなる。
リスニングの学習というと「ひたすら模試を解く」や「毎日Tedを聞く」という手段をよく目にするが、それらはあくまで成功者の一次体験である。
何事も自分にとっての最適解を見つけることが課題解決の糸口になることを忘れてはいけない。
これは学習者としてもそうだし、指導者としても常に意識しなくてはいけない観点だと思う。