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聖と俗が入り乱れる道頓堀六地蔵尊巡り
2010年に「道頓堀六地蔵尊巡り」がおこなわれました
千日前に上方ビルというビルがありまして、そこにはかつて、鳥居ホールという小劇場がありました。若手芸人の研鑽の場として機能したホールです。そちらのオーナーである鳥居学さんは真言宗の僧侶でもあり、鳥居ホールは現在では「弘昌寺」というお寺に生まれ変わっています。
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仏教に厚く帰依されており、護摩行をよくされている方でした。
そんな鳥居さんを中心に、2010年にミナミで「道頓堀六地蔵尊巡り」がおこなわれました。
山伏さんとお坊さん15人くらいがミナミを練り歩いたんです。翌年以降、どんどん規模が大きくなって、全国から100人ほどが集まるようになったそうです。ちなみに、2010年のときは、護摩焚きはまだおこなわれていませんでいた。
地図にあるように、以下のお地蔵さんを巡るんです。じつは、お地蔵さんじゃない仏さんもいるのですが、そこはルート上にあるということで、お参りします。
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南乃福寿弁財天
法善寺の水掛不動尊
道頓堀出世地蔵尊
高津十番町地蔵尊
光明地蔵尊
榎地蔵尊
身代矢受地蔵尊
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落語家さんたちが建立した南乃福寿弁財天
南乃福寿弁財天は、平成18年に米朝さんをはじめとする落語家たちが建立した、比較的新しい祠。弁財天さんは言うまでもなく芸能の神さん。
法善寺の水掛不動尊は、そーいえば西を向いているけれども、あれは日想観? 北か西を向くのが、お地蔵さんだと、北向地蔵尊のところでお話しました。梅田の北向地蔵尊が特別なのではなく、お地蔵さんは、自らへりくだって、西や北を向いているケースが多いです。
むかしの九郎右衛門町に鎮座する道頓堀出世地蔵尊は、かつての花街を彩った芸妓さんや俳優さんが出世を祈願したお地蔵さん。
身代矢受地蔵尊の隣には、なつかしの精華小学校。
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俗世のなかに聖があるまち
道頓堀から千日前にかけての祠という祠に立ち寄ります。
歩いても5km足らずの距離なのですが、真夏の炎天下に経を唱えながら法螺貝を吹きながらの巡礼はなかなかの体力仕事で、同行して写真を撮っているだけでも汗だくになりました。
六地蔵尊巡りと言いながら、6ヶ所以上、立ち寄ります。どの仏さんも、ビルの谷間にひっそりと佇んではるお方ばっかりで、どうかすると、見逃しそうなほどです。
ちなみに大正時代や江戸時代の古地図を広げてみても、このお方たちは出てこない。法善寺の水掛不動尊はともかく、ほとんどは、ひっそりと息を殺し、周囲になじんでいる。地図の裏側で、人知れず、僕たちのために祈っておられる。
道中、歓楽街や風俗街は通るわ、ラブホ街は通るわ、露出度の高い若いおねーちゃんとすれ違うわ、アビーロードみたいに横断歩道を並んで渡るわで、パッと見はコスプレ軍団です。
風俗店の看板とツーショットの行者さんたちは、聖と俗がないまぜになったカオスな世界をつくり出しています。無論、聖にも俗にも、神や仏がたっぷりと宿ります。
森羅万象、衆生の一切のなかで、不乱に言霊を放ち、法螺貝の音色に悪魔折伏の威力を授かります。
ええやないですか。
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人々の祈りがあり、物語が紡がれている
ビルの谷間に埋もれそうになっているとは言え、たくさんの祠が点在しているということは、この道頓堀六地蔵尊巡りのような、その祠を取り巻く祭礼があり、人々の祈りがあり、物語が紡がれているということに他なりません。
土地と人とがお互いに有機的に結びついていることの証なんやと思います。有機的な結びつきが強く、取り替えがきかないもの、動かし難いものを、僕たちは「文化」と呼ぶんじゃないでしょうか。
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