弁護士の僕ならこうやって遺産相続を進めます-10(値段がつかない不動産)
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このブログでは、弁護士である僕が、もし仮に自分が紛争・トラブルの「当事者」となった場合に、「自分だったこうするだろうな」ということをお伝えしてしています。
僕自身、これまでの人生で大きな紛争・トラブルの当事者となったことがなく、今この瞬間、紛争・トラブルに直面されている方の苦しみや不安を代弁できるような立場にはないのかもしれません。
ただ、自分が紛争の当事者となった際の対処法を弁護士目線でお伝えできれば、それが、ご覧になった皆様のお役に立てるかもしれないと考えています。
あくまで、「僕だったらこうするだろうな」ということですから、ご覧になっている方々に必ずしも当てはまらないとは思いますが、僕のやり方をヒントに、自分なりに応用していただけたら、とても嬉しいです。
ご覧になっている皆様のお顔も名前も残念ながら知ることができませんが、アクセスしてくださり、ありがとうございます。本当に励みになっています。
【 今日のトピック:遺産相続 】
さて、今日で10日目ですが、引き続き、遺産相続についてお話していきます。
かなり長丁場になっていますが、書こうと思えば、遺産相続だけで本が何十冊も書けてしまうくらいなので、そもそも、ブログだけで全部終わらせようとするのは無謀なんですが、とはいえ、なるべく分かりやすく書こうと思うと、これくらいの分量は必要になってしまいます。
すみません。
さて、昨日までの3日間にわたり、不動産を売って分けることについて書きました。
僕だったら、遺産に不動産が含まれている場合は、「売ってお金に変えて分けます!」ということを前提に、売り方についていろいろとお話してきました。
昨日は、最終的に、「売って分ける」を強制的に実現する手段はない、ということをお話しました。腰砕け感が否めませんが、残念ながら、そうなっています。
さて、今日は、「僕の父が亡くなった」という話に戻ります。
僕の父の遺産は、
・自宅土地建物
・農地10筆
・預金500万円
という設定でした。
そして、この不動産は、「価値がない」という設定でした。
どれくらい「価値がない」か、ここでちょっと補足して設定を決めておきましょう。そうですね、「値段がつかない」としておきましょうか。
つまり、自宅土地建物も、農地も、値段をつけて買おうとする人は、誰もいない。そういった不動産しか、遺産に含まれていない、と設定します。
「そんなことあるのかよ」と思われるかもしれませんが、全然あり得ます。
「土地に値段がつかない」というのは、田舎では当たり前です。「値段」というのは、お金を欲しがる人がいるからこそ、つけられるわけで、欲しがる人が誰もいないのであれば、値段はつきません。
さて、そうすると、「不動産を売ってお金に変えて分ける」という方法は、とれません。買ってくれる人がいないからです。
こんな場合、僕ならどうするかというと、自分で貰っちゃうと思います。
これまで、散々、「所有権は嫌い」と豪語してきたにもかかわらず、「不動産貰っちゃう」というのは、辻褄が合わないような気がします。
しかし、僕としては、不動産を相続人同士で押し付け合っても、紛争が終わらないので、押し付け合って仲違いするくらいなら、自分で貰っちゃうと思います。
誰も欲しがらない不動産を貰うと、僕が死んだときに、子どもたちに迷惑をかけてしまうでしょうが、まあ、仕方ありません。
僕が貰わず、押し付け合った結果、誰かが貰ってくれればいいですが、そうならない場合、相続人同士で共有名義となるのが関の山です。
昨日、遺産分割の話し合いがまとまらない場合、「遺産分割調停」を提起して、話し合いの場を裁判所に移し、それでも折り合いがつかなければ、「審判」に移行するということを書きました。
審判では、↓の順番で、裁判所が遺産の分け方を決める、ということも書きました。
・現物分割(現物を物理的に分ける)
・代償分割(相続人の誰かが単独で貰って、他の相続人に代償金を払う)
・換価分割(売却してお金に変えて分ける)
ただ、今回の設定では、自宅土地建物を、物理的に分けることはできませんし、農地も、物理的に分けてしまうと、土地が狭くなってしまい、効率的な農業が営めなくなるので、あまりよろしくありません。
代償金を支払おうにも、そもそも誰も欲しがっていないので、誰かに取得させるわけにはいかないですし、売ろうにも買い手がつかない。
そうなると、最終手段として、「共有」という方法がとられます。
そもそも、遺産分割という手続が何のために存在するかというと、亡くなった人の遺産は、亡くなった瞬間から、相続人同士で共有した状態になるので、その共有状態を解消するために、遺産分割をやるんです。
共有状態を解消するために遺産分割するのに、遺産分割した結果、「共有」のまま、というのは、「やる意味ねーじゃん」という話なので、極力、裁判所も回避しようとします。
(なお、正確には、遺産分割前の「共有」は「遺産共有」と呼ばれ、遺産分割後の「共有(民法上の共有)」とは区別されるのですが、そんな観念論を言っても仕方ありません。「共有」状態が解消されていないのは同じですから)
とはいえ、誰も欲しがらない不動産が存在してしまうと、その不動産は、本当にどうしようもなくって、裁判所も降参して、「じゃ、共有のままで・・・」と判断しかねません。
そうすると、結局、いらない土地が「共有」として、自分に降りかかってしまいます。
そんな「共有」状態の、誰も欲しがらない不動産なんて、もう絶対にいらないので、そんなものが降りかかってくるくらいなら、せめて、「単独所有」にしてほしい、と僕なら思います。
だから、誰も欲しがらない不動産(値段がつかない不動産)があるのなら、「じゃあ、僕が貰うよ」と言って、僕が貰うと思います。
ただ、そういった「不利益」を引き受けてしまうと、どうしても、ムクムクと「だったら利益もちょうだいよ」といういやらしい気持ちが出てきます。
人間って愚かですが、僕も、ぜったいにそう思うでしょう。悟りなんて一切開いていない、俗世に染まった人間なので。
こんな誰もいらない不動産を引き受けて「あげた」んだから、当然、預金も「全部」貰うからね!
いやー、愚かです。自分が恥ずかしいです。でも、仕方ありません。人間だもの。
ここで、ぐっと冷静になれるかどうかが、勝負だと思います。こんなこと言ったら、ぜったいに、他の相続人と対立します。
冷静に考えると、どうするべきなのでしょうか。
たぶん、「不動産を貰ってあげる」と、先に言わないことです。不動産を自分で貰うかどうかを不確定にしたまま、「不動産を貰う」ことのデメリットを、他の相続人に根回しします。
「この不動産、値段がつかないみたいよ」
「ということは、不動産を貰ったら、固定資産税はかかるは、管理も必要になるわ、デメリットばかりだよね」
「そんな不動産を貰うことになった人には、それなりに得させてあげることが必要だよね」
こういった感じで、不動産を貰う人が誰なのか不確定なまま、不動産を貰った場合のことを話し合っておく。
そうすると、いざ、不動産を貰う人を決める際に、不動産を貰う人が、不動産を貰うだけで得がないという状態を回避できると思います。
まあ、僕だったら、預金500万円を丸々貰うだけで、不動産を全部引き受けてくれる相続人が他にいたら、ぜひ、その人に全部貰ってほしいと思います。
誰も欲しがらない不動産を貰うことのデメリットを考えたら、500万円ぽっちの預金に僕は興味ありません。
これから課税される固定資産税、建物が劣化してきた後の管理の負担、ご近所との付き合いなど、不動産を所有することのリスクは枚挙にいとまがありません。
貰ってくれたら、それだけで万々歳です。
そんなありがたい相続人が他にいなかったら、本当にやむを得ず、僕が貰います。その際、「あんたは不動産貰ったんだから預金はいらないよね!」なんて後から言われないように、最初から、「不動産を貰う人には得が必要だよね」という風に根回しをしておくわけです。
今日は、値段がつかない不動産の遺産分割について書いてみました。
今回の設定では、預金が500万円と、それなりにあったので、「不動産を貰う人には預金もあげる」という話ができましたが、預金が1000円しかない、となると、本当に困ってしまいます。
その場合、「不動産を貰う人には預金もあげる」という手法は使えないので、僕だったら、相続放棄しちゃうかもしれません。
相続放棄しない相続人がいれば、その人が不動産を相続して、管理責任を負うので、僕は管理責任から解放されます。
しかし、相続人全員が相続放棄すると、相続財産管理人が選任されるまで、管理責任が残ってしまいます。
それは大変なので、僕だったら、相続財産管理人の選任を申し立てます。申し立てると、相続財産管理人となる弁護士の報酬として、最低20万円くらいは必要になりますが、それを支払えば、遺産が国の所有物になるので、管理責任から解放されます。
建物の解体費用なんかも必要になるかもしれませんが、仕方ありません。
建物が老朽化して、近所の誰かをケガさせてしまったら、大きなトラブルになりかねません。そういったトラブルを避けることができるなら、安いもんです。
このように考えると、誰も欲しがらない不動産を遺産として残す予定の人は、くれぐれも、それなりに預金を残しておいてほしいですね(笑)。
今日はこれくらいにします。
それではまた明日!・・・↓
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