#458 お金がない人からお金を回収する:強制執行,詐害行為取消権
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【 今日のトピック:お金のない人からお金を回収する 】
さて,今日はお金を回収する方法について,ざっとお話したいと思います。
そもそも,お金を「回収する」の意味から説明しましょう。
「回収」という言葉は,普段,「書類を回収する」とか「アンケートを回収します~」とか,そういう風に使いますよね。
「返してもらう」という意味で,「回収する」は使います。
これをお金に当てはめると,「お金を回収する」は,「お金を返してもらう」という意味になります。
「お金を返してもらう」とは,現金を受け取るなり,預金口座に振り込んでもらったりして,「自分自身の支配下に置く」ことまでを指します。
いくら現金を目の前で見せびらかされても,それを自分の支配下に置いていなければ(そのお金を自分が自由に使えなければ),「回収した」ことにはなりません。
さて,じゃあ,「お金を回収する」って,どうやればいいのでしょうか。
いちばん手っ取り早いのは,相手が現金を持ってきて渡してくれるとか,預金口座に振り込んでもらうという方法です。
お金を貸している場面を想定しましょう。100万円を1か月前に友だちに貸して,その返済期限が今日だとします。
この100万円を「回収する」うえで,最も手っ取り早いのは,貸した友だちが,現金を持ってきてくれるとか,預金口座に振り込んでくれたりして,自発的に返済してくれることです。
そうなれば,そもそも「回収」なんて考えなくていいですよね(笑)。
紛争になるのは,貸した友だちが自発的に払ってくれないケースです。
その場合,どうしたらいいのでしょうか。
1つめに考えられるのは,裁判を起こして,判決をもらって,強制執行することです。
「強制執行」とは,貸した友だちの財産を,その友だちに無断で売却してお金に変えて,そのお金から返済を受けることを意味します。
友だちの財産を,友だちに無断でお金に変えることができるなんて,めちゃくちゃ素晴らしいシステムなのですが,強制執行をするためには,「債務名義(さいむめいぎ)」といって,強制執行ができることを公的に示した書類が必要です。
「債務名義」とは,判決書など,お金を支払ってもらえる権利があることを,公的に証明している書類を指します。
この「債務名義」がなければ,強制執行はできません。だから,自発的に払ってくれない相手の財産から強制執行によってお金を回収するには,判決書などを取得する必要があり,そのためには,裁判を提起するしかありません。
借用書があっても,それだけでは強制執行はできないのです。
借用書が,公証役場で作成された公正証書であり,なおかつ,その公正証書に「強制執行に服する(=強制執行されても構いません)」と書かれていれば,その公正証書に基づいて強制執行も可能ですが,そうでない限り,どれだけキレイな契約書なり借用書なりがあっても,裁判をしなければ,強制執行のステップには進めません。
ただ,強制執行によって売却できるのは,その友だちの財産に限られます。当たり前ですが,
判決で支払いを命じる相手はその友だち「だけ」なので,友だち以外の誰かの財産に対して強制執行することはできません。
強制執行できるのは,判決書の「被告」の欄に書かれた人の財産だけなのです。
↑の友だちに対して裁判を提起する場合は,友だちの住所と名前を「被告」の欄に書くので,その結果,友だちの財産「だけ」が,強制執行の対象となります。
じゃあ,友だちに財産がなかったらどうすればいいのでしょうか。
強制執行しようにも,友だちに,めぼしい預金も,不動産も,株もなければ,どうしようもありません。
友だちも,どこかで働いて給料を貰っているでしょうから,その給料に対して強制執行することはできますが,強制執行できるのは,給料の4分の1だけです。
勤務先や財産の在り処は,「財産開示」という手続きが最近強化されたので,詳しく調査できるようにはなりましたが,詳しく調査した結果,「ない!」ということが判明すれば,もはやどうしようもありません。
その結果,泣き寝入りするしかないケースもかなりあるのが正直なところなのですが,ひとつの希望として,「詐害行為取消」というものがあります。
めちゃくちゃ難しい言葉が出てきましたが,これは,その名の通り,「詐害行為」を「取り消す」ことです。
いやいや,これだけでも意味わかりませんよね(笑)。
「詐害行為」から説明しますが,これは,自分の債権者に損をさせる行為を示します。「債権者」とは,↑の友だちから見た僕を指します。
僕は,友だちに100万円を貸しているので,友だちにとっては「債権者」です。
もし仮に,友だちが現状無一文だとしても,その無一文になった理由が,現金100万円を彼女にあげたせいだとしたらどうでしょうか。
彼女に対して,全財産の100万円を預金口座から引き出して,あげていた(贈与していた)としましょう。そのせいで,無一文になってしまい,強制執行しても意味がない状態を,友だち自身が作り出している場合に,「詐害行為取消」が登場します。
彼女に現金100万円をあげたこと(贈与したこと)が,「詐害行為」に該当し,この贈与を取り消すことが「詐害行為取消」です。
「取り消す」ということは,贈与がなかったことにする,ということです。
(ちょっと専門的な話:民法改正前は,「なかったことになる」のは,僕と彼女との間だけだったのですが,民法改正後は,友だちとの関係でも,100万円の贈与がなかったことになります)
「贈与がなかったことになる」ということは,彼女に贈与した100万円が,友だちの手元に戻ることになりそうですが,実はそうではなく,100万円を僕の手元に戻すことが認められています。
そして,その100万円を自分のモノにしていいことになっています。
この「詐害行為取消」ができる場合であれば,お金がない人からもお金を回収することができます。
しかし,「詐害行為」があったかどうかなんて,普通はわかりませんよね。
貸した友だちに現状お金がないとして,その「お金がない」という現状がどうやって出来上がったのかなんて,僕は知りようがありません。
例えば,土地や建物などを贈与して,その名義を変更しているのであれば,不動産登記を見て,贈与があったかどうかを確かめることはできます。
でも,現金を贈与したかどうかなんて,知りようがないのが普通です。
お金がない理由なんて,普通は生活費に使ったり,遊びに使ったりすることが理由ですから,こんな場合に「詐害行為取消」は登場しません。
詐害行為取消が使える場面は,かなり限定されていると言わざるを得ないと思います。
【 まとめ 】
今日は,お金がない人からお金を回収する手段として,「詐害行為取消」について説明してみました。
詐害行為取消は,お金を貸した相手以外の財産からお金を回収することができるので,めちゃくちゃに魅力的なんですが,ただ,その魅力を発揮できる場面は,かなり限られていいます。
「詐害行為取消」に安易に期待するべきではないと思いますが,貸した相手が無一文になってしまった理由に関して,何か思い当たるフシがある場合は,弁護士に相談されてみてください。
それではまた明日!・・・↓
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