
#498 弁護士が損害賠償を請求されて負けたケース
【 自己紹介 】
※いつも読んでくださっている方は【今日のトピック】まで読み飛ばしてください。
弁護士古田博大の個人ブログ(毎日ブログ)へようこそ。プロフィールページはこちら
このブログでは,法的な紛争・問題を抱えた皆様のお役に立つ情報を,弁護士目線でお伝えしています。スラスラと読み進められるよう,わかりやすくシンプルな内容でお届けしております。肩の力を抜いてご覧くださると嬉しいです。
あらゆる法的問題を網羅することは難しいですが,日々の弁護士業務を通じて,「これは多くの方に知ってもらったほうがいいな」と感じたポイントを,ギュッとまとめてご紹介しています。
ご覧になっている皆様のお顔も名前も残念ながら知ることができませんが,アクセスしてくださり,ありがとうございます。本当に励みになっています。
【 今日のトピック:弁護士が損害請求されて負けたケース 】
弁護士は,「責任ある」職業ということは,多くの方に共感してもらえると思います。
確かに,「責任を負っている」のは間違いないのですが,弁護士の仕事に限らず,すべての仕事に「責任」は伴います。
だから,責任があるだけで,他の仕事と区別できるようなものではないと思います。
弁護士以外の仕事でも,大きな責任を負っていますし,その責任は果たさないでいると,損害賠償を請求されかねません。
例えば,建築業者であれば,建築基準法などの法律に適合し,なおかつ,契約に沿って建物を建築する責任を負っていて,その責任を果たさなければ,損害賠償を請求されてしまいます。
だから,弁護士が「責任ある」職業というよりは,弁護士も,他の職業と同じように責任を負っている,という風に考えるべきでしょう。
ただ,弁護士が,仕事上の責任を果たさず,その結果,損害賠償の請求を受け,なおかつ,損害賠償を請求するための裁判が提起され,判決が出て敗訴した,というのは,かなりレアなケースだと思います。
かなり「レア」とはいえ,それなりの数はあるのですが(代表的な例は,管理している他人の財産を横領するものです。),今日は,弁護士が「特別代理人」として,遺産分割協議に参加したケースで,損害賠償請求を受けたケースについてお話します。
まずは,「特別代理人」について説明しますが,そもそも,未成年が契約したりする際は,親権者の同意が必要です。
「遺産分割」とは,亡くなった人の財産を生きている人に配分する手続ですが,この「遺産分割」も,未成年が当事者であれば,親権者が同意しなきゃいけません。
ただ,遺産分割の場合,同意する親権者も,遺産分割の当事者であることがあります。
例えば,父が亡くなり,その妻(母)と未成年の子どもが相続人となった場合,未成年の子どもと,その親権者である母も,相続人となります。
そうすると,何が起きるかというと,母と子どもの利害が反してしまうのです。
亡くなった父の財産には限りがあります。その限られた財産を,妻と子ども2人で分け合うわけですから,誰か1人の取り分が減れば,他の人の取り分が増えます(同じパイを取り合う関係です)。
だから,妻としては,子どもの取り分を減らすことで,自分の取り分を増やすことができるのです。
このような,利害が反する場合は,通常通り,親権者に「同意」させてはいけないのです。
親権者とは別に,「同意」してくれる存在が必要で,その存在が「特別代理人」です。
↑の遺産分割で言えば,「特別代理人」が,親権者である母に代わって,子どもの代理人として遺産分割に参加し,子どもの利益のために遺産分割手続を進めることになります。
この「特別代理人」に,弁護士が選任されることも多いです(「特別代理人」は,家庭裁判所が選任します。)。
ここからが今日の本題ですが,「特別代理人」に選任された弁護士が,損害賠償を請求され,訴訟まで提起され,敗訴し,約1000万円の支払いを命じられてしまったのです。
事案は,遺産分割でした。親権者である父が亡くなり,3兄弟で遺産を分けることになったのですが,その末っ子がまだ未成年でした。
そこで,末っ子に特別代理人が選任されました。その特別代理人が弁護士だったのですが,この弁護士が職務を怠ってしまいました。
この遺産分割では,二男が遺産をたくさん貰う(約9割),末っ子が少しだけもらう(約2%),長男も少しだけ貰う(約8%),という内容が書かれていたのですが,その遺産分割に,特別代理人は署名押印してしまいました。
まあ,こんなわかりやすく書かれていたのではなく,二男が「それ以外の遺産すべて」貰う,と書かれていたのです。
この「それ以外の遺産」がめちゃくちゃ高額だったのです。不動産の売却代金約8000万円が,この「それ以外の遺産」に含まれていて,これを丸々二男が貰い受けてしまい,末っ子は少ししか遺産が貰えませんでした。
そもそも,弁護士は,遺産分割を進めるにあたって,まず,遺産の総額を調べます。
なぜなら,遺産の総額がわからなければ,どれくらいの遺産を貰えるのか判断できないからです。
↑の弁護士は,遺産の総額を調べるのを怠り,「その他の遺産」に,これほど高額の遺産が隠されているとはつゆ知らず,遺産分割を済ませてしまいました。
これだけ書くと,「ダメな弁護士」と切り捨てるだけになってしまいそうですが,「特別代理人」って,弁護士がいつもやっている普通の代理人とはかなり違います。
この事案でも,特別代理人の選任を裁判所に申し立てる際に,遺産分割協議書の案が提出されていて,その遺産分割協議書の遺産分割を進める目的で,特別代理人が選任されていました。
既に遺産分割協議書が作成されている段階で,それを覆す判断をするのは,結構ハードルが高いと思います。
↑の判例を前提にすると,弁護士は,遺産分割の特別代理人に選任されたら,遺産の総額を必ず調査しなければいけないことになります。
特別代理人ではなく,遺産分割の依頼を受けるのであれば,どれくらいの報酬を見込めるのか,事前に依頼者との間で約束しておくことができますが,特別代理人は,家庭裁判所が選任するので,どれくらいの報酬を貰えるのか,予測できません。
特別代理人の報酬は裁判所が決めるので,裁判所が決めてくれるまで,いくら貰えるのかわからないのです。
その状態で,遺産の総額を調べ上げなければならないというのは,弁護士にとって,なかなかキビシイ判断だと思います。
裁判官は,あんまり知らないでしょうが,遺産を調べ上げるって,それなりに労力がかかるんです。
不動産を調べたり,預金を調べたりと,書くのは簡単ですが,不動産がどこにあるのかわからないし,預金も,どこの銀行にあるかわかりません。
ある程度目星をつけないと,遺産の総額って調べられないのです。
まあ,↑の裁判例では,一切遺産を調査しなかったことが怠慢だと認められているので,きちんと調査を尽くしていれば,損害賠償を支払わずに済むのでしょうけど,とはいえ,↑のような裁判例があること自体が,僕ら弁護士にとってはかなりの恐怖です。
正直なところ,遺産を調べようと思ったら,永遠に調べられます。
日本全国,はたまた世界中の銀行に,預金口座があるかどうか調べることもできるわけですからね。
そこまでしなくていいのでしょうけど,じゃあ,「どこまでやればいいの?」というのはかなり難しい問題です。
「ある程度の目星をつけて,それなりに調査していればOK」なのですが,その線引は難しいです。
【 まとめ 】
弁護士も,ご多分に漏れず,他の仕事と同じように責任ある仕事です。
それは仕事なので仕方ないですし,むしろ,責任のない仕事なんて楽しくないと思います。
しかし,↑の遺産分割の事案を見ると,結論としては納得できますが,「じゃあ,どこまでやればいいの?」という問題には直面します。
どれくらいの報酬を貰えるのか不明な状態で,必要な調査を尽くさなきゃいけないのは,結構無理がある話だと思いますが,まあ,裁判所が言うなら調査しなきゃいけませんね。
裁判所には,「報酬が不明な状態で調査をさせられる」という弁護士の苦しみを少しは理解してほしいな,という愚痴でした。
それではまた明日!・・・↓
*:;;;:*:;;;:**:;;;:*:;;;:**:;;;:*:;;;:**:;;;:*:;;;:**:;;;:*:;;;:**:;;;:*:;;;:**:;;;:*:;;;:*
TwitterとFacebookでも情報発信しています。フォローしてくださると嬉しいです。
昨日のブログはこちら↓
ブログの方針を転換したきっかけについてはこちら
僕に興味を持っていただいた方はこちらからいろいろとご覧ください。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
※内容に共感いただけたら,記事のシェアをお願いします。
毎日記事を更新しています。フォローの上,毎日ご覧くださると嬉しいです。
※心身への負担を考慮し、「書き始めてから1時間くらいでアップする」という制限時間を設けています。
いいなと思ったら応援しよう!
