#478 少年事件の「審判」
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【 今日のトピック:少年事件 】
今日も,昨日に引き続き,少年事件について書いていきます。
昨日は,ざっと,少年事件の流れについて説明しました。
「少年事件」とは,典型的には,犯罪の被疑者が20歳未満のケースを指します。
厳密には少し違うのですが(13歳以下の少年であれば,法律上「犯罪」が成立しないので,その場合は「犯罪の被疑者」ではなく,法に触れた少年(=触法少年)と呼ばれ,この場合も「少年事件」に含まれます。また,法に触れていないけれども,法に触れる危険性がある少年を「虞犯少年(ぐはんしょうねん)」と呼ぶのですが,これも「少年事件」に含まれます。),まあ,「犯罪者が20歳以下」の場合を「少年事件」と呼ぶ,と考えてもらえればいいと思います。
僕もまだ,「触法少年」「虞犯少年」の経験がないので,少年事件のうち,かなりの割合を「犯罪少年(犯罪の被疑者が14歳以上20歳未満)」が占めていると勝手に思っています。
さて,ここまで,「少年事件」の分類とか,流れについていろいろと説明してきましたが,いちばん大切なのって,多分,そういうことではなくって,少年事件の「結論」,つまり,「最終的に少年に対して下される処分」が,どうやって決められているのか,ということです。
昨日のブログを見てもらうとわかりますが,逮捕・勾留された少年は,「家庭裁判所へ送致」されます。
まあ,「送致」って難しい言葉が使われていますが,「警察車両で連れて行かれる」ということです。
送致されたら,裁判官が,「鑑別所送り」または「釈放」を決めます。
「鑑別所送り」になると,警察車両で鑑別所に連れて行かれ,約4週間,鑑別所に閉じ込められます。
「釈放」となれば,家庭裁判所から自宅まで,自分で帰ることになります。
(まあ,多くの場合,「釈放」する際は,両親などの身元引受人が必要となるので,身元引受人が裁判所まで迎えに来て,身元引受人と一緒に帰ります。)
少年事件は,「鑑別所送り」・「釈放」で終わりではありません。その先があります。
その先の「審判」で終わりです。
「審判」って何かというと,その少年の「処分」を決める手続きなのですが,↑に書いた「家庭裁判所へ送致」されてから,約1か月後に,家庭裁判所で開かれます。
「審判」の場には,少年本人と,裁判官,そして,少年の身元引受人(両親など),付添人(=弁護士),家庭裁判所の調査官,裁判所書記官,合計7人くらいが集合します。
「書記官」は,裁判所の職員で,記録を管理する役割です。「記録」というのは,証拠や弁護士が提出した書面などです。
「書記官」は,記録を管理しているだけで,少年の処遇を決める権限はありません。
少年の処遇を最終的に決めるのは,もちろん裁判官なのですが,裁判官が結論を出すのに先立って,いろいろと裁判官に判断資料を与える役割を果たすのが,「家庭裁判所の調査官」と「付添人(=弁護士)」です。
家庭裁判所の調査官は,その名の通り,「調査」する職員なのですが,法律の専門家ではなく,心理学、社会学、社会福祉学、教育学などの専門家で,こういった観点から,少年を調査して,その調査結果を裁判官に報告し,裁判官の判断資料を提供します。
↓のホームページに,めちゃくちゃわかりやすく書かれているので,ご参照ください。
「調査」って,何をするかというと,少年が非行に至った動機,原因,生育歴,性格,生活環境などを調査するんです。そして,必要に応じ少年の資質や性格傾向を把握するために心理テストを実施したりもします。
「生育歴」は,母子手帳から調べることも多いです。それと,「家庭環境」の調査もめちゃくちゃ大切です。
そして,現在の「生活環境」も入念に調査します。どういった環境(生活場所,家族,食事など)で,どんな生活を送っているのか(1日のタイムスケジュールなど)を調べます。
こういう「調査」を,少年の処遇を決める目的で実施します。
過去→現在→未来,という視点で,少年を観察し,調査します。
この調査は,結構な手間がかかります。お金もかかります。少年を鑑別所に閉じ込めるのであれば,そもそもの鑑別所建設費用から必要ですし,少年の食事を用意したり,少年の調査するために精神科医を常駐させたり,鑑別所管理のために職員を常駐させたりと,お金がめちゃくちゃかかります。もちろん,その原資は税金です。
調査を目的とした調査官の給料も,税金から支払われています。
どうして,こんなに少年の処遇を決めるために,多額の税金を使うのでしょう。
それは,昨日も説明したように,少年には「可塑性(かそせい)」があるから,つまり,「やり直しがきく」からです。
少年は,やり直しがきくからこそ,多額の税金をつぎ込んで,少年の処分を決めるための資料を集めまくるのです。
刑罰を与えるよりも,少年の「可塑性」に掛けて,少年の更生を図る。このほうが,社会にとってプラスになるはずだ,と少年法で考えられているのです。
そうすると,最終的な処分を決める際も,この「可塑性」が最も重視されます。
20歳未満だからこそ,「やり直し」はきくのだろうけど,その「やり直し」を,どうやって実現するのか。それが,「少年院送致」と「保護観察」を左右します。
「審判」で最終的に下される処分は,「少年院送致」または「保護観察」です。「少年院送致」は,その名の通り,少年を少年院送りにして,一定期間(1年くらい)少年院に閉じ込めて,「やり直し」を実現します。
「保護観察」は,少年院送りにはせず,自宅での生活が続きますが,その代わり,「保護観察」を受けます。「保護観察」とは,定期的に,「保護司」さんとの面談を繰り返し,保護司から指導を受けながら,「やり直し」を図ることです。
「少年院送致」がいいのか,「保護観察」がいいのか,それを決めるために,調査官がいろいろと調査するのです。
「少年院」が「保護観察」よりも「重たい処分」と思われがちですが,この2つは,「重たい・軽い」の関係にありません。
少年の家庭環境や生育歴・性格,そして,何よりも,犯罪の態様・原因を考慮して,どちらが「ふさわしい」のか,という判断です。
自宅に戻って,「保護観察」を受けるだけで「やり直し」が可能なのであれば,「保護観察」という処分が下ります。
これに対し,犯罪の態様・原因に大きな歪みがあって(例えば,女性に対する性的な興味が大きすぎるなど),かつ,この歪みを保護観察のみで矯正できないような家庭環境・生活環境だと,「保護観察」ではなく,「少年院送致」という処分となってしまうでしょう。
・どんな犯罪を犯したのか
・その犯罪を犯した原因は何なのか
・その原因を保護観察のみで取り除けるのか
・少年院で外界と隔離して更生を図る必要があるのか
こういったことが考慮されて,最終的に,「少年院送致」なのか「保護観察」なのか,決定されます。
【 まとめ 】
少年事件では,とにかく,犯罪を犯した原因を探究します。
その「原因」を取り除く方法として,保護観察なのか,少年院送致なのか,が判断されます。
弁護士も「付添人」として,「審判」に関与します。
「付添人」の立場に関しては,いろいろと意見があるのですが,やっぱり僕は,少年の「味方」だと思っています。
誰がなんと言おうと,少年の思いを代弁してあげるのが,付添人の役割です。
家庭裁判所の調査官は,少年院または保護観察のどちらがふさわしいか,客観的に調査し,裁判官に報告しますが,付添人は,あくまで少年の味方なので,少年が「少年院はイヤだ」と言っているのであれば,「保護観察」を主張しなければいけません。
僕としては,「味方という立場だから」,というよりは,付添人の弁護士すら自分の味方をしてくれなかったとは少年に思ってほしくないから,少年の要望通り,保護観察(少年院回避)を主張しています。
審判を受けるような少年は,これまでずっと,大人たちに怒られまくってきているんです。大人たちに怒られ,自分を否定され,大人に味方はいないんだと思ってしまっています。
だから,弁護士は味方でいてあげたいんです。もちろん,「言うことを何でも聞く大人」とは思われたくはないのですが,納得できるまで話し合ったうえで,最終的に「この弁護士は味方でいてくれてる」と少年に思ってほしいのです。
そうすれば,最終的に,少年院送致という,少年にとってツラい結論が出たとしても,その後の更生が,ほんの少しプラスになるだろうと僕は信じています。
付添人である弁護士も,調査官の報告には入念に目を通しますし,なおかつ,少年自身からもいろいろと聞き取ります。
少年が調査官に話す内容と,弁護士に話す内容も違いますから,少年が話してくれた内容を十分尊重して,犯罪の原因を探究し,自分なりに,少年院に閉じ込められなくても犯罪の原因を除去する方法はないかな,と考えを巡らせます。
なかなかうまくいかないことも多いですが,最後の最後まで,少年のことを考えてあげることが,きっと,その少年の将来の役に立つと信じています。
それではまた明日!・・・↓
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