#423 受領遅滞:読み方は「ずりょうちたい」と僕は習いました。
※「キャベツ」の画像を貼り付けている理由は読み進めるとわかってきます。
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【 今日のトピック:受領遅滞 】
今日は,「受領遅滞」についてお話したいと思います。
僕は,いちばん最初に「ずりょうちたい」と読むと教わったので,それから12年が経過した今になっても「ずりょうちたい」としぶとく読み続けているんですが,どうやら,普通に「じゅりょうちたい」と読むのがスタンダードらしいです。
なんか恥ずかしいです(笑)。
さて,そういったどうでもいいことは置いておきましょう。
今日,民法改正について,遅ればせながら勉強していました。
2017年に民法は大改正され,その改正後の民法が,既に2020年4月1日から施行されています。
もう,施行されて1年が経過しようとしていますが,今になって勉強しています。遅すぎますね(笑),すみません。
2019年7月からうつ病で休職し,施行日当日も休職していました。勉強のやる気が出るような状態でもありませんでしたし,勉強が今日まで遅れてしまいました。
さて,そういった改正民法について勉強していて,久しぶりに目にしたのが「受領遅滞」です。
この「受領遅滞」という漢字4文字をどれだけ見ていても意味がつかめないので,説明します。
とりあえず,2つに分けるとするなら,「受領」と「遅滞」です。「受領」が「遅滞」しているから,「受領遅滞」です。
わかったようなわからないようなことを書いてしまいました。すみません。説明に入ります。
例えば,八百屋さんがレストランに野菜を納品する場面を考えてみましょう。
八百屋さんにもいろいろあって,店舗を構えて,来店するお客さんに野菜を販売するだけでなく,レストランや居酒屋などの飲食店に野菜を納品しているケースも結構あります。
レストラン側から見れば,野菜の「仕入れ」です。
レストランの店主としては,自分で八百屋さんや市場へ行って野菜を買い付けて仕入れてもいいんですが,八百屋さんに仕入れを委託することも多いです。
大きなレストランでは,大量に野菜を仕入れなければいけませんから,それをいちいち自分で買い付けていては,手間が増えるばかりです。
八百屋さんにレストランまで配達してもらえると,助かりますよね。
そして,例えば,唐揚げを売りにしたレストランで,付け合わせのキャベツやきゅうりの品質にさほどこだわらない場合,八百屋さんから安く大量に仕入れ,しかも,レストランまで配達してもらったほうが,合理的です。
そういう感じで,レストランが,ある八百屋さんに,3か月間毎日,キャベツ10玉の納品を注文したとしましょう。
もちろん,八百屋さんは,その注文に基づいて,毎日せっせとキャベツを納品します。
キャベツの注文が増えたわけですから,そのぶん,八百屋さんが市場で買い付けるキャベツの量も増えます。
そうやって八百屋さんがキャベツをせっせと仕入れ,レストランに納品していたところ,2週間が経過したある日,「明日からキャベツ納品しなくていいから」とレストランから言われてしまいました。
これは,契約違反です。
3か月間毎日キャベツ10玉を八百屋さんが納品し,その代金をレストランが支払うという約束だったのに,レストランが一方的に注文の打ち切りを通告してきたわけです。
おそらく,多くの八百屋さんは,こういった取引先からの注文打ち切りに対しては,泣き寝入りされているでしょう。
注文が打ち切られたわけですから,翌日以降,キャベツを持っていっても受け取ってくれませんし,代金も払ってくれません。
ただ,この八百屋さんは,契約打ち切りに泣き寝入りしている場合じゃありませんでした。
というのも,この八百屋さんは,キャベツの注文が3か月続くことを前提に,既に3か月分の仕入れを注文してしまったのです。
3か月間毎日キャベツ10玉を納品できるお客さんができたわけですから,それを信頼して,より安くキャベツを仕入れられるよう,以前から仲良くしていた市場の卸売業者との間で,普通ではあり得ないほど安くキャベツを仕入れることができるという契約を結んでいたのです。
しかも,その契約書には,全玉の仕入れができない場合でも,全玉分の代金を必ず支払うという約定があったとしましょう。
つまり,この八百屋さん,レストランに3か月間毎日キャベツ10玉を納品して代金を受け取らないと,3か月間にわたってキャベツ10玉分の仕入れ代金まるまる損してしまうのです。
この八百屋さんは,その損を受け入れられるほど資金力がなく,店舗も小さい。
納品先もないのに,毎日キャベツ10玉も仕入れたら,毎日そのキャベツは腐っていくばかりです。
腐ったら,廃棄費用も余分にかかります。
八百屋さんは,是が非でも,レストランにキャベツを納品し,その代金を受け取らなきゃいけない。
にもかかわらず,レストランはキャベツを受け取ってくれない。
これが,「受領遅滞」の問題です。
レストランは,キャベツの「受領」を「遅滞」どころか「拒否」していますよね。
こういった,「受領」の「拒否」も,「受領遅滞」に含まれます。
この「受領遅滞」の場合に,八百屋さんとしては,どういった法的手段がとれるのか。
まあ,普通は,こんなレストランとの契約は解除しちゃって,他の納品先を探しますよね。
もちろん,それはそれで結構です。
レストラン側も,おそらく,この八百屋さん以外に,より安く仕入れることができる八百屋さんを見つけたからこそ,この八百屋さんとの取引を打ち切ったと思われます。
だから,レストラン側も契約解除には応じるはずで,その結果,合意解除によって契約が終わる可能性は高いです。
ただ,「合意解除」ができればいいですが,そうならないこともあります。
「合意解除」は,八百屋さん側から見れば,泣き寝入りすることです。
せっかくの取引先で,3か月間毎日納品する約束だったのに,それを守らせることができなかった,というのが「合意解除」です。
この話とは別に,八百屋さんには「解除権」がない,という問題もあります。
こんなレストランとの契約なんて,さっさと解除したいはずですが,この「解除」は,あくまで「合意解除」です。
受け取り拒否を理由に,相手の同意なく契約を解除することはできません。
これが,民法改正後の今も続いています。
そうすると,八百屋さんは,受け取りを拒否するようなレストランとの契約に,ずっと拘束されるわけです。
契約に拘束されるということは,キャベツ納品義務から解放されない,ということです。
レストランが受け取ってくれないのに,キャベツ納品義務は負い続ける。
これが,「受領遅滞」です。
もちろん,レストランが受け取ってくれないわけですから,レストラン側から納品遅れを理由に損害賠償を請求されることはありません。
でも,契約は続いてしまいます。
契約が続いてしまうということは,キャベツを他のレストランに売れない,ということにもなります。
納品義務を負い続けるので,キャベツを確保し続けなきゃいけないけれども,受領は拒否されているから納品しようがないし,しかも,納品が先で代金は後払いなので,納品できない現状では,代金も貰えない。
八百屋さんとしては踏んだり蹴ったりですが,「受領遅滞」は,こういう仕組みです。
「受領遅滞」を理由に,レストランとの解除ができれば,八百屋さんは,レストランへの納品義務から解放されて,別のレストランを探せばよくなるんですが,それはできないのです。
契約は続いちゃう。
そうすると,八百屋さんとしては,なんとか,レストランにキャベツを受け取らせて,代金を支払わせたいですよね。
その手段が,きちんと法律に書かれていて,それが「供託」です。
結局,八百屋さんとしては,キャベツ納品義務を果たさないと代金を受け取れないのに,レストランが受け取ってくれないというジレンマに陥ってしまっていたわけですが,民法には,レストランがキャベツを受け取ったと「みなす」制度が用意されています。
それが,「供託」です。
キャベツではなくて,例えば,お金を支払う義務であれば,相手がお金の受け取りを拒否した場合に,法務局にお金を「供託」する(預ける)ことで,相手がお金を受け取ったことになります。
しかし,キャベツの場合は,法務局に預けるわけにいきません。
キャベツは,日々腐っていきますからね。
この場合は,キャベツを競売にかけてお金に換え,そのお金を法務局に供託することで,「キャベツを受け取った」とみなされます。
「キャベツを受け取った」とみなされるので,八百屋さんは,レストランに対し,代金全額の支払いを求めることができるようになります。
さて,今日は「受領遅滞」についてお話してみました。
相手が受け取りを拒否することが,「受領遅滞」の主なケースです。
「受領遅滞」によって,契約解除が可能であれば,「契約に拘束され続ける(キャベツ納品義務から解放されない)」という不都合も起きないのですが,改正後の民法でも,受領遅滞を理由に契約を解除することは認められていません。
その結果,合意解除ができない限り,キャベツを納品するしかないのです。
相手が受け取らない場合は,キャベツを競売してお金に換え,そのお金全額を供託して(法務局に預け),代金全額の支払いを求めることになります。
「相手が受け取ってくれない」場合でも,契約を強制的に終わらせることはできない。
これが,今日のポイントです。
それではまた明日!・・・↓
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