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少し難しい話:タクシーの無賃乗車
【 自己紹介 】
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このブログでは、2019年7月にうつ病を発症し、それをきっかけに同年12月からブログを始めて、それ以降、600日以上毎日ブログ更新してきた、しがないサラリーマン弁護士である僕が、日々考えていることを綴っています。
毎日ご覧くださってありがとうございます。本当に励みになっています。
法律に関する記事は既にたくさん書いていますので、興味のある方は、こちらにテーマ別で整理していますので、興味のあるテーマを選んでご覧ください。
【 今日のトピック:詐欺罪 】
僕が言うまでもなく、この日本には、「詐欺罪」という犯罪があります。
実は、「詐欺罪」って、かなり要件が厳しくて、現実には、なかなか成立しません。
というのも、「詐欺罪」って、単に「ウソをつく」ではないからです。
もうね、細かく説明すればするほど、要件が厳しいことが如実にわかってきます。
「詐欺罪」というのは、もちろん、ウソをつくことが必要な犯罪です。
ただ、ウソをつくことだけで犯罪になるのではなく、
・ウソをついて
・そのウソのせいで被害者が財産(お金とか)を渡した
という犯罪です。これだけなら、イメージとそんなに変わらないかもしれませんが、この「ウソ」は、なんでもいいわけではなく、被害者が財産(お金など)を渡すように仕向けるウソでなくてはなりません。
だから、例えば、交通事故を起こしたわけでもないのに、「交通事故を起こしてしまって、被害者からとりあえず100万円を支払えと要求されている。被害者はヤクザらしくて、断れない。被害者が指定してきた口座を今から言うから、そこに振り込んで」というウソは、間違いなく、詐欺罪の「ウソ」に該当します。
被害者が100万円を支払うように仕向けているウソだからです。
これに対し、既婚男性が独身だと偽って独身女性と男女の関係となり、その独身女性とセックスしたとしても、既婚男性に詐欺罪は成立しません。
独身だと偽る目的がセックスであり、セックスに財産的価値はないからです。
このウソによって、女性には精神的な苦痛を与える可能性もありますが、しかし、既婚男性に犯罪は成立しません。
精神的苦痛の有無と、犯罪の成否は無関係です。犯罪が成立するためには、犯罪として法律に書かれた要件に該当することが必要です。そうでないと、何が犯罪に当たるか事前に知ることができず、自由に生きることができません。
さて、詐欺罪の話に戻りますが、ウソそのものが、被害者の財産交付に向けられていなければいけないのですが、この「財産」が、目に見えないと途端に話は難しくなります。
先ほどの例のように、ウソをついて100万円を支払わせようとするのは、「100万円」が預金口座のデータとして増えるのでわかりやすいのですが、例えば、タクシー料金ならどうでしょうか。
タクシーに乗車して目的地に着いた後、運転手にウソをついて降車し、料金を踏み倒した場合、少し注意が必要です。
この「ウソ」も、財産を目的としていなきゃいけないのですが、この場合は、財産の「交付」ではなく、支払義務の「踏み倒し」が目的となっています。
ウソなら何でもいいわけではなく、ウソが「踏み倒し」を目的としていなければなりません。
そして、詐欺罪は、「ウソ」をつかなければいけないので、タクシーのドアが開いた途端に無言で走り出したら、詐欺罪は成立しません。この場合は、無賃乗車であることは間違いないのですが、犯罪は成立しないのです。
もちろん、代金を支払う必要はありますが、「ウソ」がないので、詐欺罪は成立しようがありません。
「無言」でも、無言であることが「ウソ」と評価できることもあるので、無言なら常に詐欺罪が成立しないわけではありませんが、「ウソ」が皆無であれば、詐欺罪にはなりません。
ウソがなければ詐欺罪は成立しませんが、ウソをついて踏み倒せば詐欺罪が成立し、脅して踏み倒せば恐喝罪が成立します。
脅しに従わないと身体や生命に重篤な危険が生じかねず、脅しに従わざるを得ない状態であれば、恐喝罪ではなく強盗罪が成立します。
さて、少し話がそれましたが、結局、タクシー料金を踏み倒しに詐欺罪が成立するには「ウソ」が必要です。
この「ウソ」は、別に目的地に到着した後の料金支払時ではなく、乗車時でもオッケーです。だから、最初から料金を支払うつもりもなく乗車し、目的地を告げれば、それも「ウソ」になり、詐欺罪は成立します。
こういった風に、「最初から支払うつもりがなかった」のであれば、詐欺罪も成立しやすいのですが、しかし、そうは言わない犯人が多いです。
「支払時になって手持ちがないことに気づいた」などと平気で言いだす奴らがいます。しかし、ふつうは、自分の手持ち現金がいくらかは把握しているはずで、目的地までの料金もだいたい予想できます。
だから、「支払時になって初めて踏み倒そうと思った」なんて普通はあり得ないのですが、ただ、こういう犯人の供述を覆して、「乗車時から支払うつもりがなかった」と証明するのは、それなりに大変です。
支払意思は、完全に犯人の頭の中の話なので、その証明は一般的に至難です。もちろん、乗車前後の犯人の動向を十分に捜査し、証拠を収集すれば立証は可能ですが、しかし、結局は頭の中の話なので、立証不十分になることもリスクは高いです。
だったら、「乗車時から支払うつもりがなかった」で攻めるのではなく、支払時のウソを強調して、「ウソをついて踏み倒した」と攻めたほうがよさそうです。
しかし、ここでも大きな壁があって、それは、「処分行為」です。
「処分行為」というのは、先ほどの言い回しを使えば「財産の交付」です。
先ほど説明したとおり、詐欺罪における「ウソ」は、財産の交付を目的としていなければいけません。
財産が目に見えていれば、その目に見える財産交付に向けられたウソかどうかは判断しやすいですが、目に見えないと、なかなか難しいです。
というのも、例えば、支払うつもりもないのに、「ちょっと手持ちがなくて、そこのコンビニで下ろしてきます」と言って、タクシーから降りたらどうでしょうか。
これは、犯人の側から見れば、踏み倒しを目的としているのは明らかです。
しかし、被害者(運転手)の側からはどうでしょうか。
財産が目に見えている場合は、財産の交付を目的としていることについて、犯人と被害者との間で食い違いはありませんでした(犯人も被害者も、どちらも100万円の支払うものと考えています)
しかし、「ちょっと手持ちがなくて、そこのコンビニで下ろしてきます」だと、犯人は踏み倒しを目的としていますが、被害者は、踏み倒すなんて思ってもいません。
すぐそこのコンビニまで行くために降車するのを許可しただけで、「支払わなくていいよ」というオッケーは出していません。
例えば、全くそんな事実はないのに、「すみません、思ったよりもタクシー料金がかさんでしまって、タクシー料金を支払ってしまうと、今晩家族に食べさせる夕飯代もなくなってしまいます。預金残高もゼロです。だから、本当に申し訳ないのですが、タクシー料金はまた今度にしてもらえませんか?」と言って、運転手が涙を流し、「また今度でいいよ」と言ってくれたとしましょう。
この場合は、支払いを後日にするという形で、運転手も踏み倒しを了承しています。
これが、本来の「詐欺」の形なんです。
犯人も被害者も、「踏み倒し」を認識しているのが、本来の形です。
じゃあ、先ほどの「ちょっとお金を下ろしてきます」の場合に、詐欺は成立しないのでしょうか。
これは、昭和30年に出された最高裁の判断に従う限り、詐欺罪は成立しません。というのも、この最高裁は、明確な処分行為が必要と明言しているからです。
つまり、↑の例でいうと、被害者も踏み倒し(料金支払いの後ろ倒し)を認識していなきゃいけないのが、昭和30年に示された最高裁の立場で、これが今も残っています。
法律業界ではとても有名な教授たちが、この最高裁の立場に反対を示していて、「ちょっとお金下ろしてきます」でも、詐欺罪を成立させていいと考えていますが、しかしまだ、これを覆す最高裁の判断は出ていません。
そうすると、詐欺罪って、実は、かなり成立しにくい犯罪なんです。
これ以外にも、犯人が「だまそうとしている」ことが必要だったりもします。つまり、犯人がウソをウソだと気づいていなかったら、詐欺にならないのです。
投資詐欺でよくある話なんですが、例えば、「年利10%で運用できますよ」と言ってお金を集め、結果的に年利10%の配当を渡せないまま会社が破産した場合、その人が、本当に「年利10%で運用できる」と考えていたのなら、詐欺にはなりません。単なる「事業の失敗」です。
会社の事業が、当初の予想通りに回らないことはよくある話です。
最初から年利10%で運用できないことを知っていながら、それを隠してお金を集めた場合に限って、詐欺罪は成立します。
ただ、お金を集めた会社の社長は、きっと、「最初はうまくいくと思っていました」と言うでしょう。
その場合、社長が「最初からうまくいくなんて思っていなかった」ことを立証しなければならず、そのハードルはかなり高いです。資金繰りの状況をかなり丁寧に把握する必要がありますが、こんな会社の経理は杜撰に決まっていて、証拠収集及び立証は難航を極めます。
「詐欺だ!詐欺だ!」と、巷では安易に「詐欺」というワードが用いられていますが、思った以上に詐欺に問うことが難しいとわかってもらえたらうれしいです。
それではまた明日!・・・↓
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