#417 尋問の話:弁護士も常識にとらわれない豊かな想像力が必要
【 自己紹介 】
※いつも読んでくださっている方は【今日のトピック】まで読み飛ばしてください。
弁護士古田博大の個人ブログ(毎日ブログ)へようこそ。
このブログでは,2017年1月に弁護士に登録し,現在弁護士5年目を迎えている私古田が,弁護士業界で生き残っていくために必要不可欠な経験と実績を,より密度高く蓄積するため,日々の業務で学んだこと・勉強したこと・考えたこと・感じたこと,を毎日文章化して振り返って(復習して)います。
僕の経験と実績を最も届けなければいけないお相手は,このブログを読んで,僕のお客さんとなってくださるかもしれない方々,つまり,法律のプロではない皆さんだと思っています。そのため,日々の業務・経験がこのブログのトピックになっているとはいえ,法律のプロではない方々にわかりやすく伝わるよう,心がけています。
後戻りの必要なく,スラスラと読み進められるようにも心がけていますので,肩の力を抜いて,気軽な気持ちでご覧くださるとと大変嬉しいです。
【 今日のトピック:尋問 】
さて,今日は「尋問(じんもん)」について話してみたいと思います。
最近,↓の本を読みました。
若手弁護士や司法修習生向けに,民事の尋問の基礎を解説する,という趣旨で書かれた本なのですが,最後までじっくり読むと,めちゃくちゃ勉強になります。
特に僕が印象に残ったのは,「尋問の対象」という話です。ちょっと説明します。
「尋問」というのは,テレビなどでよく出てくるシーンです。
お互いの弁護士が,証人に対して質問し,その質問に対して証人が答える。
それが,「尋問」です。
質問される人が,当事者以外であれば,「証人尋問」,当事者であれば「当事者尋問」です。
今日お話しするのは,刑事ではなくて民事のほうです。
刑事裁判だと,無罪を主張する被告人に対して,「本当はやったんでしょ!」と詰問する検察官が思い浮かびますが,今回はそっちじゃありません。
民事裁判でも,「尋問」はやります。
でも,必ずやるわけではありません。
民事裁判では,ほとんどの場合,尋問に先立って和解するかどうか裁判官から打診されます。
その和解打診に折り合いがつかず,判決で解決を図るほかないという場合に,尋問が実施されます。
「尋問」というのは,証人なり当事者なりから,「供述」という証拠を収集するための手続きです。
尋問の当日,証言台で話される一言ひとことが,全て証拠となり,判決の基礎となります。
そういった「供述証拠」を確保するために,尋問は実施されます。
ここからは,民事裁判の構造にも関わってくるんですが,例えば,貸したお金が返済されないとして裁判で貸主が返済を求める場合,借主が「借りていない!」と反論したら,貸主は,「貸した」という事実を立証しなければいけません。
すみません,めちゃくちゃ当たり前のことを書きました(汗)。当たり前のことですが,大切なことなので確認しました。
そして,「貸した」という事実は,もう少し詳しく書くと,①返済期限までに返済する約束で,②お金を渡した,という2つに分解できます。
貸主は,この2つを立証しなきゃいけないわけです。
立証のやり方は,事案によって違います。借用証書があれば,借用証書を証拠として提出して①を立証しようとするでしょうし,お金を受け取ったという領収書があれば,その領収書を証拠として提出して②を立証しようとするでしょう。
ただ,そういった証拠がない場合,貸主としては,「尋問」を行い,供述によって立証するほかありません。
例えば,①は借用証書で立証できるとしても,②について,借主が「お金は受け取っていない!」と反論する場合,貸主は,「借主がお金を受け取った」との事実を立証しなければなりません。
相手は「お金は受け取っていない!」と主張しているわけですから,相手から「お金を受け取りました」という証言を引き出すのは,まず無理でしょう。
最後の最後まで「お金は受け取っていません」と貫き通すことが目に見えています。
そうすると,頼みの綱は,自分の供述だけです。それだけで,「借主はお金を受け取った」ということを立証しなければいけません。
まあ,はっきり言って,自分の供述だけで立証するのは,基本的に難しいです。「お金を受け取っていません」という借主の反論を許さないほどの証拠がない場合,負ける確率が極めて高いでしょう。
ただ,尋問によって「お金を受け取った」と認められることもあります。
そのためには,尋問で,「お金を受け取った」と裁判官に認めてもらえるように供述することが不可欠です。
じゃあ,どうやれば「お金を受け取った」と裁判官に認めてもらえるのか。
「お金は確かに渡しました」と,どれだけ懇切丁寧にしゃべってもダメなんですね。それだけじゃ足りない。
ここから先が,↑の本を読んで僕が勉強になったと思った部分です。
「お金は確かに渡しました」と,いくら話しても,それだけじゃ裁判官を説得できません。
尋問までに弁護士が作成・提出した書面の中で,「お金は渡しました」と,既に何度も書いていますから,「お金は渡しました」という供述が出てくることは,裁判官は最初から分かっています。
大事なのは,「お金は渡しました」という部分じゃないんです。
「お金は渡しました」という事実から,時間的・空間的に広がる,生の事実。
裁判官は,これが欲しいんです。ちょっと言い回しが独特なので,説明します。
世の中には,無数の事実が存在しています。
僕は今パソコンでブログを書いていますが,その「ブログを書いている」という事実だけが存在するはずはなく,今日(2021年1月21日),自宅で,ラフな格好でこたつに入りながら,テレビを見ながら,蛍光灯を点灯させながら・・・・・と,ブログ作成作業と並行していろんな事実が僕の周りには起きています。
ブログ作成作業中にも,これだけ並行していろんな事実が起きているわけですが,時間的に広がりを持たせると,過去の事実と未来の事実も含まれてきます。
空間的な広がりを持たせると,僕の自宅以外の他の場所で起きた事実も含まれてきます。
時間的・空間的な広がりを掛け合わせると,もっといろんな事実が含まれてきます。
この「広がり」を意識するのが大事なんです。
さっきの「お金を渡した」という話に戻りましょう。
「お金を渡した」にも,いろいろありますよね。現金で渡したのか,振り込んだのか。振込みであれば,振り込んだ記録が残っているでしょうから,その記録が証拠になります。
現金で渡したのであれば,現金を何かしらの方法で確保したはずです。
現金が現実に物体として存在したわけですから,その現金をどうやって確保し,どこからどこまでどうやって運んだのか。
この辺をひとつひとつ丁寧に説明できるはずです。
そして,相手に現金を渡した場所や日時,他に誰がいたのか,その場所で渡すことになった経緯・理由は何なのか。
こういうことも,しっかりと話せるはずです。
現金を渡した後,借主はどうやって保管していたのか。バッグに入れて持ち帰ったのか,すぐに自分の預金口座に入れていたのか。
こんなことも話せるはずです。
お金を貸すということは,借主にお金が必要な事情(資金調達目的)があったわけですから,渡したお金は,借主の資金調達目的にしたがって使われたはずで,借主がお金を使ったシーンを見たのなら,どうやって使ったのかも話せるはずです。
こんな風に,「お金を渡した」の周辺に,時間的・空間的に広がる事実,これを,「尋問」で明らかにする必要がある。
こんなことが書いてあったんです。
この視点は,とても勉強になりました。
こういった,周辺事情もしっかりと供述できれば,「迫真性がある」とか「具体的である」との評価を得る可能性が高まり,有利な事実を裁判官に認めてもらえる可能性も高まってくるんです。
そうすると,弁護士に必要となってくるのは「想像力」です。
「お金を渡した」という事実が存在するのであれば,どういう事実がなきゃいけないのか。
逆に,「お金を渡した」という事実が存在しないとしたら説明がつかない事実は何なのか。
「お金を渡した」という事実ばかりに僕ら弁護士も着目しがちですが,その事実の周辺事情を想像力豊かに聞き取り,尋問で明らかにする。
常識にとらわれない想像力は,弁護士にとっても不可欠みたいです。
めちゃくちゃいいこと学べました。本は宝ですね。改めて実感しました。
それではまた明日!・・・↓
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