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#456 過払金(かばらいきん):利息制限法と出資法のズレ・みなし弁済

【 自己紹介 】

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【 今日のトピック:過払金 】

今日も,昨日に引き続き,過払金(かばらいきん)についてお話します。

「過払金」とは,文字通り「払い過ぎたお金」だということを,昨日は説明しました。

「払い過ぎたお金」なんだから,払い過ぎたぶんは返金してもらう,という至極当然の話が「過払金請求」です。

で,払い「過ぎ」かどうかを決めるのが,利息制限法です。

利息制限法には,利息の上限利率が定められていて,その上限利率を超えてお金を貸すことは禁止されています(正確には「禁止」と少し違うのですが,後で説明します)。

この「利息制限法」は,明治10年から存在することも,昨日は説明しました(笑)。

明治10年当時から,高利貸しは社会問題だったのです。というか,お金の貸し借りがこの世に誕生した瞬間から,高利貸しは社会問題だったのでしょうね(笑)

明治10年に制定された利息制限法の上限利率も,昭和29年に制定された現在の利息制限法と遜色ありません。

大正8年に上限利率は改正されたのですが,この改正後の上限利率は,今と比べてかなり厳しめです。

こういう感じで,大昔から,「利息制限法」によって,お金の貸し借りの上限利率が決められており,その上限利率を超えてお金を貸し借りすることは禁止されていました。

しかし,この「禁止」が,罰則を伴っていなかったのです。

ここから,今日の話は始まります。

利息制限法は,確かに,お金の貸し借りについて,上限利率を定めているのですが,その上限に違反した場合の罰則については何も定めていません。

というか,そもそも「禁止」という書きぶりではないのです。

昨日も書きましたが,利息制限法の上限利率は,以下のとおりです。

・10万円未満:年利20%

・10万円以上100万円未満:年利18%

・100万円以上:年利15%

実は,利息制限法で決めているのは,↑の上限利率を超える利率で利息の約束をした場合に,上限利率を超える部分を「無効とする」ことです。

だから,利息制限法を見る限り,上限利率を超えるお金の貸し借りも許されるのです。

許されるのですが,上限利率を超える部分は「無効」となってしまうので,結果的には,上限利率を超えて利息を貰うことはできない,ということになります。

とはいえ,自分の返済が,利息制限法の上限利率を超えているかどうかは,いちいち確認しませんよね?

だから,お金を返済する側は,言われたとおりに払ってしまいます。

そして,利息制限法には,かつて,上限利率を超えて返済した場合であっても,その返済が「任意」であれば,上限利率を超えて返済したぶんを,「払い過ぎ」として返金することはできなくなる,と書かれていました。

つまり,返済する側が,自発的に上限利率を超えて返済したのであれば,「払い過ぎだ!」とは主張できなくなると,利息制限法には書かれていたのです。

そうなると,「過払金」なんて発生しないような気がしますよね?

返済する側は,いちいち,利息制限法の上限利率を超えているかどうか確認せず,自発的に返済しちゃうわけで,そういった場合に「払い過ぎ」を主張できなくなるのであれば,「過払金」なんて,絵に描いた餅に思えます。

しかし,最高裁が画期的な判決を出します。

なんと,「自発的に返済したら払い過ぎとは主張できなくなる」という条文があるにもかかわらず,上限利率を超えて返済した場合には「過払金」が発生すると明言したのです。

この判決は1968年に出されたのですが,「自発的に返済したら過払金を請求できなくなる」という,利息制限法の条文を骨抜きにする,画期的な判決でした。

とはいえ,この判決が出された後も,利息制限法違反の貸付けが横行していました。

というのも,先ほど説明したように,利息制限法に違反してお金の貸し借りをしても,違反した部分が無効となるだけで,刑事罰の対象とはなりません。

現在は,貸金業者が,年利20%を超える利息の契約しただけで出資法違反として刑事罰の対象となるのですが,1983年までは,年利109.5%を超える利息でなければ,刑事罰の対象とはなりませんでした。

その結果,利息制限法に違反していても,年利109.5%までは刑事罰は受けないので,年利109.5%までの高利貸しを刑事罰で抑制することはできなかったのです。

しかし,利息制限法の上限利率を超えて返済した場合には,仮に,返済した側が利息制限法違反に気づいていなくても,「払い過ぎ」を理由に過払金を返金してもらえるという,最高裁判決が1968年に出ていますから,利息制限法に違反していた高利貸しに刑事罰を与えることはできないにせよ,払い過ぎたぶんは返金してもらうことはできるわけで,「それならそれでよし」と思えなくもありませんでした。

貸金業者が刑事罰をくらって倒産してしまうくらいなら,過払金を貸金業者から回収したほうがいいですしね,経済合理的には。

このように,1968年の最高裁判決によって,過払金が初めて日本に登場したのですが,その後の1983年,過払金は大きな転換点を迎えます。

1つは,出資法違反となる利率の引き下げです。先ほど書いたように,出資法違反として刑事罰の対象となる利率は,年利109.5%だったのですが,これが年利73%まで引き下げられました。

この点は,高利貸しに対する規制となったのですが,これと同時に,「みなし弁済」というハチャメチャな規定も作られたのです。

繰り返しになりますが,1968年の最高裁判決は,「利息制限法違反でも自発的に払ったのであれば払い過ぎを後から主張できない」という条文を骨抜きにしました。この点が画期的だったのです。

しかし,1983年に制度化された「みなし弁済」は,せっかく最高裁判決が骨抜きにした↑の条文を復活させてしまったのです。

全く同じで復活させたわけではありませんが,きちんと体裁を整えた書面に借主から署名押印を貰っていれば,仮に利息制限法に違反して返済していたとしても,払い過ぎとは主張できなくなる,というのが「みなし弁済」です。

「後から払い過ぎを主張できなくなる」のは,まさに,最高裁が骨抜きにした条文そのものです。

きちんと書面を作成する必要があるにせよ,その書面に署名押印さえ貰ってしまえば,最高裁判決をかいくぐることができるようになってしまったのです。

さて,これは非常に大変なことになりました。刑事罰の対象となる利率は年利73%と下がりましたが,しかし,年利70%というめちゃくちゃな高利でお金を貸し付けても,それ自体は刑事罰の対象となりませんし,なおかつ,きちんと書面に署名押印を貰って「みなし弁済」の条件を満たせば,「過払金」も発生しなくなりました。

1983年に「みなし弁済」ができるまでは,刑事罰の対象とはならない高利貸しであっても,利息制限法に違反する利息は,「過払金」として返金してもらえていたのですが,「みなし弁済」ができて以降は,「みなし弁済」の条件を満たせば,過払金が発生しなくなったのです。

「みなし弁済」には大きな問題があったことがよくわかると思います。

この「みなし弁済」が,改めて最高裁判決で骨抜きにされたのは,2006年でした。

1983年から2006年までの23年間,多くの人たちが「みなし弁済」に苦しめられてきたことになります。

しかし,2006年の最高裁判決以降,「過払バブル」が起きました。

この最高裁判決は,過去の貸し借りすべてについて,過払金が発生すると明言したからです。

2006年までは,「みなし弁済」の条件さえ満たしていれば,利息を貰えていたので,あらゆる貸金業者が利息制限法に違反して利息を貰っていました。

これが,全部,「過払金」となったのです。2006年以降は。

2006年の最高裁判決は,「みなし弁済」を骨抜きにしたのですが,この「骨抜き効果」が,過去のあらゆる貸し借りに当てはまる,とも結論づけました。

その結果,2006年以降,「過払バブル」が訪れ,弁護士業界を大いに(金銭的に)潤しました。

もちろん,いちばん得したのは,過払金を手に入れた依頼者の皆さんですが,弁護士業界に大きな利益をもたらしたことは否定できません。

ただ,この「過払バブル」が始まって,既に15年が経ちます。「過払バブル」も,もはや「歴史」です。

にもかかわらず,いまだに,過払金のコマーシャルが後をたちませんが,これは,過払金事件がコスパ最高だからです。

過払金は,貸金業者から,貸し付けと返済の履歴を取り付け,それをエクセルファイルに打ち込めば,自動的に金額が算定されます。

そして,その算定された金額と,ほぼほぼ同じ額を,貸金業者も素直に払ってくるのです。

最近は,渋る貸金業者もいますが,訴訟を提起すれば,裁判所は満額の支払いを命じますので,結局,貸金業者は支払いを拒むことはできないのです。

【 まとめ 】

過払バブルから15年が経過し,既にバブルは終焉を迎えています。

仮に過払金があったとしても,最後に返済してから10年が経過すると,時効によって,過払金を返金してもらえなくなります。

この「時効によって返金してもらえなく」ならないうちに,過払金の依頼を受けようと,いろんな弁護士・司法書士が躍起になっているのです。

現在は,「みなし弁済」も廃止され,刑事罰の対象となる利息も年利20%まで引き下げられたので,過払金が発生する貸し付け,つまり,利息制限法に違反する貸し付けは,なくなりました。

利息制限法に違反して貸し付けをやっているのは,ほぼ「ヤミ金」だけでしょう。

「ヤミ金」は,利息制限法に違反するかどうかは関係ありません。いちど関わった相手に対し,延々とパラサイトし続け,返済しないのであれば,家族に危害を加えると脅すような奴らです。

ヤミ金には本当に気をつけてください。

過払金については,15年以上前の古い借金がある場合は,いちど弁護士に相談されてみるといいかもしれません。

それではまた明日!・・・↓

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