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#432 使用貸借:タダで貸し借り

【 自己紹介 】

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【 今日のトピック:使用貸借(タダでの貸し借り) 】

今日は,「使用貸借」という聞きなれない契約についてお話ししたいと思います。

↑にカッコ書きで書きましたが,「使用貸借」とは「タダでの貸し借り」を意味します。有料の貸し借りが「賃貸借」です。

有料の貸し借りである「賃貸借」のほうが,親しみがある感じがしますが,民法では,賃貸借よりも先に使用貸借の条文が書かれています。

まあ,そんな雑学は置いておきましょう。

「タダでの貸し借り」なんて書くと,友達から漫画を借りたりCDを借りたりとか,そういったお気楽な貸し借りがイメージされるかもしれません。

そんなお気楽な貸し借りについて弁護士がわざわざブログで書くなんて,物好きな弁護士だなぁと思われるかもしれませんが,実は,「タダでの貸し借り」って,お気楽なものばかりじゃないんです。

例えば,「土地をタダで貸す」「マンションをタダで貸す」なんて書くと,お気楽な感じは消え去りますよね。

しかし,「タダで土地を貸したりマンション貸したりするやつがどこにいるんだよ!」と思われるかもしれません。

でも,いるんです。

どうしてか。

そもそも,「タダで貸す」と書くと,「タダ」という部分にばかり目がいってしまい,その本質が見えてきません。

「タダでの貸し借り」は,「タダ」の点に着目すればいい話じゃないんです。

着目するべきは「タダ」じゃなくて,「どうしてタダなのか?」という点です。

多くの方が思ったように,「タダで土地やマンションを貸す人なんているの?」という感覚が,めちゃくちゃ大切です。

そうなんです。ふつうは,タダで土地やマンションなんて貸しません。

「だから,タダで土地やマンションを貸すやつは頭がおかしい」と思ってしまうのは,ちょっとせっかちさんです。

世の中,そんなに頭がおかしい人はいません。ですから,やっぱり,「ふつうは,タダで土地やマンションを貸さない」のです。

みんな,そんなのわかっています。

それでもなお,「タダで貸す」人がいるわけで,それはどうしてなのか。そこに目を向けるべきです。

「タダで貸す」理由としてよくあがるのが,親族関係です。

父が息子にタダで土地を貸す,マンションを貸す。

見返りを求めていたり求めていなかったりと,いろんなケースがありますが,貸す方と借りる方に親族関係がある場合がめちゃくちゃ多いです。

僕が経験したのは,妻の父親が妻の夫に土地を貸すケースです。

妻の父親が,妻の夫に土地を貸す。その土地は,マイホームの建築に使うわけです。

愛娘が結婚して,マイホームを建てると言っている。土地から買うとすると,借りるローンも多額になる。

だったら,自分がもともと持っていた土地を,妻に貸すつもりで,妻の夫に貸すのです。

実際に問題になる「使用貸借」って,こういうケースです。

友達と漫画やCDを貸し借りするという,お気楽なものは,まず紛争になりません。

貸し借りする対象が,土地やマンションなど高額で,なおかつ,貸し借りする当事者間に,親族関係などの人間関係が,貸し借りする前から元々存在している。

これが,「使用貸借」(タダでの貸し借り)の実態です。

そして,親族関係などの人間関係は,とにかく感情的になりやすいです。

親子関係,夫婦関係などの親密な人間関係だからこそ,紛争となった場合に対立が激しくなります。このことは,多くの方に同意していただけるような気がします。

こう考えると,「使用貸借」って,紛争になりやすい類型な気もします。

「タダで貸す」からこそ,貸し借りする当事者に,貸し借りする前から,親族関係などの親密な人間関係があるわけで,その人間関係は,いざ紛争になったら対立が激しくなりやすい。

だから,「使用貸借」は,僕ら弁護士がきちんと理解しておく必要がある契約類型だと思います。

さて,「使用貸借」でよく問題となるのは,「使用貸借」が終了したかどうかです。

「タダで貸す」からこそ,貸し借りの前から人間関係が存在していると何度も繰り返していますが,このことは,使用貸借は「契約書が作られにくい」というベクトルにも働きます。

親密な人間関係があるので,わざわざ契約書を作成しようなんて思わない人がほとんどです。

例えば,先ほどの,妻の父親が妻の夫に土地を貸す,という場面でも,妻の父(地主)が,妻の夫との間で使用貸借契約書を作成するなんて,まずないでしょう。

わざわざ契約書を作成するなんて,相手を信頼していないかのようです。

これから,娘が,自分で選んだ夫と一緒にマイホームを建てて,家族で幸せに暮らそうとしているわけで,そんな,いわば「イケイケ」状態の娘夫婦に,「念のため契約書を作成しておこう」とは言えないし,そもそも,契約書を書くべきものだという意識すらないでしょう。

こういう感じで,「タダで貸す」からこそ,契約書がないケースが多いのも,使用貸借の特徴です。

だから,人間関係の感情的な対立が激しくなりやすいにもかかわらず,その処理方法が明確に決まっていない,という特徴もあります。

「タダより高い物はない」なんて言われたりしますが,それは1つの真理なのかもしれませんね(笑)。

「タダで貸す」からこそ,

①貸し借りの前から人間関係が存在する

②人間関係が存在するからこそ,紛争になった後で感情的な対立が激しくなりやすい

③人間関係が存在するからこそ,契約書を作成しないことが多く,紛争になった後の処理に困る

書いていて思いましたが,使用貸借は,激しい紛争になりやすい類型ですね。

感情的な対立が激しくなりやすい+契約書を作成しない=激しい紛争が巻き起こる

という仕組みが,使用貸借にはあるからです。

さて,使用貸借がいつ終了するのか,という話に戻ります。

タダでの貸し借りの前提となった人間関係が壊れると,貸しているほうは返してほしくなります。

先ほど書いた,妻の父親が妻の夫に土地を貸すという例でも,娘夫婦に離婚問題が勃発しました。妻の側から夫に離婚を請求することになったのです。

父親とすれば,自分の娘が離婚したいと訴えている夫に対し,土地を引き続き貸せるわけありません。当然ながら,土地を返してほしいと思います。

ただ,夫としては,マイホームは自分名義で建てたし,住宅ローン返済原資も,毎月の給料から支払っていたわけですから,土地を返せと言われても困ってしまいます。土地を返す=マイホームを取り壊す,です。一生懸命働いて返済してきた住宅ローンで建てたマイホームを,取り壊してほしいなんて,そんな要求には応じられません。

あくまで法的にはどうなるかというと,妻の父親と夫の間で成立している「使用貸借」が終了しているならば,夫は,マイホームを取り壊して土地を返す必要があります。

あくまで,法的にはです。

もちろん,マイホームを取り壊すのはもったいないと双方が考えて,例えば,妻の父親がマイホームを夫から買い取ったり,逆に,夫が土地を買い取ったりと,そういう解決方法もあります。ほかにも,使用貸借じゃなくて「賃貸借」に切り替えて,毎月借地料を払う,というケースもあり得るでしょう。

ただ,マイホームの買取代金,土地の買取代金,借地料の金額に折り合いがつかなければ,あくまで,↑に書いた話に戻ります。「使用貸借が終了しているなら,マイホームを取り壊す」です。

使用貸借から賃貸借に切り替えると,借地借家法が適用されるので,地主である妻の父親としては,ますます土地を返してもらいにくくなりますから,賃貸借に切り替えて終わるケースもどれくらいあるか,微妙です。

こう考えてくると,使用貸借が「いつ終了するのか?」は,めちゃくちゃに重要な問題で,はっきりさせておく必要があります。

特に,使用貸借は契約書を作成しないケースが多いので,法律にどう書かれているか?がめちゃくちゃ大切です。

じゃあ,法律にはどう書いてあるかというと,

①目的に従い使用収益を終える

または

②目的に従い使用収益するのに足りる期間が経過する

のどちらかで,使用貸借は終了する,と書かれています。

「目的」とは,使用貸借の「目的」,つまり,「何のためにタダで貸したのか?」という点です。

↑で書いた,父親が娘の夫に土地を貸したケースであれば,「娘家族が住むマイホームを建てるための敷地を提供すること」が,使用貸借の「目的」です。

この目的に従って「使用収益を終える」と,使用貸借は終了します。

この目的に従った「使用収益」とは,父親から見れば,「娘家族がマイホームに住んでいること」で,その使用収益を「終える」とは,「娘家族がマイホームに住まなくなること」です。

娘が夫と離婚し,娘の子どもたちも全員マイホームから離れ,夫がひとり暮らしするようになったら,その時点で「使用収益を終えた」と認められてしまうでしょう。そうなると,使用貸借が終了してしまうので,夫は,マイホームを取り壊さなきゃいけなくなります。

ただ,妻がマイホームを離れて別居を開始しても,それだけで,「目的に従った使用収益を終えた」とは言えないでしょう。仮に離婚が成立しても,子どもたちがマイホームに住み続けていたら,娘「家族」が住むマイホームの敷地を提供する,という使用貸借の目的に従った使用収益が継続していると評価される可能性があります。

マイホームを取り壊すことは,夫にとっては,生活場所を奪われることを意味しますから,裁判所もかなり慎重に判断するはずです。

妻との離婚が成立し,妻も子どもたちもマイホームから私物を全部撤去して,夫のひとり暮らしとしての実態しかないようなケースであれば,「目的に従った使用収益を終えた」と認めざるを得ず,使用貸借の終了が認められてしまうでしょう。

このケースでは,↑の①と②であまり違いは出ないと思います。

妻が別居したとしても,子どもたちの生活実態が継続しているのであれば,「目的に従った使用収益を終えていない」でしょうし(①),「目的に従し使用収益するのに足りる期間を経過していない」でしょう(②)。

ただ,②は,目的に従った使用収益が継続していても,目的に従い使用収益するのに足りる期間が経過したら使用貸借が終了する,ということですから,①と②は明らかに違います。

そして,②は,民法改正に伴い,解除通知が必要であることが明記されましたので(①は解除不要で使用貸借終了),①と②を区別する必要がある場面も出てくると思われます。

「タダで貸す」と紛争になりやすい。それは,「タダで貸す」ウラには,貸し手と借り手の人間関係が既に存在するから。

今日は,ここがいちばんのポイントでした。

それではまた明日!・・・↓

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