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#457 扶養的財産分与:離婚後に元配偶者を「扶養する」の?

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【 今日のトピック:扶養的財産分与 】

今日は,扶養的財産分与についてお話します。

さて,離婚に伴って「財産分与」をするのは,有名だと思います。

結婚中に夫婦で築いた財産をはんぶんこにするのが「財産分与」です。

財産の面から,夫婦関係を清算するのが「財産分与」なのですが,実は,財産分与には,「清算」だけでなく,「扶養」の側面もあることが認められています。

「結婚中に築いた財産をはんぶんこにする」のは,「清算的な」財産分与です。正確に言うと。

結婚中に,夫婦がそれぞれで築いた財産を,夫婦2人で築いたものとみなし,離婚に伴って,はんぶんこにする(=清算する)のは,「清算的財産分与」に振り分けられ,それとは別に,「扶養的財産分与」もあり得るのです。

「扶養的財産分与」とは,夫婦が築いた財産をはんぶんこにするのではなく,離婚した後に,夫婦のどちらかが,夫婦のどちらかを「扶養する」ための財産分与です。

ここで,「はて?」と疑問が浮かびます。

夫婦のどちらかが,夫婦のどちらかを「扶養する」って,なんか,当たり前のようにも見えますが,ちょっと立ち止まって考えてみましょう。

結婚中に,夫婦がお互いを「扶養する」,つまり,「養う」のは,普通です。

法律にも,夫婦は互いに「扶助する義務」があると書かれています。「扶助する義務」は,「扶養する義務(養う義務)」と同じ意味です。

夫婦には,もともと何の血縁関係もないのですが,婚姻届を提出した途端に,お互いがお互いを養う法的義務が発生します。

(ここで,「結婚てこわいな」と思うかどうかは人それぞれだと思いますが,血の繋がりもない人を養う義務が,法的に発生するなんて絶対にイヤだという人は,絶対に結婚しちゃダメです。)

このように,婚姻届を提出して,法的に夫婦となった後に,「互いに互いを養う義務」を負うのです。

婚姻届を提出する前は「夫婦」ではありませんから,「互いに互いを養う義務」は発生しません。

このことは,離婚する場合にも当てはまります。

離婚すると,その男女は,法的には夫婦ではなくなります。

離婚すると,戸籍に離婚した日が記載されますが,その戸籍に書かれた離婚日から,その男女は法的に夫婦でなくなるのです。

そうすると,夫婦であることを理由に発生していた「養う義務」も,離婚した途端になくなるわけです。

離婚した男女は,夫婦ではなくなるので,「互いに互いを養う義務」から解放されます。

つまり,離婚後は,かつての配偶者を養わなくていい(扶養しなくていい)のです。

そうすると,「扶養的財産分与」っておかしいですよね?

離婚後に扶養する必要のない(養う必要のない)にもかかわらず,元配偶者を扶養するために(養うために)財産分与するなんて,やりたくないに決まっています。

というか,離婚後は,法的に扶養義務を負っていないにもかからず,離婚後の元配偶者を扶養することを目的とした「扶養的財産分与」を,最高裁が認めてしまっているのはおかしいような気がします。

「扶養的財産分与」は,最高裁も認めているのです。

扶養義務を負っていない元配偶者に対して,「扶養的財産分与」を「しなきゃいけない」とまでは,最高裁も明言していませんが,扶養的財産分与が「あり得る」ことは明言しています。

扶養義務を負っていない元配偶者に対し,「扶養的財産分与」が「あり得る」なんて,どういう理屈なのでしょうか。

扶養義務を負っていないのであれば,扶養的財産分与なんて「あり得ない」ような気もするんですが,最高裁は,この考え方はとっていません。

おそらく,どの裁判官も,この最高裁の考え方に従って,扶養的財産分与は「あり得る」と考えているでしょう。

こんなふうに,この日本では,扶養義務を負っていない元配偶者に対して,「扶養的財産分与」として何らかの財産を与えることが認められています。

とはいえ,「扶養的財産分与」の根拠を,扶養義務に求めることはできません。

離婚した後の男女は,いくら「元配偶者」とはいえ,,法的には完全に他人です。扶養義務なんて負っているわけありません。

しかし,夫婦間に生まれた子どもが,片方の配偶者に引き取られて養育されているのであれば,「完全に他人」とまでは言えないかもしれません。

例えば,妻が子どもの親権者となって養育しているのであれば,その妻を,夫が扶養する必要があるような気もします。

しかし,↑の例で,夫は,子ども父親として扶養義務を負っていて,この扶養義務は,「養育費」を支払う形で果たしています。だから,子どもを引き取って養育しているとしても,それが「元配偶者に対する」扶養義務の根拠にはなりません。

子どもに対する扶養義務は,養育費を支払うことで果たしているんですから,子どもの養育を理由に,妻も扶養しろ!ということにはなりません。

じゃあ,「扶養的財産分与」の根拠って,何なのでしょうか。

手元の本を読んでも,特に記載がなかったので,ここからは僕の勝手な意見なのですが,「扶養的財産分与」の根拠は,「正義」なんだと思います。

例えば,婚姻中ずっと専業主婦だった妻が60代で離婚し,年齢的に離婚後の就職も見込めず,離婚後に生活費を得る手段がなくなってしまう場合で,離婚に至った理由も,夫が不倫して家庭を顧みず,生活費も渡してくれなかったというケースを考えてみましょう。

この場合,離婚の原因を作り出したのは夫であるにもかかわらず,離婚してしまうと,妻が生活費を得る手段を完全に絶たれてしまい,経済的に困窮してしまいます。

まあ,夫婦で築いた財産がたくさん残っていれば,その財産を,「清算的財産分与」として妻に半分渡すことで,経済的な困窮をある程度回避することもできます。

しかし,「清算的財産分与」のみだと妻の経済的困窮が回避できない場合,清算的財産分与に加えて,何らかの財産的な給付が必要になってくることもあります。

こういう場面,つまり,清算的財産分与だけでは元配偶者の経済的困窮が回避できず,そういった離婚後の状況が「正義に反する」場合に限って,「扶養的財産分与」が認められるんだと思います。

本来扶養する必要がない元配偶者に対して,扶養をさせようとするのが「扶養的財産分与」なのですから,それを正当化するには,「困窮を放置するのは正義に反する」と認められる場面に限られると僕は思います。

【 まとめ 】

「扶養的財産分与」は,本来扶養する必要のない元配偶者を扶養する目的で,何らかの財産を渡すことです。

扶養しなくてい元配偶者を「扶養する」のであれば,その場面はかなり限定されるべきでしょう。

元配偶者が,清算的財産分与を行ってもなお,離婚後に経済的に極度に困窮し,その状態を放置することが,正義の観点から許されないような場合に限って,扶養的財産分与が出てくると思います。

「扶養的財産分与」は,「清算的財産分与」と並べられることもありますが,メインはあくまで「清算的財産分与(結婚後に夫婦で築いた財産のはんぶんこ)」です。

扶養的財産分与を請求できるのは,かなり例外的な場面なので,ご注意ください。

それではまた明日!・・・↓

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