遺留分が現物返還だった理由:今はお金で払うけれど
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このブログでは、2019年7月にうつ病を発症し、それをきっかけに同年12月からブログを始めて、それ以降、700日以上毎日ブログ更新してきた、しがないサラリーマン弁護士である僕が、日々考えていることを綴っています。
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【 今日のトピック:遺留分 】
「遺留分」という制度について聞いたことがある人は多いと思います。
例えば、遺産全部を長男に相続させるという遺言を書いたとしても、他の相続人(長女や二男や妻)は、遺留分をもらえる、という感じで理解されている人が多いでしょう。
これは、正しい理解です。
そして、遺留分は、お金でもらえる、と理解している方もいらっしゃるでしょうが、これは、2019年7月1日以降に亡くなった人の相続については、正しいです。
2019年6月30日までに亡くなった人については、遺留分を確保する方法は、現物返還が原則です。
例えば、ある男性が、時価4000万円の不動産と預金2000万円を残して亡くなり、相続人は、妻と長男と長女の4人としましょう。
そして、この男性が、遺産全部を長男に相続させる、という遺言を残したとしましょう。
この男性が、2019年6月30日亡くなった場合、長女は、遺留分をお金で払えという請求はできず、現物で返せ、という請求しかできません。
長男の側から「お金で払うよ」と言ってくれれば、お金でもらうことができますが、そう言ってくれない限り、現物でしかもらえません。
長女の遺留分は、法定相続分4分の1の半分=8分の1なので、不動産8分の1と、預金250万円をよこせ、と長男に請求することになります。
これに対して、2019年7月1日に亡くなった場合は、遺留分はお金でしか請求できないので、遺産総額6000万円の8分の1=750万円をお金で支払うよう、長男へ請求することになります。
ただ、遺留分は、自分の取り分が遺留分に不足すると把握してから1年で時効となるので、例えば、遺産全部を長男に相続させるという遺言を見た場合、遺言を見た日から1年が経過すると、遺留分は請求できなくなります。
亡くなってから10年が経過すると、遺言の存在すら知らなくても、遺留分は請求できなくなります。
「遺言でも侵せない権利」と遺留分を理解している人も多いでしょうが、しか、ただ指を加えて待っているだけでは1円も入ってきません。
きちんと、権利行使して初めて、遺留分を確保することができるわけです。このへん、日本人が苦手とする部分ですよね。
法律がおかしい、と主張することもできますが、明治維新の際に、日本は、ヨーロッパを真似て近代化しているので、ヨーロッパ同様に、きちんと権利を行使しなければダメよ、という近代社会のルールに従っています。
そこがおかしいと思うなら、明治維新からやり直す必要があるので、結構たいへんです。
さて、遺留分の話をしてきましたが、そもそも、遺留分が現物返還となっていたのが、僕は最初疑問でした。
「現物じゃなくて、お金でもらえたらいいのに」と考えていましたが、これは、遺留分の成り立ちについて理解が不十分でした。
そもそも、相続の制度は、ずっと「家督相続」でした。
つまり、戸主の長男が、家督相続人として、その家の財産全部を相続していたのです。
これが、「イエ制度」として、今は、めちゃくちゃ批判の的となっていますが、家督相続が生まれた背景を踏まえれば、家督相続は当然だと僕は思います。
というのも、日本では、水田を代々受け継いできたわけですが、今みたいな相続制度だと、水田を代々受け継げないのです。
長男だろうが、二男だろうが、平等に相続できるとすると、水田が、どんどんバラバラになっていきます。
日本で人々が生き残ってこれたのは、自分のイエの水田を、バラバラにすることなく受け継いできて、家族みんなで農作業に勤しみ、みんなの食料を確保してきたからです。
こういった日本での生存戦略、というか、定住生活を始めた人類の生存戦略として、家督相続による土地の分散防止は必須でした。
しかし、同時に、遺言は認められていて、せっかく家督相続によって土地を受け継いできたにもかかわらず、ある不届き者が、自分の土地を、別のイエに全部相続させたりしちゃうんです。
そうなってしまっては、イエ全体が滅亡してしまいます。
本当に、死んでしまうのです。イエというコミュニティ全体が死んでしまう。
そのときに、お金なんてあっても仕方ないんです。生きるのに必要なのは、お金ではなくて土地です。
土地に食料を生み出してもらわないと、イエが生き残ることはできません。
だから、「遺留分」が生まれたんです。ある戸主が、自分が戸主である(土地全体の所有権を持っていること)にかこつけて、土地を別の人に譲ったとしても、その土地を現物で返してもらえるようにしたのが「遺留分」です。
でも、土地って、正確に言えば、戸主の持ち物ではないのです。戸主個人が所有しているのではなく、イエ全体が所有しているのです。
そのイエが、過去から現在、未来と受け継いでいくもので、そこには、土地の所有権がただ存在するわけではなく、イエの生まれから続くストーリーもあるのです。
そういった、「共同体(コミュニティ)による所有」を知らない大バカモノが、遺言によって、別のイエに土地が渡ったとしても、遺留分の範囲で、遺言の効力を打ち消そうとしたのが、「遺留分」という制度なのです。
だから、遺留分は、現物じゃなきゃダメなんです。その成り立ちに思い至ると、現物で返してもらうに決まっているんです。
しかし、2019年7月1日から、現物ではなくて、金銭による返還になったのは、時代が変わったからです。
「共同体(コミュニティ)による所有」という観念は崩壊し、所有権は、個人による所有に還元されました。
また、所有権は金銭と交換可能と考えられたことにより、煩雑な現物返還よりも、金銭による補填のほうが簡単でいいよね、と制度が変わりました。
僕は、今の時代を前提にすれば、遺留分を金銭で取り戻すのは適していると思います。
現物で土地をもらっても、仕方ないですよね。↑の例だと、宅地の8分の1をもらっても意味ありません。
ただ、こういった、遺留分の成り立ちに思い至らないまま、「現物返還wwwwクソワロタwwww」と、思考停止になるのはよくないなと思っています。
何にでも、理由があるんです。
どの時代も、人類は、ベストを尽くしてきたわけで、今の時代の視点で過去を見て、「おかしい」と断ずるのは軽率だし、自分の視野を狭めるだけだと思います。
それではまた明日!・・・↓
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