#451 訴訟代理(そしょうだいり)と司法書士
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【 今日のトピック:司法書士の訴訟代理権 】
「訴訟代理権」とだけ書くと,めちゃくちゃ難しい感じがしますが,この「訴訟代理権」は,弁護士の仕事と切っても切り離せません。
この「訴訟代理権」を独占している存在こそ,弁護士だからです。
弁護士の価値は,この「訴訟代理」に集約されるのかもしれません。
「訴訟代理」とは,「訴訟」を「代理」することです。
「訴訟」とは,まあ,裁判のことなのですが,「代理」とは,本人の代わりに手続きを進めることです。
本人の代わりに手続きを進めている人を,「代理人」と呼びますが,この「代理人」が進めた手続きは,本人に効果を及ぼします。
例えば,僕が地主(土地所有者)であるとして,自分の土地の売却を,自分の息子に「代理人」として任せた場合,土地の売買契約を現実に結ぶのは息子ですが,その売買契約は,本人である僕と買主さんとの間で成立したことになります。
自分の息子にどこまで任せているかわかりませんが,仮に,売却代金も決めていいし,どの土地を売却するかも決めていい,というとこまで任せていれば,息子が決めた売却代金で,息子が選んだ土地を売却しなきゃいけなくなります。
あくまで,土地の買主は,僕本人から土地を買い受けたことになります。
目の前にいる人間は,僕の息子だけなのですが,土地を売ったのは,その息子ではなく,僕です。
これが「代理」や「代理人」の意味です。
じゃあ,「訴訟代理」とは,どういう意味になるでしょうか。
先ほどの,「土地売却」の代理は,訴訟代理ではありません。なぜなら,「土地売却」が「訴訟行為」ではないからです。
さて,難しい言葉が出てきました。「訴訟行為」なんて,普段の生活で出てくることはまずありません。
「訴訟行為」とは,訴訟を提起したり(訴状の提出),裁判所に出頭して自分の主張を述べたり,その他,訴訟に関連していろいろと申し立てたりすることを指します。
あんまりイメージしにくいと思いますが,例えば,「訴訟を提起する」って,裁判所に「訴状」を提出することを意味します。
この,「裁判所に訴状を提出する」という行動自体は,別に郵便でも提出できるのですが,ただ,訴状には,その訴状を誰が書いたのかを書かなきゃいけません。
「文責」と言われるやつです。「訴状」という文書は,誰の名前で(誰の責任で)書いたのかを書かなきゃいけません。
この訴状は,誰の意思を表したものなのか,訴状に書く必要があるわけですが,ここに使える名前が,本人以外なら,弁護士に限定されています。
この「弁護士に限定されている」というのが,訴訟代理を弁護士が独占していることの意味です。
日本では,弁護士を使わずとも訴訟を提起することができます。だから,訴訟を提起する本人(「原告」と呼ばれます)が,自分の名前で訴状を書いて,郵送なり,直接裁判所に持参するなりして,訴訟を提起することができます。
ただ,原告以外の名前で訴状を書く場合,それは,弁護士に限られるのです。
この「訴訟代理」を弁護士が独占するようになった理由は,「三百代言」なんて言われます。
「三百代言」とは,いい加減な弁護活動しかできないにもかかわらず,紛争を仲介してあげることで,報酬を巻き上げるような人のことを指します。
専門的な知識も能力もないのに,紛争に首を突っ込まれると,余計に紛争が複雑化してしまいますよね。
だから,最終的に紛争を解決に導く「訴訟」では,知識・能力を備えた専門家のみが,代理人となれるようにしたのです。
その結果,「弁護士」という専門家のみが,訴訟で代理人となることができるようになりました。
さて,こんな感じで,「訴訟代理」は弁護士が独占しているのが原則なのですが,これには例外が結構あって,その1つが,簡易裁判所における司法書士の訴訟代理です。
「簡易裁判所」という字面だけ見ると,なんか軽そうな印象を与えてしまいますが,簡易裁判所も裁判所であることは間違いありません。
簡易裁判所に訴訟を提起することは,もちろん可能で,その訴訟も,「訴訟代理は弁護士が独占する」という原則のもと,弁護士しか代理人として活動できないはずです。
ただ,司法書士も,簡易裁判所であれば,訴訟代理人になれると法律に書かれているので,この点で,「訴訟代理の独占」は少し緩和されています。
こうなると,大切なのは,簡易裁判所に提起できる訴訟は何なのか,ということです。
日本には,最高裁判所,高等裁判所,地方裁判所,簡易裁判所があります。他にも「家庭裁判所」がありますが,家庭裁判所は,離婚や相続など家事事件や,20歳未満の犯罪(少年事件)を審理する場所なので,ちょっと毛色が違います。
さて,「訴訟」は,ふつう,簡易裁判所または地方裁判所に提起するのですが,この2つを分けるのは,請求額です。
140万円以下の請求額であれば,簡易裁判所に訴訟を提起します。
請求額が140万円を超える場合は,地方裁判所に訴訟を提起します。
ただ,140万円以下の請求であっても,地方裁判所に訴訟を提起することは可能です。訴訟を提起された地方裁判所が,140万円以下の請求だけれども,地方裁判所で進めていいと考えれば,そのまま,地方裁判所で手続きが進みます。
これに対し,請求額が140万円を超える場合,簡易裁判所に訴訟を提起することはまずありません。
おそらく,訴状の記載から140万円を超えることが明らかな場合,簡易裁判所は,訴状を受け付けてくれないと思います。
一応,紛争の相手(被告)が,地方裁判所と間違っていることを主張しなければ,そのまま簡易裁判所で進めることもできるのですが,これを理由に,訴状を受け付けてくれるかどうかは裁判所次第です。
この「140万円」は,土地や建物(不動産)の場合も,同じように当てはまります。
例えば,140万円以下の土地の名義変更を請求する場合,簡易裁判所に訴訟を提起することができます。
ただ,不動産であれば,140万円以下であっても,地方裁判所に提起することもできます。
不動産以外の場合は,140万円以下の請求額で地方裁判所に訴訟を提起すると,あくまで,裁判所が「このまま進めていい」と思って初めて,地方裁判所で手続きを進められるのですが,不動産の場合は,裁判所が「このまま進めていい」と思うかどうかにかかわらず,地方裁判所に最初から訴訟を提起することができます。
だから,不動産に関して,140万円以下の請求額で訴訟を提起する場合,簡易裁判所にも地方裁判所にも,どちらにも訴訟を提起することができるのです。
どちらに提起するのかは,自由に選んでいいです。
しかし,司法書士を代理人とする場合は,そうはいきません。司法書士が訴訟代理人となれるのは,あくまで,簡易裁判所だけだからです。
そうすると,不動産に関して,簡易裁判所と地方裁判所のどちらにも訴訟を提起できるとしても,司法書士が訴訟を提起できるのは,簡易裁判所だけなのです。
そうなると,不動産に関して訴訟を提起しようとする司法書士は,簡易裁判所に訴訟を提起することになります。
ただ,ここで,ものすごい条文が立ちはだかります。
なんと,不動産に関する訴訟が簡易裁判所に提起された場合,その訴訟を,地方裁判所に移したいと被告が申し立てた場合,必ず,その訴訟を地方裁判所に移さなきゃいけない,という条文が民事訴訟法にあるのです。
これには驚きました。
不動産に関する訴訟を,わざわざ簡易裁判所から地方裁判所に移す必要はなさそうですが,ただ,正直なところ,簡易裁判所の裁判官に対する弁護士の評価は,かなり厳しいです。
弁護士としては,なるべく,簡易裁判所を回避したいと考えています。
お客さんからの大切な依頼を誠実に処理しなければいけない弁護士としては,回避できるのであれば,簡易裁判所を回避します。
まあ,そう思っていない弁護士もいらっしゃるでしょうが,僕は,なるべく簡易裁判所を回避したいと思っています。
そうなると,簡易裁判所で不動産に関する訴訟が提起され,その訴訟の手続きを被告から依頼された弁護士としては,先ほど書いた民事訴訟法の条文に基づいて,訴訟の場を地方裁判所に移すと申し立てることが多いです。
そうなると,原告の訴訟代理人として簡易裁判所に訴訟を提起した司法書士は,地方裁判所に訴訟が移された途端に,訴訟代理人ではなくなってしまいます。
司法書士が訴訟代理人となれるのは,あくまで簡易裁判所だけですから。
【 まとめ 】
実は,土地を返せという訴訟が簡易裁判所に提起され,この訴訟の被告の代理人(土地を返せと言われている側の代理人)となったのですが,依頼を受けた途端に,訴訟を,簡易裁判所から地方裁判所に移すよう申し立てました。
この訴訟は,司法書士が原告の訴訟代理人となっていましたが,地方裁判所に移った途端に,訴訟代理人ではなくなってしまいました。
司法書士は,事前に,このこと(地方裁判所に移送されたら代理人ではなくなってしまうことと,必ず地方裁判所に移送されてしまう条文が民事訴訟法にあること)を説明しておく必要があるでしょうし,司法書士に対して,不動産に関する訴訟を依頼する場合は,後日,司法書士の訴訟代理権が消滅してしまうことに気をつけなければいけません。
それではまた明日!・・・↓
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