#466 ほんの少し難しい話:不当利得
【 自己紹介 】
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【 今日のトピック:不当利得 】
「不当利得」って,聞いたことある人いらっしゃるでしょうか。
難しそうな響きですが,考え方は簡単です。
誰かが損失を被ったことで,誰かが利得を得た場合,その利得は損失を受けた人に返還しなきゃいけませんよね,というだけです。
ただ,例えば,おじいさんが孫にお年玉として5万円をあげた場合,これも,おじいさんが損失を被ったことで,孫が利得を得たことになりますが,これも,「返せ!」という話にはなりません。
この5万円は「贈与」なので,おじいさんが損失を被って,孫が利得を得たことに,法的根拠があるので,「返せ!」とはなりません。
ここが「不当利得」のミソで,あくまで,利得が「不当」であるからこそ,「返せ!」という話になるわけです。
誰かが損失を被ったことで,誰かが利得を得た場合に,そのことが「不当」である,つまり,「法的根拠がない」ケースに限って,「返せ!」と言えるわけです。
ここだけ考えると,めちゃくちゃ単純でわかりやすいんですが,どうも,そうじゃないんです。
不当利得は,とにかく難しいです。民法の教科書にも,「不当利得は難解」と堂々と書いてありました(笑)。
↓の本ですが,著者は民法改正の責任者でもある有名な教授なんですが,正直な方だと思います(笑)
で,「不当利得」は,民法に書かれていて,間違いなく司法試験の受験範囲に含まれているんですが,あんまり勉強しません。正直なところ。
だから,多くの弁護士が,不当利得についてよくわからないまま,司法試験に合格し,弁護士になっていると思います。
少なくとも,僕はそうです。不当利得についてよくわからないまま,司法試験に合格することができました。
まあ,司法試験って,合格した年の司法試験で合格点以上を取れれば合格できるというシステムですから,何もかも知っていなくても合格できるんです。「司法試験合格」とは,合格した年の問題については,一定程度の知識を身につけていたことを示しているだけです。
とはいえ,僕みたいに,不当利得について何も知らないまま合格できたのは珍しいとは思います。
さて,不当利得の話に戻りますが,この「不当利得」には,2つの類型があるようです。
不当利得の条文は1つしかないのですが,その1つの条文に,2つの類型が隠されているらしいのです。
その2つの類型とは,「給付利得」と「侵害利得」です。
「給付利得」とは,例えば,ゴッホひまわりを50億円で売買するという売買契約があった場合に,代金も支払われ,ゴッホひまわりも買主の手元に渡った後,そのゴッホひまわりがニセモノだったことが発覚し,この売買契約が無効となったとしましょう。
売買契約が無効になったのですから,お金は返さなきゃいけませんし,ニセモノとはいえ,受け取ったゴッホひまわりも返さなきゃいけません。
この場合に,「50億円を返せ!」と請求する場合を「給付利得」と呼ぶらしいです。
ただ,民法改正によって,この「給付利得」の類型は,不当利得の条文(民法703条)とは別に,新しく「民法121条の2」という条文ができたので,不当利得から外されました。
だから,今は,「侵害利得」のみが,「不当利得」なのです。
で,「侵害利得」は,「給付利得」とは違って,損失を被った人と,利得を得た人との間に契約関係がないんです。
契約関係も何もなしに,損失を被って利得を得たのが「侵害利得」なのですが,例えば,僕が持っていたパソコンを誰かに盗まれた場合に,僕が損失を被ったことで,盗んだ人が利得を得ています。
これが,「侵害利得」としての不当利得に該当します。僕は盗まれているので,盗んだ人との間に契約関係はありません。しかし,僕の損失によって盗んだ人が利得を得ているので,不当利得として,盗んだ人に対し,パソコン10台を返せと請求できます。
で,この「不当利得」ですが,相続の場面でよく使います。
亡くなった後に,亡くなった本人の預金を誰かが勝手に引き出して着服していた場合に,それを返せと請求することがよくあるんですが,その際の法的根拠として「不当利得」を使うんです。
この場合の不当利得は,「侵害利得」です。亡くなった本人と,勝手に引き出した人との間に契約関係はないからです。
ただ,この「不当利得」には,難問が1つあるんです。
先ほど,不当利得を返せと請求する場合,損失によって利得を得たことが「不当」である,つまり,「法的根拠がない」からこそ,返せ!と請求できる,ということを説明しました。
不当利得を返せと請求する場合に,「法的根拠がない」という要件が必要なのは間違いないのですが,しかし,この「法的根拠がない」を,請求する側が立証しなければいけないのか,それとも,請求を受けている側が「法的根拠がある」ことを立証しなければいけないのか,結論が出ていないんです。
これって,弁護士にとっては死活問題です。
例えば,請求する側が立証しなければいけないとすると,請求する側の弁護士は,立証に失敗したら負けてしまいます。
逆に,請求を受けている側が「法的根拠がある」ことを立証しなければいけないとすると,請求する側の弁護士は,立証できなくてもいいんです。相手の弁護士が立証に失敗すれば勝てるので,自分が立証に成功するかどうかを心配するのではなく,相手の弁護士が立証に失敗すればそれでいいんです。
これ,めちゃくちゃデカイです。
自分が立証しなきゃいけないのか,相手の弁護士が立証しなきゃいけないのか,が違ってくるわけですから。
で,今日,↓の本を読んでいたら,侵害利得の場合は,請求を受けている側が,「法的根拠がある」と立証しなきゃいけないと書かれていたんです。
これは,お!と思いました。
請求している側は,損失を被ったせいで,相手が利得を得ていることだけ立証すればよくて,「法的根拠がない」ことは立証しなくていいのは,請求する側にとってめちゃくちゃデカイです。
ただ,最高裁の判例に,請求する側が,「法的根拠がない」と立証しなきゃいけませんよ,と明確に書いているものがあるんです。
うーん,これはどちらを信じればいいのでしょう・・・。
普通であれば最高裁を信じるのでしょうが,ただ,僕はどうも,↑の本を信じたいような気がしています。
というのも,「侵害利得」のケースでは,損失を被った人は,財産が侵害されているわけで,その場合は,所有権に基づく請求と同様,侵害している相手の側で,侵害が正当であることを立証しなければいけないからです。
このことが,↑の本に書かれていて,とても説得的だと思いました。
ただ,↑の最高裁判例が,侵害利得のケースで,それでもなお,請求する側で「法的根拠がない」と立証しなければいけないと述べたんだとすると,↑の本はムリがあるかなぁと思います。
今日は,↑の最高裁判例が,侵害利得のケースなのか,給付利得のケースなのか事案をじっくり読んで把握しようと思っていたのですが,時間がなくて,まだ読めていません(笑)。
明日,じっくり読んでみたいと思います。
昭和59年の最高裁判決で,今となっては大昔なのですが,その割に,めちゃくちゃ判決文も長くて,読むのがかなり大変です(笑)。
明日読んで,結論を出そうと思います。
【 まとめ 】
今日は,給付利得と侵害利得の区別すら知らなかった自分がとても恥ずかしくなりました(汗)。
そして,この2つにすら当てはまらない,転用物訴権と騙取金弁済があるらしく,そこまでいくと,もう僕も手がつけられません(笑)。
僕としては,侵害利得の場合であれば,請求する側が「法的根拠がない」と立証しなくていいという結論を出したいので,もう少しゆっくり調べて,明日のブログで結論を書きたいと思います。
それではまた明日!・・・↓
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