#438 物事には理由がある:理由を丹念に聞き取って原因を探究する
【 自己紹介 】
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【 今日のトピック:物事には理由がある 】
今日は,『ファクトフルネス』を読んでいました。
2019年1月10日に出版されているので,今となっては2年も前の本です。
データに基づいて正しい思考を身につける,という壮大なテーマに沿って書かれていて,本文だけで350ページもあるので,それなりに読むのは難しそうな印象を与えちゃいそうですが,かなり平易な語り口で,読みやすいです。
今日は,2時間半で150ページくらい読めました。オススメです。
(※実は去年の1月に図書館で予約したのですが,1年がかりでやっと順番が回ってきて,読むことができました。僕の後にも予約者がたくさんいらっしゃるようなので,急いで読みます)
今日は,この本を紹介したいわけではなくて,この本に書かれたエピソードに関連して,僕が弁護士の仕事をする上で大切にしていることについてお話したいと思います。
それは,「物事には理由がある」というものです。
これだけでは,めちゃくちゃざっくりとしか伝わらないので,少しずつ説明します。
↑の『ファクトフルネス』では,チュニジアでのエピソードが書かれていました。
なんと,チュニジアでは,自宅建物を途中までしか建築しないことが一般的らしいのです。
2階建ての自宅建物を,1階だけ建築して2階は建築しない,なんてことが「ふつう」らしいのです。
1階だけしか建築していないのであれば,そもそもその自宅建物は「2階建ての建物」じゃなくて,「平屋(1階建て)」なのでは?という疑問が浮かんできますが,どうやら,その建物は,「平屋(1階建て)」ではなく,あくまで「建築途中」らしいのです。
「建築途中」なのであれば,建築作業を放置するのではなく,さっさと建築を進めて完成させればいいのに,チュニジアでは,建築途中のまま建築作業をいったんストップするのです。
ここからが,このエピソードの肝なのですが,この「自宅の建築途中で作業をストップする」という現実に対し,「アホだなぁ」と思考停止に陥ってはダメだよ,ということが『ファクトフルネス』には書かれていました。
自分の常識に当てはまらない現実を目の当たりにしたときに,常識との不適合の原因を,相手が「アホである」ことに求める。
それはやっちゃいけないよね,と指摘されていました。
実は,チュニジアで自宅建物の建築作業を途中でストップするのは,生き残る知恵の現れだったのです。
チュニジアでは,多くの家庭が,銀行口座を開けず,その結果,貯金もできないし,ローンを借りることもできないのですが,とはいえ,現金を手元に置いておくと盗まれるかもしれないし,インフレで価値が下がることもあります。
こういった事情に備えて,金銭的に余剰が出たときにレンガを購入しておくのです。レンガなら,インフレで価値が下がる危険もないので。
ただ,レンガを保管するスペースはないし,屋外に置いておくと盗まれる可能性があります。
そこで,レンガを購入したら,すぐに購入したレンガを使って自宅の建築作業を少し進めるのです。そうすれば,自宅建物そのものに,レンガで貯蓄することができます。
こういう風に,「自宅の建築作業を途中でストップする」という現実には,ちゃんとした理由があったのです。
にもかかわらず,その理由を考えることを放棄して,思考停止のまま,「アホだなあ」と思ってはいけない。
こういうことが書いてありました。
この,「思考停止に陥らない(勝手に相手をアホとみなさない)」,「物事には理由があるのだから,自分の常識に当てはまらない現実に直面しても,きちんと理由を考える」という観点は,僕も大切にしています。
最近も,↓のブログで,「タダでの貸し借り」について書いたときにも,同じような観点を指摘しました。
土地やマンションを,タダで貸し借りするなんて,一見「アホらしい」のですが,そこには必ず理由があるんです。
その理由を考えようとすらしないと,「アホらしい」で思考が停止し,その事件の本質が見えてこなくなります。
で,もう少し踏み込むと,理由を考える際に,「パターン化」の罠にハマってしまうこともあります。
例えば,「タダで貸し借りする」という場合,貸す側と借りる側に,親子関係などの人間関係が多いということも,↑のブログで指摘しました。
そして,確かに,貸す側である親が,借りる側である子に面倒を見てほしいとか,そういった,見返りを求めているケースが多いです。
ふつうに考えれば,いくら親子とはいえ,何の見返りもなく土地やマンションを貸すとは考えにくいからです。
でも,これは,そういうケースが「多い」というだけで,今直面している事件も,そのケースに当てはまるかどうかは限りません。
本当に何の見返りもなく土地を貸しているパターンもあるでしょうし,逆に,「面倒を見る」どころか,タダで貸す代わりに親の借金の肩代わりを約束されていたりと,「タダで貸し借り」とは評価できないケースもあるでしょう。
この「パターン化の罠」についても,『ファクトフルネス』では指摘されていて,これも,僕の意見と共通していて,印象的でした。
で,僕が弁護士の仕事の醍醐味と思っているのが,まさにここなんです。
・「アホらしい」と思考停止に陥らない
・物事には理由があるんだから,真摯に謙虚に「アホらしい」と思えることにも耳を傾ける
・過度にパターン化しない
こういう思考方法が,弁護士にとって大切です。
確かに,ある程度のパターン化は必要です。
例えば,破産する場合,「お金がない」というのは,全事件に共通していますが,その中でも,ある程度のパターン分けとして,①ギャンブル,②収入減少,③住宅ローンの負担増,④事業の失敗,などに分けられます(もちろん,これ以外にもたくさんありますが)
パターン分けしたほうが,考える筋道は立てやすいので,思考の整理に役立ちます。
ただ,筋道を立てた後は,もっともっと,その事件をよく見るべきです。
・借金はどこから借りているのか,
・どんな仕事をしているのか,
・いつ頃からお金がないと思ってきたのか,
・借金した理由は何なのか,
・借りたお金は何に使ったのか,
事件を「見る」にしても,ある程度の「パターン化した」前提知識が必要ですが,とはいえ,やっぱり,聞き出した情報によって,どんどん聞く内容は変わってきます。
そこが,楽しくて仕方ないのです,僕は。
どんどんどんどん,事件の本質が見えてくる作業が,楽しくて仕方ない。
だから,僕は,破産や刑事事件,少年事件が好きなんです。
こういう事件って,破産や犯罪など,一般的に「良くない」と思われている出来事が実際に起きているという,現実があるわけです。
それは「現実」なので,どれだけ抵抗しても逃れられません。
そういった逃れられない「現実」が,どうして起きてしまったのか。
そこを探求することが,楽しくて仕方ないのです。
そして,原因を探求したら,その原因をどうやって取り除くかを考えなきゃいけません。
例えば,覚せい剤事犯なら,多くの人が覚せい剤に出会わず生きているにもかかわらず,その人は覚せい剤に出会い,逮捕されるに至っているわけで,その原因を確認しなきゃいけません。
その際に,「アホだなあ」」で思考停止しちゃダメなんです。
覚せい剤に手を出したら犯罪だから,逮捕されちゃうことは,全員理解しています。
にもかかわらず,覚せい剤に手を出してしまったことに目を向けなきゃいけません。「アホだなぁ」で思考停止してしまうと,この考えには一生たどりつけません。
破産にしても,借りたお金を返済しなきゃいけないのは,全員知っています。
そして,借りた時点では,全額返済できると心から信じています。
にもかかわらず,全額返済できないどころか,返済していたら生活が成り立たないので,破産してしまっているわけです。
「アホだなぁ」で済ませてしまうと,せっかくの「原因探究」のチャンスを逃してしまいます。
まあ,僕はこういう「原因探究」が純粋に好きなのですが,この「好き」という気持ちは,オマケに過ぎません。
好きかどうかにかかわらず,原因をきちんと探究できなければ,「原因を取り除く」という,僕らの仕事の最終目標を達成できないので,原因の探究は,仕事上不可欠なのです。
破産の原因をきちんと探究して,その原因を取り除く方法や,再び破産を繰り返さないための手段を考えることが,僕ら弁護士の仕事です。
刑事事件や少年事件でも,犯罪に走ってしまった原因を,限られた時間で探究し,原因除去と再犯防止策を考えなきゃいけません。
刑事事件の場合は,原因除去と再犯防止策が,最終的に宣告される刑の重さに直結します。だから,原因探究が好きかどうかにかかわらず,原因は探究しなきゃいけないのです。
破産の場合も,破産せざるを得なくなった原因をきちんと説明し,その原因を除去すること,そして,再び破産しない対策を実行することを,根拠を示して約束できること,これらをきちんと裁判所に伝えなければ,裁判所も,破産の最終目標である「免責(借金チャラ)」を認めてくれません。
【 まとめ 】
今日は『ファクトフルネス』の読書感想文を最初に書きましたが,この本は,弁護士の仕事にも役立つ思考方法が書かれていて,めちゃくちゃおもしろかったです。
・自分の常識に適合しない現実を「アホだなぁ」と思考停止しない
・何事にも理由がある
・パターン化は便利だけど最後の最後は使えない
今日の教訓はこんな感じです。
それではまた明日!・・・↓
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