#439 日照権侵害:日当たりが害された場合の救済
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【 今日のトピック:日照権(日当たりの良さ) 】
今日は,1日中,「日照権」について調べ,考えていました。
「日照権(にっしょううけん)」という言葉は,聞いたことある方が多いかもしれません。
今回初めて事件を扱うことになり,ゼロから知識をインプットしている最中です。
さて,「日照権」なんて書くと,日当たりの良さが権利として保護されているから,日当たりが悪くなったら,それは権利の侵害だ!と,すぐに結論に至ってしまいそうですが,どうやらそうではないようです。
日照権が害された,つまり,日当たりが悪くなった,と紛争になるのは,隣地に建物が新しく建てられた場合がほとんどです。
隣の土地(特に南側の隣地)に,背の高い建物が建てられたせいで日光が遮られ,日当たりが悪くなる。
これが,「日照権」紛争のパターンです。
「背の高い建物が新しく建てられ,日光が遮られた」なんて書くと,日当たりが害された方を救済したくなります。
でも,よくよく考えてみてください。
本来,自分の土地にどんな建物を建てるのかは,地主さんの勝手です。自分の土地なら,好きな場所に,好きな建物を建てていいはずです。
もちろん,建築基準法など,様々な法律によって,いろいろと制約があるので,どんな建物でも合法的に建てられるわけではありませんが,ただ,その制約の中であれば,どんな建物であっても,建てていいはずです。
そもそも,建物を建てる際は,工事を開始するのに先立って,建築確認を申請し,建築確認が下りなければいけません。
建築確認とは,これから建てようとする建物が,建築基準法などの法律を守っているかどうか確認する手続きです。建築確認なしに建物を建築したら,それだけで,その建物は違法建築物となります。
建築確認を申請して,建築基準法違反が見つかれば,是正を求められますし,どうしても是正できなければ,建築確認申請は却下されてしまい,その建物を建築することはできなくなってしまいます。
こんな感じで,建物を建てる際は,着工に先立って,建てようとしている建物が合法かどうかきちんとチェックを受けています。そのチェックをパスしたからこそ,工事を始められたわけです。
だとすれば,建築確認をパスした建物を,隣地の日当たりが悪くなったからという理由で,取り壊さなきゃいけないとか,そういった筋合いではない気もします。
自分の土地には,法律の範囲内で何を建ててもいいわけですからね。
建築基準法などの法律に適合していることは,既に建築確認の手続きでチェック済みですし。
でも,新しく建物を建築することで,隣のお宅の日当たりがめちゃくちゃに悪くなることもあるわけで,そういう場合に「建築確認をパスしているから」という理由で,何もできなくなるのは,それはそれでよくないのでは?という考えもありえます。
そこで,判例上も,日当たりが悪くなったことを理由に,新しく建物を建築した人(建築業者ではなく工事を発注した人)に対し,日当たりの回復を求めることが認められています。
日当たりを回復するためには,日光を遮っている建物を取り壊したり,建物自体を動かしたりする(「曳家(ひきや)」と呼びます)必要がありますが,こういった請求が認められているのです。
新しく建物を建築した側としては,せっかく建築した建物を取り壊したり,自分の費用もちで建物を動かさなきゃいけなかったりするのはたまったもんではないのですが,そういうことが認められるケースがあります。
ただ,建物を取り壊したり,動かしたりしてまで日当たりを回復できるケースは,かなりレアです。
そう多くはない,というか,ほとんどないと思っていいかもしれません。
そもそも,日当たりが制限された場合,法的に可能な方策としては,↑に書いたような,新しく建築された建物自体をどうにかして日当たりを回復する方法だけでなく,日当たりが悪くなった損害をお金に換算して請求する,という方法もあります。
日当たりが悪くなってしまった被害者としては,欲しいのはお金ではなく日当たりなのでしょうけど,実際問題,建物自体をどうこうせよ,と裁判所が命じてくれるケースはかなりレアなので,日当たりの回復を請求するだけでなく,お金の請求も同時にしておくのが普通です。
「お金を請求できる」なんて書きましたが,これも,必ず認められるわけではありません。
キーワードは,「受忍限度」です。「受忍限度」は「我慢の限界」と同じ意味です。
我慢の限界を超えるくらい,日当たりが悪くなったのであれば,お金を請求したり,日当たりの回復を請求したりできるのです。
と,ここまではわかりやすいのですが,じゃあ,「我慢の限界」って,どこで線引きするの?という話になると,途端に難しくなります。
「我慢の限界」の線引きなんて,人それぞれ違うわけですから,誰を基準にしていいかもわかりません。
法律の世界では,「一般人」が基準とされますが,この世に「一般人」なんて誰ひとりいませんから,「一般人を基準にします」と声高に叫んだところで,何も言っていないのと同じです。
要は,裁判官の視点から見ても,「これはひどいな」と思えるくらい,日当たりが悪くなっているのであれば,お金を請求したり,日当たりの回復を求めたりできる,というわけです。
ただ,話はここで終わっちゃダメで,「裁判官」もいろいろなんですね(笑)。
弁護士は裁判官と同じく司法試験に合格し,裁判官と同じ「司法修習」という研修を受けます。裁判官も弁護士も,いざ働き始めるまでは,全く同じレールの上を走っています。
だから,当然,弁護士は,それぞれの裁判官の人柄をいろいろと知っていて,裁判官ごとにカラーがあるのを目の当たりにしています。
仕事でもいろんな裁判官に出会いますが,裁判官ごとに違うなぁ,と思う毎日です。
(弁護士である僕がこう思っているということは,裁判官も,弁護士に対して,「弁護士ごとに違うなぁ」と思っているに決まっています)
だから,「裁判官の視点から見て」なんて基準でも,ダメです。裁判官も人ですから,それぞれ個性があるのです。
じゃあ,どうやって「我慢の限界」の基準を設けるかというと,どうも,日照権侵害の場合,
・日当たりがどれくらい悪くなったか
・日影規制に反しているか
・地域性
この3つが結構大切みたいです。
・日当たりがどれくらい悪くなったか,については,冬至の日に窓からどれくらいの時間,日光が差し込むか,を参考にするようです。
冬至の日の,午前9時~午後4時に,窓からどれくらい日光が入ってくるか。これは,結構簡単な図で示すことができます。
この図は「日影図(にちえいず)」と呼ばれます。南側に新しく建物を建築したせいで,日光が遮られるわけですが,例えば,朝や夕方は日光が窓から差し込んだりもするわけで,その差し込む時間帯は,太陽の動きが季節によって決まっているので,緯度経度と太陽の動きを照らし合わせて,図にできます。
日当たりがどれくらい悪くなったのか,については,日影図で示すのです。
で,この「日影図」と関連するのですが,日影規制に反しているかどうかも重要らしいです。
「日影規制(にちえいきせい)」というのは,建築基準法に書かれているのですが,隣地の日当たりを遮ってはいけない限界について定めています。
当然,日影規制は,建築基準法に基づいていますから,建築確認でチェックされるはずなんですが,ただ,日影規制は,建物の高さ自体で適用されなくなってしまいます。
例えば,高さ10メートル未満の建物であれば,日影規制が適用されないというのがあったりするのです。そうすると,日影規制の対象外なので,建築確認でチェックするのはムリです。
だから,日影規制をパスして建築確認は通ってしまうのですが,建物の高さはとりあえず置いといて,日影規制を当てはめた場合に,日影規制に違反しているかどうかをチェックするようです。
それと,地域性もかなり重視するようです。
例えば,高層ビルが立ち並んでいるような地域であれば,高層ビルで日影が出来てしまうのは予測できます。そういった地域に住みながら,日当たりが悪くなった!と主張して,建物の取り壊しとかお金を請求したりするのは難しいです。
高層ビルを,一応建てていい地域であっても,現状平屋が多い地域であれば,高層ビルによって日当たりが悪くなった場合に,「我慢の限界を超えている」と認められやすくもなるようです。
【 まとめ 】
日照権の紛争は,被害者としては,毎日の生活そのものが被害にあっているに等しいですし,加害者とされている側も,建物を取り壊せとか動かせなんて言われても,そんなことできるわけないと思ってしまいます。
お隣同士は,お隣同士だからこそ紛争になりやすいのですが,日照権の紛争は,「お隣同士」紛争の代表例の1つだと思います。
日当たりについてお悩みの方は,いちど弁護士に相談されてみてください。
それではまた明日!・・・↓
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