#446 立退料は「貰える」ものではなく「くれる」もの
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【 今日のトピック:立退料 】
今日はかなり真面目に法律の話です。
さて,「立退料(たちのきりょう)」という言葉を聞いたことがある人は,結構多いと思います。
意味は,漢字のとおりです。「立ち退く料金」が「立退料」です。
土地なり建物なり,アパートなり,それらを借りている人が,借りているものを返す際,つまり,「立ち退く」際に,もらうお金が「立退料」です。
誤解しがちですが,「立退料」は,敷金の返金とは違います。
「敷金」とは,入居に先立って,大家さんに預けておくお金です。「預けておく」わけですから,引っ越す際は,全額返ってきます。
じゃあ,どうして「預けておく」のかというと,大家さんとしては,敷金を預かっておけば「安心」できるからです。
例えば,敷金を10万円預かっておけば,その10万円までは,家賃を滞納されても心配無用です。
もちろん,敷金を預けたからといって,敷金の金額まで家賃を滞納していいわけではありません。敷金を預けていたとしても,家賃は毎月支払う必要があります。
敷金を預けていても,家賃を滞納したら,賃貸借契約は大家さんから解除されて,退去しなきゃいけなくなります。
退去した後に敷金が返金されるのは当然なのですが,「立退料」は,敷金とは全然違います。
(※敷金も,原状回復費用を差し引いた残額しか返金されません。「原状回復費用」とは,「入居当時の状態に戻す」という意味です。ただ,「通常損耗」といって,「普通に使っていればこれくらいは汚れたり傷がついたりするよね」という程度の汚れや傷は,入居当時の状態に戻す必要はありません。この「通常損耗」に含まれるかどうかが争われるケースも結構あります。)
さて,「立退料」の話に戻ります。
「立ち退く」,つまり,退去する際に受け取るお金が「立退料」なのですが,これが貰える場面は,かなり限られています。
立退料が貰えるのは,あくまで,大家さんが立ち退きを求める場合のみです。
どうしても住人に立ち退いてほしいと思っている大家さんがいて,その大家さんが,住人にお金を払ってまで立ち退いてほしい場面,こういった場面に限って,立退料は貰えるのです。
住人にお金を払ってまで立ち退いてもらおうとする場面の「お金」こそ,まさに「立退料」です。
立退料を払ってまで住人に立ち退いてほしいと思う大家さんがいて初めて,立退料を貰うことができるのです。
だから,普通は立退料なんて貰えません。
ほとんどの場合,「立ち退く」のは,住人側に,何かしら引っ越さなきゃいけない事情があるからです。そういった,住人側の事情で引っ越す場合,「立ち退いているんだから立退料よこせ!」といくら叫んでも,立退料なんて貰えません。
大家さんとしては,住人が1人引っ越すということは,その分家賃が減るわけです。新たな住人を住まわせて,家賃収入を確保しようとするには,不動産屋に募集をかけてもらったりと,手間とお金がかかります。
それに,敷金を預かっている場合は,敷金も返さなきゃいけません。敷金は「預かっている」だけだから,返金するのは当然!なのでしょうけど,大家さんもそれはわかっているのですが,大家さんとしては,敷金を返金した分,手元から現金が消えるわけで,その「現金消滅」を無視することはできません。
住人が1人退去するということは,大家さんにとっては,これだけ大変な事態なのです。だからこそ,立退料まで払えなんて,大家さんに請求できるわけありません。
住人側の事情で引っ越したのであれば,敷金を返金してそれで終わりです。
立退料を貰える場面は,住人側の事情で引っ越すのではなく,大家さん側の事情で,大家さんが住人に対して立ち退きを求めてくる場面です。
大家さん側の事情で立ち退きを求めてくる場面って,どういう場面かというと,古くなったアパートを建て替えて,もっとキレイなマンションを新築し,より高額な家賃収入を獲得したい,という場面が典型的です。
あとは,大家さんがその建物に住まなきゃいけなくなって,自分が住むために建物を返してもらうとか,そういうのもあります。
さて,ちょっと前提からお話ししましょう。
さっきお話しした,「住人側の事情で立ち退く」という場合,法的には何が起きているのでしょうか。
そもそも,大家さんと住人との間には,「賃貸借契約」という契約が存在しています。
この契約が存在することの意味は,お互いに,権利と義務が発生することです。
大家さんには,建物を借主に使わせなきゃいけない義務を負うと同時に,家賃収入の権利が発生します。
逆に,住人(借主)の側には,建物に住める権利が発生しますが,家賃支払いの義務を負うことになります。
こういった権利・義務を発生させる賃貸借契約は,解消されない限り,いつまでも続きます。
つまり,賃貸借契約が存在する限り,住人は建物に住めるけれども家賃を毎月払い続けなきゃいけないし,大家さんは大家さんで,家賃収入は続くものの建物を貸し続けなきゃいけません。
賃貸借契約が存在する限り,この権利・義務が未来永劫続きます。
しかし,将来のことは誰もわかりませんから,未来永劫賃貸借契約が続いてしまうのは不都合です。
住人としても,他の場所に引っ越さなきゃいけなくなった場合に,賃貸借契約を解消できず,いつまでも家賃を払わなきゃいけないのはさすがに勘弁してほしいです。
だから,賃貸借契約は,住人側から終わらせることができます。普通は,賃貸借契約書に,契約が終了する時期について書かれています。
例えば,住人が大家さんに対して,退去を通知した日から1か月で契約が終了するとか,そういう風になっています。
仮に賃貸借契約書に契約終了時期について書かれていなくても,民法にきちんと書かれています。
アパートやマンションなどの賃貸借契約は,退去を大家さん通知した日から3か月で終了する,と民法に書かれています。土地の貸し借りの場合は,通知から1年で終了します。
だから,通知から3か月経たずに退去したとしても,通知から3か月経過するまでは賃貸借契約が続いているので,家賃は支払わなきゃいけません。
民法とは異なり,賃貸借契約書で「1か月」と修正されていれば,通知から1か月経過するまで,賃貸借契約が続き,家賃を支払うことになります。
こういう感じで,終了時期は契約によって差が出るせよ,住人側から賃貸借契約を終了させることはできます。だから,住む必要のなくなったアパートの家賃をいつまでも払い続けなきゃいけない,なんてことはありません。
きちんと賃貸借契約を終了させて,家賃の支払いから自分を解放することができます。
でも,これって,大家さんの側からもできなきゃおかしいですよね?
人類皆平等なので,大家さんと住人も平等です。住人側から賃貸借契約を終わらせることができるのであれば,大家さん側からも同じように賃貸借契約を終了させられなきゃ平等じゃありません。
実際に,民法には,「住人」とか「大家さん」とか書かれていません。住人側からでも,大家さん側からでも,アパートなら通知から3か月,土地なら通知から1年で,賃貸借契約を終了させられる,と民法には書かれています。
そうなると,めちゃくちゃ怖くないですか?
確かに,もう住まなくなった物件の家賃をいつまでも払わされるのはムリなので,通知から1か月なり3か月なりで賃貸借契約が終了するという仕組みはめちゃくちゃ好都合なのですが,とはいえ,この仕組みを大家さん側にも同じように当てはめてしまうと,大家さんが住人に通知するだけで賃貸借契約が終了し,そのアパートには住めなくなってしまう,ということになってしまいます。
賃貸借契約が終了する,ということは,「アパートに住める」という住人の権利も消滅することを意味します。
この,賃貸借契約が終了する=住めなくなる,という構図は,住人にとってはめちゃくちゃ困ります。
住めなくなったアパートの家賃をいつまでも払い続けたくはないけれど,大家さん側から一方的に住む権利を奪われるのもイヤだな…
住人としては,こう思うはずです。なんかワガママにも見えますが,法律はこれを「ワガママ」とは捉えていません。
むしろ,アパートの賃貸借は,住人の「生活基盤」であるとして,↑の「ワガママ」を,「ワガママ」では済まさず,法的に保護されるべき利益と捉えています。
その結果,↑の「ワガママ」は,借地借家法で手厚く保護されています。
借地借家法という法律で保護されているので,「ワガママ」ではありません。まごうことなき「権利」です。
おそらく,家賃収入を得ている大家さんや地主さんは,一度は,借地借家法に泣かされた経験があるでしょう。そういう方々にとっては,↑の「ワガママ」は「ワガママ」でしかないのでしょうが,借地借家法は廃止される気配は全くありません。
だから,やっぱり,「ワガママ」ではないのです。「生活基盤」なので,手厚く保護しなければいけないのです。
さて,この「ワガママ」,つまり,「住人側からは,民法に書かれているように,通知だけで賃貸借契約を終了させたいんだけど,逆に大家さん側からは,民法とは違って,通知だけで賃貸借契約を終わらせたくない」という住人側の希望(ワガママ)は,借地借家法の「正当事由」に現れています。
今日はこの辺にして,明日続きを書きます。
【 まとめ 】
「ワガママ」なんて書きましたが,他でもない僕が,この「ワガママ」に救われています。
僕も賃貸物件に住んでいるので,大家さん側の事情で賃貸借契約が終了させられてしまうと,本当に困ったことになります。
明日は,住人側の「ワガママ」が,「正当事由」という言葉に,どのように現れているのか,書いていこうと思います。
それを踏まえて,「立退料」について最後にまとめようと思います。
それではまた明日!・・・↓
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