#442 お金を払わない人にお金を払わせるのは難しい:天下無敵の無一文
【 自己紹介 】
※いつも読んでくださっている方は【今日のトピック】まで読み飛ばしてください。
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このブログでは,現在弁護士5年目の僕が,弁護士業に必要不可欠な経験と実績を密度高く蓄積するため,日々の業務で積んだ研鑽を毎日文章化して振り返っています。
日々の業務経験がトピックになっているとはいえ,法律のプロではない方々にわかりやすく伝わるよう,心がけています。スラスラと読み進められるよう,わかりやすくシンプルな内容でお届けしております。肩の力を抜いてご覧くださると嬉しいです。
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【 今日のトピック:お金を払わない人からお金を回収する 】
お金の話は,弁護士の仕事には付き物です。
貨幣経済では,数限りない商品やサービスが,お金を通じて交換されます。
お金は,いろんな商品やサービスと交換できるので,みんなお金を欲しがります。
お金が価値の基準となり,商品やサービスの仲介業者でしかなかったはずのお金に,めちゃくちゃ大きな価値が見出されるようになりました。
ま,こういったお金の歴史・仕組みを話しても仕方ありませんので,さっさと本題に入ります。
お金の話は「付き物」なんですが,「付き物」では収まらず,「お金」そのものが紛争になることもめちゃくちゃ多いです。
・貸したお金が返ってこない
・払ってくれる約束になっていたのに払ってくれない
こういった,「自分に払われるはずのお金が払われない」という紛争は,弁護士をほんの5年経験するだけで,たくさん目の当たりにします。
お金の紛争って,世の中にたくさんあるんだなぁと,弁護士は仕事を通じて体験しています。
「自分に払われるはずのお金が払われない」という話は,話す分には簡単です。
法律相談では,どうしてお金を払ってもらわなきゃいけないのか,10分以上,とうとうと話してくださる方もいらっしゃいます。
・ダマされたから渡したお金は返してもらわなきゃいけない
・先月末までに返済する約束だったのにまだ返済されないのはおかしい
・兄が亡くなった母の預金を引き出して着服したからそれは返してもらわなきゃいけない
・納品したんだけど代金が払われない
・工事は完了したのに代金が払われない
などなど,「自分に払われるはずのお金が払われない」という話は,枚挙にいとまがありません。
本当に,たくさんたくさんあります。
ただ,どの話にも共通していることがあります。それは,「自発的に払ってくれない相手からお金を払ってもらうのはめちゃくちゃ大変だよ」ということです。
払ってもらうはずのお金が払われない場合,払ってもらう側としては,相手が自発的に払うことが当たり前だと思う傾向があります。
例えば,お金を貸した場合であれば,返済期限までにきっと返済してくれるだろうと,相手を信頼してお金を渡したわけですから,相手が,「自発的に」,返済期限までに返済することは「当たり前」だと思ってしまう気持ちもよくわかります。
ただ,首尾よく相手が自発的に払ってくれればいいのですが,そうじゃない場合,お金を払ってもらうのはめちゃくちゃ大変です。
ちょっと脱線しますが,この「大変さ」を回避しているのが,いわゆる「ヤミ金」です。
本来,貸したお金を返済してほしいなら,後で書くように,裁判を提起したり,強制執行したりと,かなり大変なんですが,ヤミ金はそんなことしません。
もっとお金に対して「直接」アプローチを仕掛けます。
お金を貸している相手に対し,家族に危害を加えると脅したり,本当に危害を加えたり,他にも,相手をどこかに監禁して返済を迫ったりと,お金よりも大切なものに訴えかけて,相手がお金を返済せざるを得ない状況を作り出すのです。
これが,ヤミ金の手口です。お金よりも大切なものが傷つけられるくらいなら,お金を返済したほうがいいですから,そこにつけこんで,お金を返済させる。
家族に危害を加えると脅したり,監禁したりすれば,それは完全に犯罪ですが,ヤミ金はそんなのお構いなしです。
ヤミ金はヤミ金で,常に上層部や暴力団などへの返済に追われていますから,犯罪どうこう言っている場合じゃないのです。
自分がお金を工面できなければ,自分の身が危ないのです。そんなアウトローな世界にヤミ金業者たちは生きているので,犯罪どうこうなんてお構いなしです。
それよりも,目の前のお金を優先するのが,ヤミ金業者です。
さてさて,そういったアウトローな世界に足を踏み入れて,その世界で生きていくことを僕が止めることはできませんが,素朴な損得勘定として,アウトローな世界に足を踏み入れるよりも,シャバの世界で細々と生きていくほうがマシだと思います。
シャバの世界では,アウトローな世界のようにはいきません。
お金を払ってこないからといって,脅したり監禁したりするのはダメです。
警察に逮捕されて,勾留されて,人生に大きな損失が出てしまいます。
逮捕されて,勾留されても,「人生終了」ではないと僕は思っていますが,逮捕・勾留が大きな損失であることは,否定できないでしょう。
回避できるなら,回避するべきです。
そうすると,どれだけ「払ってもらえるはず」だとしても,脅しや監禁など,アウトローな方法をとるわけにはいきません。
そうなると,方法はたった1つです。
①訴訟を提起して,
②勝訴判決をもらい,
③強制執行する。
こうするしか,払ってもらえるはずのお金を払ってもらうことはできません。
しかし,①~③の方法で,必ずお金を払ってもらえるとは限りません。
まず,①ですが,訴訟を提起するにしても,なんでもいいわけじゃありません。
「訴状」という書面を裁判所に提出しないと訴訟を提起できないのですが,その「訴状」も,題名が「訴状」なら何でもいいわけじゃありません。
訴状には,「必要的記載事項」といって,これを書かなきゃ受け付けません!という項目があります。
それは,
・当事者及び法定代理人
・請求の趣旨及び原因
と民事訴訟法に書かれているのですが,これだけでは,いったいぜんたい何を意味しているのか,法的知識がないと,全く理解不能です。
裁判所も,なんでもかんでもは教えてくれません。今は,裁判所がホームページで,訴状の書式や記載例を公開してくれていますが,とはいえ,それにきちんと従ったとしても,↑に書かれた「必要的記載事項」が書かれていなかったら,そもそも,訴状を受け付けてくれません。
確実に訴訟を提起しようと思うなら,弁護士に依頼するのが最適ですが,そうすると,着手金として,少なくとも30万円ほど支払わなきゃいけないケースが多いでしょう。
そして,②勝訴判決を貰うのも,確実にもらえる保証はありません。
訴訟となれば,相手にも反論の機会が与えられます。相手の反論を制限することはできません。
その反論が認められれば,勝訴判決どころか,敗訴判決が出てしまいます。
敗訴判決が出るってどういうことかというと,お金を請求できないことが,裁判によって確定されてしまう,ということです。
訴訟で,敗訴判決が出てしまい,それが確定すると,もう二度と,そのお金を請求することはできなくなります。
訴訟を提起することは,勝訴判決を得るためには不可欠ですが,当然ながら,敗訴するリスクがあります。
敗訴してしまうと,お金を請求できないことが確定してしまうことになります。この点を無視することはできません。
そして,③強制執行も,相手に財産がなければ意味ありません。
強制執行とは,相手の財産を差し押さえて,差し押さえた財産を無理やり売却し,その売却代金からお金を回収することです。
「財産開示」という手続が補強され,財産を調査することはできるようになりましたが,とはいえ,調査した結果,本当に財産が存在しないことが明らかになったら,もうどうしようもありません。
強制執行するのも,タダじゃありません。申し立てるのに印紙代と切手代が必要です。
お金がない相手に対し,何度も何度も強制執行していたら,結局マイナスがプラスを上回ってしまうでしょう。
これこそ,僕がタイトルに書いた,「天下無敵の無一文」です。
無一文の人からお金を回収することはできないのです。だって,無一文だから。
【 まとめ 】
今日はかなり暗い話題になってしまいましたが,お金を回収するって,本当に大変なんです。
貸したお金が返済されないなんて場合は,相手を信頼した貸主がリスクを背負わなきゃいけないのも一理あるのですが,例えば,無保険の自動車から追突されてケガを負った被害者が,加害者が無一文であることを理由に一切賠償されないというのは,「貸したお金が返ってこない」とはだいぶ状況が違います。
この無保険の交通事故の場合,政府が,自賠責保険と同額を給付するという制度があるので,少しはお金が貰えますが,とはいえ,全額賠償にはほど遠いです。
今日の話を読むと,相手を信頼しないほうがいいのか,という風に思ってしまいそうですが,誰も信頼できないと思ってしまうと,自分が幸せになれません。
信頼できる範囲で相手を信頼して,その際は,きちんとリスクを予測しておきましょう。
それではまた明日!・・・↓
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