#460 債務名義(さいむめいぎ)がどれだけ大切か・・・
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【 今日のトピック:債務名義(さいむめいぎ) 】
「債務名義(さいむめいぎ)」という言葉,弁護士業界では頻繁に使います。
でも,いくら弁護士でも,プライベートで「債務名義」という言葉を出す人はほとんどいないでしょう。
「債務名義」なんて,めちゃくちゃに専門用語ですが,弁護士業界ではめちゃくちゃに大切です。弁護士以外の方々にとっても「めちゃくちゃに大切」なのですが,他でもない弁護士にとって,この上なく大切なのです。
なぜなら,「債務名義」は,弁護士のパワーの源だからです。
どうして,債務名義が弁護士の「パワー」につながるのか,「債務名義」の意味から解きほぐしてお話ししたいと思います。
結論を先に出しますが,「債務名義」とは,「強制執行していいよ!」と公式に宣言した文書を指します。
債務名義の具体例は,民事執行法につらつらと書かれているんですが,いちばんの代表例は「確定判決」です。
「確定判決」とは,その名の通り,「確定した判決」を指しますが,「確定」とは,「これから先は覆せない」という意味です。
例えば,名古屋地方裁判所で一審の判決が出ても,その判決に不満がある場合は,控訴することで,もう一度,名古屋高等裁判所に判断してもらうことができます。
だから,一審判決が出たとしても,その判決は「確定判決」ではありません。まだ覆る可能性があるからです。
ただ,控訴するにも期限があって,それの期限は,判決を受け取ってから2週間です。
ついでに控訴期限の数え方についても説明しておきますが,例えば,今日(2021年3月5日)に判決を受け取った場合,控訴期限は,明日から数えて14日間です。
明日から数えて14日後とは,3月5日に14日をプラスした日なので,3月19日までが控訴期限ということになります。
ということは,3月19日までに,「控訴状」といって,控訴提起することを記載した書面を,裁判所に提出しなければなりません。郵送しても,裁判所に持参してもいいですが,とにかく,3月19日のうちに,裁判所に「控訴状」が届かなきゃいけません。
ちなみに,控訴状を提出する裁判所は,一審判決を出した裁判所です。
もし,3月19日を過ぎてしまった場合,つまり,提出が3月20日の午前0時00分以降になってしまうと,その控訴状は受け付けてくれません。
仮に,判決を受け取ったのが明日(3月6日)であれば,14日後は3月20日となりますが,3月20日は土曜日です。控訴期限が土・日・祝または年末年始(12月29日~1月3日)の場合,控訴期限は,そういった休日の翌日となります。
だから,明日判決を受け取ったとしたら,その控訴期限は,3月22日㈪となります。3月22日までに控訴状が裁判所に届けば,控訴状を受け付けてくれますが,3月23日午前0時0分になった途端に受け付けてくれなくなります。
もし,控訴期限に間に合わなかったり,そもそも,控訴するつもりがなかったりして,どの当事者も控訴期限までに控訴しなかった場合,その判決は「確定」します。
ちなみに,控訴期限は,各当事者ごとに違います。なぜなら,各当事者ごとに,判決を受け取った日が違うからです。だから,自分の控訴期限は既に過ぎていても,相手の控訴期限はまだ残っているということもあり得ますし,そういうパターンが多いです。
「確定判決」の話に戻ります。
判決が「確定した」,つまり「もう覆せない」状態になったら,その判決が「債務名義」となります。
「債務名義になる」ということは,繰り返しになりますが,「その判決に基づいて強制執行していい!」,ということを意味します。
これだけだと,「強制執行していい!」の怖さがあんまり伝わらないと思いますが,強制執行って,めちゃくちゃに怖いですよ。強制執行される側にとっては。
例えば,確定判決で1000万円の支払いが命じられているとしましょう。もちろん,支払いを命じられた被告としては,自発的に1000万円を払っていいです。1000万円を耳そろえて払えば,強制執行されることもありません(正確には,強制執行の申立てはできるので,強制執行の危険性は完全には拭えないのですが,ただ,仮に支払った後に強制執行されたとしても,「請求異議」といって,強制執行を回避する手段はきちんと法律に書かれています)。
ただ,どうしても判決に納得できず,1000万円を自発的に払わなかったとしましょう。
そうすると,大変なことが起こります。
めちゃくちゃに当たり前のことから書きますが,自分の土地って,自分しか売れません。普通は。
土地を売るには,当たり前ですが,お金を払ってくれる人(買主)に対して,名義を変更しなきゃいけません。
お金だけ払って名義が変わらないのであれば,そんなの怖くて誰も買いたがりません(笑)。
買主としては,自分の名義に変えておかないと,自分の名義に変更されない間に,誰に売られちゃうか心配で仕方ありません。
こういう感じで,土地を売る場合,土地の名義を変えなきゃいけないんですが,またまた当たり前のことを書くと,土地の名義を変えられるのは,名義人だけです。
土地の名義は「法務局」という国の機関が一元管理しているのですが,その法務局が,名義を変えていいかどうかをどのように審査しているかというと,実印と印鑑証明書を見ています。
「売渡証書」といって,「この土地を売るのを承諾します」という証書を作成するのですが,この証書に,土地名義人の実印が押されているのを確認して初めて,法務局は土地の名義を変えてくれます。
実印かどうかは,印鑑証明書で確認します。印鑑登録されている印鑑と,売渡証書に押されている印鑑を見比べて,一致しているかどうかを確認するのです。
そして,印鑑登録証明書は,登録している本人しか発行できないので,結局,法務局のやり方は,「名義人本人しか土地を売れない」という仕組みを作り出すことができています。
しかし,強制執行の場面は,そうじゃありません。
「名義人本人しか土地を売れない」はずなのに,名義人が一切関与することなく,土地が売られちゃいます。
ひえぇぇぇぇ。
これができちゃうのが「強制執行」で,その「強制執行」を可能にするのが「債務名義」なのです。
先ほどの,1000万円の支払いを命じた判決が確定したケースに戻ります。
判決が確定したにもかかわらず,1000万円を支払ってくれないので,土地に対して強制執行することになったとしましょう。
そうすると,まず,土地が差し押さえられ,差押えの登記がされます。
「差押えの登記」について説明しますが,先ほど,土地の名義は法務局が一元管理していると書きましたが,この「名義」というのは,法務局が管理する「不動産登記」というデータに,所有者として誰が登録されているか,という話です。
法務局は,「不動産登記」というデータを管理していて,そのデータには,所有者の項目以外にも,いろいろ登録することができます。
その登録項目の1つが「差押え」です。ただ,「差押え」が登録されたからといって,すぐに何か起きるわけではありません。
じゃあ,何のために「差押え」を登録するかというと,その土地が売られても大丈夫なようにするためです。
強制執行できるのは,あくまで,支払いを命じられた人の財産に限られます。
そうすると,強制執行に先立って,土地が誰かに売られてしまうと,その土地に対して強制執行することはできなくなります。
しかし,「差押え」が登録されれば,たとえ,その後に土地が売られて他の人の名義に変わっても,その土地を強制執行することができるのです。
「強制執行」とは,お金を支払ってもらうために行う場合は,相手の財産をお金に変えることを意味します。だから,最終的に,財産をお金に変えなきゃいけないのですが,それまでには,ある程度の時間がかかります。
買い手を募集する期間が必要で,その買い手の中から最高値で落札してくれる人を選ばなければなりません。
こういった手続を進めている間に,そもそもの土地が売られてしまうと,手続全部が台無しになってしまいます。
そこで,「差押え」を登録しておくのです。それさえ済ましておけば,売られても大丈夫だからです。
さて,「差押えの登記」がなされ,土地の買い手を裁判所が募集し,最高値を提示した買い手が,土地を落札します。
(価格の提示方法は,値段を書いた紙を裁判所に郵送する方法がほとんどです。一応,オークションの方法も法律に書かれてはいるんですが,実施されることはほとんどありません)
最高値で落札した買い手がお金を払えば,土地の名義は,お金を払った買い手に変わります。
さてさて,こういった強制執行の手続きに,土地の名義人は出てきません。
自分の土地なのに,その土地を誰に売るのか,いくらで売るのか,全く決められないのです。
自分が知らないうちに,差押えの登記がされ,いつの間にか売りに出され,知らない人に買われてしまうのです。
しかも,購入代金の支払い先も裁判所です。自分には入ってきません。
納付された購入代金は,裁判所から,強制執行を申し立てた人(債務名義を持っている人)に払われ,余りがあれば,余りの分だけ返金されます。
自分の土地なのに,売る相手も,売る値段も決められない。
自分の土地なのに,いつの間にか売られてるし,売却代金も他人に奪われる。
こんなことが「適法に」できるのが強制執行です。
そして,強制執行を可能にするのが,今日のテーマである「債務名義」なのです。
今日は土地を例に出しましたが,別に土地に限りません。
財産なら何でもです。現金,預金,給料,株など,債務名義さえあれば,強制執行して,無理やりお金に変えることができるんです。
【 まとめ 】
強制執行のパワー,少しは伝わったでしょうか?
僕ら弁護士は,この「強制執行」を知識として知っていて,なおかつ,実行できるからこそ「パワー」があるのです。
本来,土地所有者の関与なく土地を売ってしまい,その売却代金すら土地所有者に渡さなかったら「犯罪」です。
土地所有者の承諾なく,実印を持ち出して売渡証書に署名押印すれば,それは「私文書偽造罪」です。売却代金を土地所有者に渡さなかったら,それは,土地所有者に対して横領罪になります。
でも,「強制執行」なら,それができるんです。
そして,「強制執行」を可能にするのが,「債務名義」です。
そして,弁護士は,確定判決など,「債務名義」の作り方を知っています。
今日は,弁護士のパワーの源である「債務名義」について書いてみました。
債務名義が「パワーの源である」ことを,きちんと理解していることは,弁護士にとってとても大切だと思っています。
それではまた明日!・・・↓
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