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#419 離婚の話:「悪意の遺棄」を過度に怖がる必要はありません

【 自己紹介 】

※いつも読んでくださっている方は【今日のトピック】まで読み飛ばしてください。

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このブログでは,2017年1月に弁護士に登録し,現在弁護士5年目を迎えている私古田が,弁護士業界で生き残っていくために必要不可欠な経験と実績を,より密度高く蓄積するため,日々の業務で学んだこと・勉強したこと・考えたこと・感じたこと,を毎日文章化して振り返って(復習して)います。

僕の経験と実績を最も届けなければいけないお相手は,このブログを読んで,僕のお客さんとなってくださるかもしれない方々,つまり,法律のプロではない皆さんだと思っています。そのため,日々の業務・経験がこのブログのトピックになっているとはいえ,法律のプロではない方々にわかりやすく伝わるよう,心がけています。

後戻りの必要なく,スラスラと読み進められるようにも心がけていますので,肩の力を抜いて,気軽な気持ちでご覧くださるとと大変嬉しいです。

【 今日のトピック:悪意の遺棄 】

今日は離婚の話なんですが,「悪意の遺棄(あくいのいき)」について書いてみようと思います。

離婚の相談は,本当に頻繁に受けるんですが,「悪意の遺棄」を心配する方が結構多いです。

正直にいうと,「悪意の遺棄を心配する」なんて,それだけでめちゃくちゃに詳しく事前の下調べをなされたことがわかります。

その調査能力,本当にすごいです。

どうして,「悪意の遺棄」を「心配する」のか,ちょっと説明します。

このブログでは,離婚の記事は何本も書いているので,そちらを参照されてもいいんですが,ここでも少し説明します。

さて,前提から話しますが,この日本では,日々,いろんな人たちが,いろいろな理由で,「離婚したい!」と決意します。

決意するだけでなく,行動に移す人たちが,僕たちのお客さんです。

離婚を決意し,行動に移す人たちは,何が何でも離婚したいと思っています。

しかし,どれだけ「離婚したい!」と思っても,相手が嫌がってしまうと,離婚を実現するのは途端に難しくなってしまいます。

相手が嫌がっても離婚を実現するためには,離婚の訴訟を提起して,離婚判決を出してもらわなきゃいけません。

で,離婚判決を出してくれるために必要なのが,「離婚原因」と呼ばれるものです。

「離婚原因」はいろいろとあるんですが,代表的な離婚原因が「婚姻関係の破綻」です。

「婚姻関係の破綻」とは,「夫婦関係が完全に崩壊して修復不可能な状態」を意味します。

裁判所の視点から見ても,「この夫婦は修復不可能だな」という場合に限って,離婚判決が出されるわけです。

ただ,「婚姻関係の破綻」があれば必ず離婚判決が出るわけじゃないんです。

「悪意の遺棄」を心配されている方は,ここに気づいていらっしゃるのです。法律のプロでもないのに,ここまで調査を尽くせるなんて,本当に脱帽します。

話を続けます。「婚姻関係の破綻が認められても離婚判決が出ない」という話です。

この話は,「婚姻関係の破綻があれば離婚判決が出る」という先ほどの話と矛盾しているように思えますよね。

ゆっくり説明します。

離婚判決を出すために,「婚姻関係の破綻」が必要なのは間違いありません。

裁判所が,「この夫婦はまだ修復可能だな」と考えたら,離婚判決は出ません。

だから,裁判所に対して,「夫婦関係が修復不可能だよ!」と説得することは絶対に必要です。

ただ,「婚姻関係の破綻」=「夫婦関係が修復不可能」だとしても,その「破綻」状態を自ら招いた夫または妻からの離婚請求は,できないんです。

いわゆる「有責配偶者からの離婚請求」というやつです。

「有責配偶者」というのは,離婚原因(=婚姻関係の破綻)を作り出した「責任を有する配偶者」のことです。

この「有責配偶者」からの離婚請求は,できないことになっています。

自分で夫婦関係を破綻させておいて,あとになって,その破綻状態にかこつけて「離婚だ!」と請求するのはダメだよね,という価値観が前提にあります。

「有責配偶者」の例としてよく出されるのは,不倫した夫です。

妻以外の女性と不倫関係を持ち,妻よりも不倫相手との生活を優先するため,妻と別居して不倫相手との同居を始める。

夫がこんなことしたら,妻との夫婦関係はぶっ壊れるに決まっています。修復なんて不可能です。

でも,こんな夫からの離婚請求を認めてしまうと,妻は踏んだり蹴ったりです。

こんな夫からの離婚請求が認められてしまうのであれば,離婚しようと思えば,誰でも離婚できることになります。

配偶者以外の異性と不倫関係を持って,その不倫相手と同居するために別居しちゃえばいい。

そうすれば,夫婦関係は完全に崩壊しますからね。

でも,裁判所は,こんな横暴を認めちゃいけないことになっています。

自分で不倫して,別居して,婚姻関係の破綻を招いておきながら,その破綻状態にかこつけて離婚を請求することはできない。

そうなっています。

だから,離婚したい場合,自分で婚姻関係の破綻を作り出してはいけないんです。

「有責配偶者」になっちゃダメなんです。

「有責配偶者」になった結果,相手から,「離婚しろ!」と言われたら,もちろん離婚できるんですが,相手が「まだ私たちはうまくやれる」と言って,離婚を拒んだ場合,離婚はできません。

そういう人,結構いますよ。

不倫した夫(または妻)と,それでも夫婦関係を続けたいという人は,それなりの割合でいます。

お金のため,ということも多いですが,「不倫相手には絶対に奪われたくない」と恨みの感情をむき出しにする人も多いです。

僕なんかは,不倫した妻と夫婦関係を続けるなんて2億%無理なので,不倫した妻とは2秒で離婚したいタチですが,この思いは人それぞれです。

不倫した夫または妻と,それでも夫婦関係を続けたいと思ってもいいです。それは自由です。

自分が不倫し,その不倫相手との生活を優先したいと思って離婚しようとしても,配偶者が「離婚したくない!」と思ったら最後,離婚できません。

残念ながら,そうなっています。

不倫した自分の意見よりも,不倫していないほうの配偶者の意見が優先されます。そりゃそうです。

こんなふうに,離婚したい場合は,「有責配偶者」になっちゃダメなんですが,「有責配偶者」になるパターンは,不倫だけではありません。

「悪意の遺棄」のパターンもあります。

つまり,「悪意の遺棄」をしちゃうと,「悪意の遺棄」をした側の配偶者が「有責配偶者」となってしまい,離婚請求ができなくなってしまいます。

だから,「悪意の遺棄」を怖がるのです。

ここまではよくわかります。

じゃあ,「悪意の遺棄」って何よ?という疑問が湧いてきます。ここで,勘違いされている方が多いと僕は思っています。

なぜか,別居=悪意の遺棄,と思っている人が多い。

それは全然違います。別居しても,「悪意の遺棄」とはなりません。

確かに,「悪意の遺棄」となってしまう別居もありますが,そうではない別居がほとんどです。

「悪意の遺棄」と評価されてしまうような別居は,先ほど書いたような,不倫相手との生活を優先するために別居するようなケースです。

いわば,夫婦関係を壊す以外の目的がないような別居,それが「悪意の遺棄」です。

でも,多くの場合,別居って,そんな目的じゃないですよね。

確かに,別居する理由は,相手と離婚したいからです。夫婦関係が壊れるように,別居を始めるわけです。

でも,夫婦も最初は愛し合っていたわけですから,離婚に思い至る理由が何かしらあるはずです。

離婚に思い至る理由が,不倫相手との生活を優先するなんて場合は,別居が「悪意の遺棄」と評価されるでしょうが,夫が暴力を振るったり暴言を吐いたりして,それから逃れるために別居を始める場合もあります。

この場合の別居は,「悪意の遺棄」とは評価されないでしょう。

他にも,別居を始めるケースがあります。

最も多いのは,相手と暮らしてみたら馬が合わず,その結果,どうしても自宅で平穏な生活が送れず,離婚するしかないと思っているケースです。

このケース,離婚したいと思っている本人としては,「相手が〇〇で〇〇なのよ!」と相手のせいにしがちですが,客観的に見ると,単に「性格の不一致」があるだけです。

世の中には,いろんな人がいるわけで,人それぞれいろんな性格をしています。

あなたが「相手が悪い!」と思っていたとしても,みんなそう思うとは限りません。人それぞれいろんな意見があって,あなたの意見が一般化できるとは限りません。

しかし,あなたと相手の馬が合わない(性格の不一致)があることは間違いないでしょう。

そういった,性格の不一致を理由に,別居を始める。

それも,「悪意の遺棄」とは評価されないでしょう。性格の不一致のある相手と住み続けることはめちゃくちゃ苦痛ですから。

その「苦痛」から逃れるために別居を始めることは,許されます。

だから,性格の不一致を理由に別居を始めても,「悪意の遺棄」とはなりません。

ただ,「性格の不一致」によって,相手に不満を持ち,その不満が不倫のきっかけとなって別の異性と不倫関係を持ち,その不倫相手との生活を優先するために別居を始めてしまうと,それはやっぱり「悪意の遺棄」と評価されちゃうでしょうね。

あと,「悪意の遺棄」と評価されるかどうかは,「婚姻費用」をきちんと払っているかどうかにも左右されます。

夫婦は互いに養う義務があります。その義務は,別居しても続きます。

性格の不一致を理由に別居を始めた場合であっても,婚姻費用を相手に支払わないままだと,「悪意の遺棄」と評価されてしまう可能性が高まります。

なぜなら,別居して家計を別々にしたうえで,生活費も払わないわけで,そんなの,相手の生活がどうなってもいいと思っているからです。

相手の生活がどうなってもいいと,心の中で思っていてもいいですが,その思いを外に出して「生活費なんて払わん!」とな言ってしまうと,自分の別居状態が「悪意の遺棄」と評価され,最終的に離婚できなくなってしまいます。

結局,不倫相手がおらず,なおかつ,生活費をきちんと払っていれば,別居しても「悪意の遺棄」とは評価されないと思ってよいでしょう。

別居が「悪意の遺棄」と評価されて,最終的な離婚が難しくなるかも!と過度に思う必要はありません。

むしろ,別居が可能なのであれば(特に金銭的な面で),最終的に離婚を勝ち取るうえで,別居は有効な手段です。

・暴言や暴力から逃れるために別居する

・性格の不一致に耐えられなくて別居する

どちらも正当な別居ですから,別居を実行しましょう。

ただ,きちんと相手に生活費を払うことをお忘れなく。

もちろん,子どもと一緒に別居していいです。

子どもが一緒であれば,生活費を「払う」のではなく「受け取る」になるでしょう。

「悪意の遺棄」→「有責配偶者」と不利になってしまうことを気にして,必要以上に別居を躊躇するべきではありません。

確かに,そうなってしまうケースもありますが,苦痛な家庭からはとっとと逃げましょう。

人生万事塞翁が馬

別居したら見えてくる世界があるはずです。

今日はこれくらいにします。

それではまた明日!・・・↓

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