ヒコーキの羽

地震でヒコーキに乗れなかった話

2018年6月18日のことだ。ヘッズはHMCとニンジャ収穫祭の高まりにワオワオしていた。
費用対効果にがめつい私は、どうせ交通費が同じならHMCのついでに関西で遊びまくろうと考え、思い切って1週間の旅程を組んだ。海遊館とか行くつもりでアクセス・入館料もしっかり調べた。

そして月曜日である。
朝起きていつものようにTwitterをチェックし、「サブジュゲイターは左に寄りすぎだから少しは遠慮とかをしろ」等とツイートしていたら、突然スマッホが鳴き始めた(自分で設定した着信音なのに毎回ビビってしまう)。
「あんた大丈夫?!大阪ですごい地震があったって○○さん(知人。以下、大阪のオバちゃん)から電話あったよ!」
Twitterを見てみると、関西方面のフォロワーが「地震だ」「大きいぞ」と騒いでいる。この時はいつもの地震報告ツイートだと思っていたのだが、それからほどなく阪急の電光掲示板が落ちてきた駅の画像やら、時計が壊れた、本棚がひっくり返った、などの報告が続々と入り始めた。大阪のオバちゃんの家はそれほどひどい被害はなかったようだが、少し離れた高槻市のほうが大変なことになっているらしい。具体的にどう大変なのかはわからないが、とにかくすごい被害だという。これはとんでもないことになったぞ……

しかし物事を都合いいほうに考える私は「まあ電車が止まってても飛行機は地面に着いてないから動いてるだろ」と楽観的な予想をし、予定通りに家を出て羽田空港に向かった。
途中、フォロワーから「御堂筋線が死んだ」「嵐電は動いてる」などの交通情報が入ってきてようやく「電車が止まってたらどうしよう」と心配し始めたが、心配したところで電車の復旧が早まるわけでもないので、地震に乗じた人道活動でヨロシサンの株を上げるサトルさんとナインちゃんのかわいさについて考えることにした。ヘリコプターで被災地に向かうCEO。その作業服はやはり緑地に金の渦巻きなのだろうか?
移動しながらTwitterで現地の運行状況を調べたところ、大阪モノレールも阪急電鉄も全線ストップしているようだ。どちらも伊丹空港から市街地に出るのに欠かせない路線である。つまり、こいつらの片方でも死んだら伊丹空港に出入りはできない。この状況を「伊丹プリズン」と呼んだ人は天才だと思う。
モノレールのほうは線路が損傷して今日中の復旧は難しいかもしれないとのことだったが、この期に及んでなお「まぁ着く頃には電車も動くだろ」とポピー畑のようにおめでたい思考だった。実際この時はまだ伊丹行きの飛行機は無事飛んでいたのだ。この時までは……。

空港に着いて電光掲示板を見ると、どうも様子がおかしい。関西方面の便がすべて「搭乗手続き中止」になっている。これを見た私は「中止ってことは欠航じゃない!ヨカッタ!」と喜んだ。イディオットめ!
私が乗る便は少し先なので掲示板にはまだ出ていない。時間つぶしにショッピング区画をふらふらと彷徨ったりしながら待っていたら、ひとつ前の便が「欠航」に変わった。驚くべきことに、ここまできてなお「ひとつ前が欠航だから、その次はきっと動くよね!」と考えていたのだ。バカ!スゴイ・バカ!普段はネガティブ思考のくせに、慎重な判断が求められる場面になると途端に頭がサンシタめいておめでたくなってしまうんだよなあ。前向きに考えているわけではなく、イレギュラーな事態が起きると脳がフリーズして予定外の可能性に目が行かなくなるのだ。

まぁ、おめでたいなりに今後のプランは考えていて、現地で足止めを食う可能性を頭に置いて食べ物を買うことにした。せっかくだからちょっといいものを食べたい。空港内のパン屋でベーコンチーズフランスとクロックムッシュみたいな何かと塩パンを買った。おやつもほしいのでローソンでよっちゃんイカと柿の種サンダー(柿の種が入っているブラックサンダー)も購入。酒は飲めないのにおつまみめいたチョイスになってしまった。

さーてそろそろ搭乗手続きが再開してんじゃないかと出発ゲート階に戻ると、搭乗予定の便が「欠航」になっている。ナンデ?!さっきまで「搭乗口変更」だったのに!見なかったことにしたいが、電光掲示板を何度確かめても欠航はギラギラと明滅し、無慈悲な事実を突きつけてくる。

さて、困ったことになった。
飛行機は飛ばない。私は一刻も早く大阪に着きたい。どうすればいいのか。
払い戻しカウンターにはすでに炊き出しめいた列ができている。ここで「こんなに大勢が払い戻しをするなら、搭乗する人は誰もいなくなって乗れるようになるだろう」と考えたのもひどいが、混雑も実際ひどかった。
私は暑さに弱く、15℃以上になると動きが鈍い。人が密集している場所にいると5分で意識が朦朧としてくる。これはつらい。しかしここに並んでいる人たちは皆同じ理由で同じように困っているのだと思うと少しは気が楽になる。主観時間で30分ほど並んだだろうか、カウンターでは笑顔が素敵なお姉さんが応対してくれた。
「一番早く伊丹に行ける便に振り替えてください!」
「あいにく今後の便は全て満席でして……キャンセルを待つしかないんですが、現在お待ちの方が100名以上……(すごく申し訳なさそうな声)」
ううむ、キャンセル待ちを経験したことがないので、100人と言われても多いのか少ないのかわからないぞ。
「それ、乗れる可能性どのくらいあります?」「うーん……正直……難しいですね」
この際ほかの空港でもいいと言ったら、関西空港への最終便が1席空いているという。即決しそうになったが、関空に着けたとしても南海電車が止まっていたら真夜中の空港に置き去りだ。あっちは伊丹と違って島だから本当にアルカトラズではないか。「明日でしたらお取りできます」とのことだったので、翌日の昼に振り替えをしてもらった。

ここで強調しておきたい。JALのお姉さんは非常に親切で、あほのヘッズのムチャクチャな質問にも丁寧に答えてくれる。というか、JALの職員はみな親切なのだ。今日は大変だろう。甘いものとか食べて憩ってほしい。

とりあえず振替便のチケットは手に入れたが、どうにも諦めきれない。せっかちなので1秒でも早く目的地に着きたいのだ。
だが新幹線は止まっているし、大阪のオバちゃん情報では「市内は大渋滞やで」というのでバスも使えない。なお、タクシーはCEOとかが使うものなので端から選択肢に入っていない。あれはカネモチの乗り物である。
京急のお兄さんに「鈍行で大阪に行くルートを教えてください」と言うだけ言ってみたら、どこをどう通っても高槻市で足止めを喰らうことがわかった。高槻市は水が濁ったり看板が落ちたりと壊滅的な被害が出ている。そんなところを走る電車はないだろう。こりゃもう打つ手なしだ。なお京急のお兄さんもとても親切な人だった。自社線じゃないのにiPadまで使って教えてくれてアリガトゴザイマス……!

すべてを諦めた私は、ショボショボと家に帰ってきた。パンは美味しかった。そして、貴重な体力と時間と往復の交通費を失ったくやしさをこうして文章にぶつけている。

──追記──
翌日、飛行機は無事に飛び、私は大阪で楽しい時を過ごしました。海遊館も行った(魚より人のほうが多かった)。阪急は19日には復活したけど、モノレールの復旧はかなり遅かったような。ひとつ悔やまれるのは、帰りの便を1日延ばしてもらわなかったこと。スーパー玉出に行きたかったよォ……

(この文章は6月18日に書いたものです。今はHMCとかのレポまんがを描いている。暑いのでなかなか進まないですね)


フルツとか医学書とか買います