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N-1の比較

N-1という上着をご存じでしょうか。↓こんなやつです。

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見たことあるんじゃないでしょうか。元はと言えば、1940~50年代にかけて、米海軍の軍艦乗りが着ていた上着です。デッキで着るので「N-1デッキジャケット」とか呼ばれます。同じ素材のパンツ「N-1デッキパンツ」もありました。1944年にネイビーの支給が始まり、翌1945年からカーキ(土ぼこり色)に移行したと言われています。もっと緑がかったオリーブや、ブラウンも存在するそうです。

寒い船上での制服ですから、とても暖かいです。外側のアウターシェルは、コットン・グログラン(ピケのような畝のある織り方)という分厚い綿の織り生地です。これで風などを防ぎます。そしてインナーシェルはアルパカとウールの混紡です。ウール(羊毛)は防寒素材として有名ですが、アルパカは毛が空洞になっていて、それだけ空気を閉じ込めるので防寒性が高いと言われています。

あと、ジップとボタンの比翼仕立てになっているのは、ジップだけだと潮に当たってさびてしまうから、比翼で隠すようになったそうです。

私がN-1に出会ったのはもう●●年前で、当時はそんなに人気ではなかったと思います。通りすがりの人が着ていたのを見て、どうしてもほしくなってたどり着きました。以来、形や機能性が気に入って、買ったり売ったりの繰り返しです。

今は冬の人気商品になって、アルパカの毛が品薄になって価格が上がっています。感覚で言うと、私が出会った当時から1.5倍ぐらいにはなっているのではないでしょうか。これは、デフレ脱却の鍵はN-1にあるのでは…という冗談はさておき、10万円を超える物まであって、おいそれと手を出すことはできなくなりました。

前置きが、かなーり長くなりました。ここからが本題のN-1比較。高いだけにおいそれと手が出せなくなったN-1ですが、過去から買いためた私。ちょっと比較してみようと思います。今までバズやマッコイ、コリンボ、フェローズ、フリーホイーラーズ、ディーエンを着てきました。今日は、マッコイ、コリンボ、フリホのN-1を比べてみようと思います。

ちなみに、今はネイビーのプレーンモデルしか持っていません。N-1というと、カーキは胸に、ネイビーは背中に海軍であることを示すステンシルが印刷されるのが普通です。中には、ワッペンや追加のステンシルを施したカスタムモデルもあります。しかし、私はプレーン、しかもネイビーしか着なくなりました。なぜって、似合わないんですよね、単純に。ステンシルはともかく、顔立ちによって似合う色味が変わってくるのも、たくさん気比べてみたうえでの発見でした。

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さて、前置きに加えてさらに前置きしてしまいました。まずは、地味に見えるN-1の中で最も目立つ、襟です。↓上からフリーホイーラーズ、コリンボ、マッコイの順です。

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N-1は、アルパカウールのインナーシェルを、襟にもあしらうデザインが一般的です。襟を立てて前立てを閉めることで防寒性を高めるための機能です。で、襟はショールカラー↓にするのが普通です(写真はかなり昔のフェローズ)。

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でも、今わたしの手元にあるモデルは、どれもしっかりした襟の形ですね。それからインナーシェルの染めは、コリンボがベージュで、マッコイとフリホは濃いブラウンです。

続いてアウターシェルの生地↓。これを見てブランドを当てられるあなた、かなりのN-1通ですね!

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正解は、右からフリホ、コリンボ、マッコイです。いずれもコットングログランとかジャングルクロスとか言われる綿の織り生地で、縦に畝が入ります。強度と光沢が特徴のようです。

中でも特筆すべきはフリホの畝の太さ。パラフィン加工といって、水をはじくためロウのような素材でコーティングしてあります。しかもアウターシェルとインナーシェルの間にネル生地が挟んであるとかで、着始めはゴツゴツです。初めてボタンを閉めたときは、固すぎて爪が割れかけました。いちばん重くて、ずっと着ていると疲れます(汗)。

真ん中のコリンボは、単体で見れば確かにネイビーですが、マッコイとフリホに挟まれると青みの強さが分かります。

そして、シルエット。↓N-1と言えば直線的なボックスシルエットです。が、フリホだけ、ちょっと違います。裾がすこーしだけラウンドしています。

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上からマッコイ、コリンボ、フリホ。分かりづらいですが、フリホは前身頃の裾が丸くラウンドしていて、後身頃より長くとってあります。普通のボックスシルエットだと、着たときに前身頃が上に上がってしまうことがあるのですが、それを防ぐための立体裁断でしょうか。

さて、比較もだんだんマニアックになっていきます。↓ファスナーの違い。

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↑フリホは刻印がありません。

↓マッコイとコリンボはタロンです。コリンボは、軸にも刻印が入っています。詳述は避けますが、タロンジッパーで検索すれば、あれやこれや出てくると思います。今ここでやると、女性ファンが逃げるのでやめます(そもそも来ていない?)。

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さあ、気を失わないでくださいよ。↓ファスナーに取り付けられた摘み生地の長さの違い。

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左からフリホ、コリンボ、マッコイ。フリホは短いです。着始めの時は生地が固くてファスナーが閉めにくいうえに、取っ手が短いから大変でした。

↓ファスナーの取り付け位置の違い

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もう分かりますね。右からフリホ、コリンボ、マッコイです。徐々に取り付け位置が上がっていきます。着丈はマッコイがやや長めなので、その分、ファスナーは上に取り付けられているのでしょうか。いすに座りやすく?

みなさん付いてきていますか。↓首元のファスナーの留め具です。

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これは、ぜんぶコの字型。当時の再現だそうです。

さあ、みんな大好き(ウソ)、コントラクトナンバータグの比較です↓。

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これは上からフリホ、コリンボ、マッコイです。コリンボのみプリントで、フリホとマッコイは刺繡タイプです。あまり厳密ではないけれど、刺繍のほうが年代が古いとされているようです。コントラクトナンバーは、マッコイがNXss、コリンボとフリホはNXs。あと、フリホのタグにはNAF 1168-40という表記もあります。NAFというのはNaval Air Forceつまり海軍航空部隊のこと。↓実物もあります。

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ちなみに、タグの下にある「デモテックス」というのは、防虫加工のことだそうです。バズのデモテックスモデル(高いやつ)が実名復刻してますね。私の手持ちレプリカの中ではコリンボが実名復刻していて、お腹のところにラベルが↓

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どこにラベルを貼るのかは、決まっていなかったのかもしれません。

↓コリンボは、インナーシェルに素材タグも。

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これを見ても、アルパカとウールの混紡割合は不明です。着た感じ、ちょっとチクチクします。

↓マッコイの素材タグ。

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アルパカとウールが半々です。2018年ごろまで素材タグはなくて、「マッコイのインナーシェルはアルパカ100%」と言われていました。アルパカの価格高騰を受けて半々になったのか、はたまたアルパカ100%というのが単なる都市伝説だったのか。

ちなみにフリホには素材タグはありませんが、アルパカ20%、ウール80%だそうです。最も毛足が長くて、ふかふかしています。

↓袖。真ん中のコリンボは、袖が2センチほど、ほかより短いかな。

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地味に、縫製糸の色合いが違います。マッコイとコリンボはグレーというか、明るめの色なので、ネイビーの生地に目立ちます。フリホは縫製糸もネイビー。マッコイ も昔は生地と同じ色だったと思うんですけどね。

で、袖をまくってみると…

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↑袖の先まで詰まったインナーシェル。手首まであったかです。これはネイビーモデルまでの仕様で、カーキモデルから手首のインナーシェルはなくなります。そしてリブ。真ん中のコリンボのリブが特徴的。ビンテージ風です。

↓あと、特筆するとしたら、コリンボは右のポケットに、スマホが入るくらいのインナーポケットが付いています。

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…さあ、長いことお付き合い、ありがとうございました。

あと、まあカタログ的な肩幅/身幅/袖丈/着丈を測ってみると、フリホは48/58/65/69、コリンボは47.5/58/63/70、マッコイは47/58/65/71です。

これだけ見ても似たようなもんだ、というところで、実際に着てみてもそこまで激しい違いはないのですが、でもやっぱりブランドが違うとすこーし違います。

身幅は一緒です。そこを基準に、フリホは肩幅が広く、着丈が身近い。このため、ややごつく見えます。逆にマッコイは肩幅が狭く着丈が長めで、ちょっと長細くシュッとして見えます。

コリンボは中間的な感じですが、袖丈がやや短い。で、カタログ数値にはありませんが、アームホールがコリンボ<マッコイ<フリホの順に1センチぐらいずつ太くなっていきます。なので、コリンボは腕回りがスッキリして見え、逆にフリホはゴツさに拍車をかけています。

あとはN-1最大の特徴である防寒性については、もともとマッコイのN-1は「オーバースペック」と言われていて、実物以上に暖かいそうな。インナーライナーもふかふかですし、関東までだったら中にそんなに着込まなくても十分です。コリンボも同じですね。

フリホに至っては、アウターシェルとインナーシェルの間にもう一枚ネル生地が挟んであるので、輪をかけて暖かいです。真冬でも、これを着て歩いていると汗ばむほど。マッコイがオーバースペックだというなら、フリホはハイパースペックとでも言うのでしょうか。極寒の地でも十分だと思います。

最後に、私が感じる欠点は2つ。1つは、インナーシェルの毛並みによって、中に着たスウェットやニットがねじれちゃうんですよね。さらに、ねじれるだけじゃなくて、インナーが全部右腕側に寄って行っちゃったり。こうなると息苦しさも感じて、一定時間が経つといったんN-1を脱いで着直さないと気持ち悪いです。これは、たくさんのN-1を着てきましたが、バズのレギュラーモデルと、マッコイのたまたま当たった固体の1つ以外、全部そうです。あと、ディーエンもインナーシェルがムートンとフリースなのでねじれないです(でもバカ高いです)。

もう1つは、サイズを間違えると、特に大きいサイズにしてしまうと、めちゃくちゃ野暮ったくなります。「無骨」と言われる服は、ジャストで着ないとダメですね。でも、これはきちんと試着して悩めば問題ないでしょう。

…ということで、N-1。超絶に暖かく、前を全部開ければワイルドに。ジップもボタンもすべて留めてハンチングをかぶれば、かわいらしく。欠点も挙げましたが、それを補って余りある最強のアウターです。

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