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サンストリートの奇跡

まだアイドルヲタクではなかった頃、あるいはヲタク1年生の頃の話。

2012年6月24日(日)
妹の結婚式が前日に終わり、ちょっとした東京で過ごせる空き時間。
3ヶ月前に初めてライブを見た新潟のご当地アイドル「Negicco」が、「リリースイベント」というもので東京に来ていて、亀戸の「サンストリート」でフリーライブをやるらしい。

サンストリート亀戸というのはアイドルに限らずシンガーソングライターの方など常にフリーライブをやっているような場所と認識していて、私もその時からさかのぼること10年前くらいに何度か行ったことがある。私は見ていないがインディーズ期のPerfumeもステージに立ったことがありラーメン屋には当時のサインが飾ってあり聖地とも呼ばれていることは知っていた。

Negiccoのミニライブは14時と17時の2回。とりあえず2階のステージを見下ろせる場所に陣取る。
商業施設内ということでいわゆるコールが禁止されていた。それまでNegiccoのライブはライブハウスで1回、タワレコで1回見ただけであったがいずれもファンのコールが結構すごかった印象があり、客席が静かなライブは少し微妙な感じがしたのは事実。なおコール禁止ではあるが「圧倒的なスタイル」という楽曲で発動するラインダンス(間奏でヲタクが肩を組んで足を揃えて上げる、Negicco現場の名物)はOKという、一般客からするとなかなかに謎なルールであった。

ミニライブは30分くらい。その後ファンの人たちはCDを買って握手会に参加するのだという。私はそっち側ではないので。
宝塚記念の週。外は暑い。近くのルノアールに避難し競馬新聞を広げる。
馬券はオルフェーブルに逆らって大敗。

2回目を見にサンストリートに戻ったのが16時20分頃。
握手会はまだ続いていた。
2時間近く、初夏の炎天下で、笑顔を絶やさず対応するアイドル。
うーん、すごいな。
CD自体は事前にショップで買っていたため、実をいうとこの日はCDを買うつもりがなかった。
CD売り場を見ていると、6枚づつ買っていく方が多い。(後から知ったのだがこれはCD2枚分でメンバーとの2ショット撮影ができ、メンバー3人全員に回るために6枚買っていたようだ)私はそういう側ではないので、しかしこれは敬意の意味で1枚買うとするか。
人生で初めて同じCDを複数枚所有することとなる。

2回目のステージは1階の端っこから見てみることにする。
「圧倒的なスタイル」を歌いながらメンバーがステージ下に降りて、子どもたちにお菓子を配ったりしながらも、ちゃんと自分のボーカルパートは外さずに、会場を一体化させていく。さすがアイドル9年目の経験値である。

せっかく特典券が手元にあるので握手会に行くこととする。
もう記憶が曖昧なのだが、確かメンバー全員と少しづつ握手があって、そのあとメンバー指名してじゃんけんをして勝った負けたで何か特典内容が変わるみたいなやつ。3月のライブの時に「かえぽ」「なおちゃん」とはじゃんけんしたので、「ぽんちゃ」とじゃんけんをして勝って名刺に名前を書いてもらう。

握手会の列は永遠に続くかと思うほど長かったが、暇だったのと前のほうにあるベンチに座れたこともありなんとなく最後まで見て行くことにした。ちょうど3月のPerfumeのJPNツアー静岡公演で知り合った熱いファンの方が声をかけてくださったのもあって時間が過ぎるのは苦痛ではなかった。

初夏の陽射しが少しづつ落ちてくる中、CDが完売したので急遽秋葉原から取りに行ってるとかいうアナウンスを聞く。
これがリリースイベントの最終日という、ライブアイドルにとっては特別な重要な日であることを知らなかった。

長かった特典会が終わり、Negiccoから締めの挨拶。
最後にアンコール1曲やってくれるのね。
今回リリースしたCDの表題曲「あなたとPop With You!」

ベストアルバムを聴き込んでいたので、名曲ぞろいのNegiccoの楽曲の中に入っては、この曲が特別にすごいキャッチーにも感じなかったし、なんとなく売れそうな感じはしないのだけど。
この夏は個人的に忙しくなりそうで、これもまた早めの夏の思い出としては良いのかなと、曲の終わりの余韻を味わっていた。

その時。

聞き慣れた「圧倒的なスタイル」のイントロが鳴る。
それと同時に、自分の周りに座っていたファンの人たちが、「雲の子を散らすように」というのはこのことを言うのだろうという勢いで、ステージ近くから逃げていく。
刹那、1人取り残される。
何が起きたんだと周りを見渡す。

ステージ前方から離れたファンは客席後方に半円形に列を形成していた。
慌ててその列の中に紛れ込む。
そして列の1人1人に挨拶するように、Negiccoが歌いながら練り歩いていく。

嘘でしょ、もう1曲やるの?
ここまでやってくれるのか。
1回目のステージ開始からもう6時間近く経っている、1部の特典会終了の時間を考えると、1部と2部の間にほとんど休みはないはずだ。もう疲れ切っていてもおかしくないのに、それでも全力の笑顔を振りまいてくれる。

夕暮れのトワイライトタイムに、半円形に全員が1列に並ぶ長いラインダンス。まさにマジックアワー。
圧倒的な一体感からくる多幸感で、アンコール2曲目は終わった。

その日をきっかけに、参加できるNegiccoのイベントは全部行くぞとなり、足を踏み入れたことのないライブハウスや、東京アイドルフェスティバルや、あるいは地元新潟にも足を運ぶようになった。

その後、サンストリート亀戸は借地契約終了のため惜しまれつつ2016年3月に閉館となり、全国区で売れ始めたNegiccoはその閉館イベントのトリを超満員の観客とともに飾った。

それから約6年の時を経て、サンストリート亀戸の跡地には新しい商業施設「カメイドクロック」がオープン。
屋内イベントスペース「カメクロコート」と屋外イベントスペース「カメクロステージ」を有し、アイドルも含めた多彩なステージが日々展開される、この場所の歴史がしっかりと継承されている。
カメイドクロック公式サイト|KAMEIDO CLOCK

閉店したルノアールの近くのドン・キホーテで初めてのキンブレを買って、今日も私はアイドル現場に向かう。
昔も今も、亀戸はアイドルの登竜門。
さあ、もう一度ここから。ココロ躍る時を刻もう。



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