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令和の歳時記 カンアオイ
カンアオイは冬に咲く花の代表格だ。深々と雪が降る寒い季節に花を咲かせる珍しい花だ。咲き始めは白いが徐々に赤褐色になる。
大きさは2センチ程。比べて葉っぱは実に神々しく光っている。緑色の大きなハート形の葉っぱだ。
その葉っぱに囲まれて地べたに密着するように何本も咲いている。この花を観察するには多少衣服が汚れようが腹ばいになってみるのが一番良い。
夏の背の高い花のように人間の目線で見るより冬の花は動物の様に横から見る事によってその魅力がわかる。
花の上には枯れた木の葉が覆い隠し何か害敵から身を守っているかのよう見える。臭いはどうだろうか、菜の花のように強烈な臭いをだすのだろうか?
私はカンアオイに近付き臭いを嗅いでみたがまったく臭わない。おそらくこの季節には蜜を集めるチョウやミツバチがいない。
しかし例外もいる。ギフチョウの幼虫だ。春に生まれたギフチョウは幼虫からサナギになり越冬している。
幼虫の間カンアオイの葉っぱを食べる。しかしその頃になると花はすっかりと枯れて葉っぱだけが残る。
カンアオイは誰にも邪魔されることなく冬の寒さの中誇らし気に咲き誇る。名前の由来は『寒葵』という。
冬でも葉が枯れずその形がアオイに似ているから。夏に咲くタチアオイの冬版である。万葉集にはアオイを歌った歌が一首ある。
「梨なつめ黍に粟つぎ延ふ田葛の後も逢はむと葵花咲く」アオイは古くはアフヒと呼んだ。日を仰ぐことから付いた。
このカンアオイも冬の寒い間太陽の光を必死で仰いでいる。その姿は可憐ではあるが春の到来を待たずにはいられない様子である。