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令和の歳時記 アオスジアゲハ

秋が深まると空を見上げるのが楽しい。朝は真っ青な色で私の頭をスッキリさせてくれる。

昼過ぎになると、どこからともなく羊雲が現れて何匹もの子羊を連れて泳ぎ始める。ほのぼのとした光景に心は和み、終いには緩んでしまう。

もちろん仕事のことなど忘れてしまって、ただぼんやりと眺める。
夕暮れ、柿色に光る魚のウロコ状の雲は切ないような、懐かしいような気分に導く。

渡り鳥らしき鳥が、雲の隙間に見え隠れして冬の到来を告る。夜は毎夜、初めて目にするいろんな雲が月を横切り、赤、黄、青の変幻自在な月明かりを地上に降ろすから、神秘的な気持ちになれる。

一日でこんなに空を楽しめるのは晩秋だけかもしれない。

秋型のアオスジアゲハはどちらかと言うと昼の青空に映えるチョウチョだ。名前もそのまま黒い翅に青い筋が通るアゲハ、に由来する。

花から花へ舞うスピードは思ったより早い。夢中になって追いかけて行くといつの間にか藪の中だ。やっと花に止まったかと思うとすぐさま藪から出て行く。

私も急いで藪から出る。しかしこのチョウは青い空に吸い込まれるように高く飛び去ってしまう。「あー、またか」と地団駄(じだんだ)を踏む。

夏なら汗でびっしょりになるが、今は額が少し汗ばむくらいだ。秋風がひと吹きし、体がヒンヤリして気分は爽快だ。

ふと気付くと、私の衣服にはたくさんの植物の種子がくっついていた。一つずつ取って地面に落としてやる。

これは植物の種の繁栄の罠に嵌ったのか、それともアオスジアゲハの悪戯なのか? いや、どうやら私は種の繁栄を目指す植物たちと、植物から恵みを得ているアオスジアゲハの連携プレーに嵌ったらしい。

自然は面白い、空を見上げながらつくづく感じた。

分布●本州以南
生息地●平地、低山地の田畑、林縁
繁殖期●5〜10月  
大きさ●50〜60㎜
学名●Graphium sarpedon
和名●アオスジアゲハ(青条揚羽)


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