令和の歳時記 シマヘビ
小学生の頃は友達とヘビを捕まえて振り回して遊んだ記憶がある。
純粋無垢だった少年は疑うことも知らず目に入る物すべてをありのまま受け入れたのだろう。今は無理だ。この季節の水田は嫌になるほどヘビに出会う。
その度に悲鳴を上げ飛び上がってしまう。しかし今回、わたしはとても貴重な体験をした。最初は恐怖、最後は祝福、そんな出来事だった。
田んぼの畦道を歩いていると前方にシマヘビが体を伸ばして水に浸かっていた。体長1、2メートルはあろうか。
このヘビは日本全土に生息している。体に縞模様があることからこの名がついた。さて、わたしはいつものように驚いたが行く手を阻むシマヘビを棒ではたいて追い払った。
突然背後から「危ない、逃げろ」という兄の声がした。辺りを見回すとわたしを中心に前方から左右から3匹のヘビが泳ぎながらわたしめがけて近寄ってきた。
あっという間で逃げる暇などなかった。全身が冷たい感覚で包まれる。先ほど追い払ったヘビを前にして3匹がまるでらせん階段のように絡まり始めた。
恐怖のどん底に叩きつけられていたわたしだが事の次第がメスを奪うコンバットという行動で、わたしに敵意が無いとわかると体の力も抜けて一心不乱に観察した。
3匹の絡まったヘビはタンゴでも踊るようなリズムでメスにアピールしている。やがて1匹が脱落し2匹での争いとなった。
メスが突然泳ぎ始めた。2匹のオスは相変わらず絡み合いながらメスを追いかけている。
おそらくどちらかが目出たく交尾できるのだろう。
わたしはこのシマヘビの子孫を祝福するために再びこの田んぼを来年訪れるつもりだ。